第7話 邂逅

 7話




「どう?落ち着いた?三上さん?」


 僕は病院で叫んでいた彼女を連れ、近くのファミレスにいた。


「ええ、おかげさまで。」


 これほど心のこもらない彼女の声を聴いたことがなかった。


「「・・・・・」」


 きまずい沈黙が流れる。


(知り合いが暴言を吐いていたからつい、連れ出してしまった。)


 あのまま、彼処で叫んでいたら間違いなく、警察案件だっただろう。知り合いが目の前で連行とかやめてほしい。それに・・・


「それで、何か用かしら?天斗君?」


 沈黙を破ったのは彼女の方だった。


「なに・・・してたの?病院の前で?」


「あら?見ても聴いてもわからなかったの?」


「病院の前であんな暴言をどうして吐いていたんですか?」


 丁寧な口調で穏やかな表情で告げる。


「・・・・」


 答えは返ってこない。というより、伝えるかどうか迷っているのだろう。


「・・・・」


 僕は変わらす彼女をにらみ続ける。


 また、長い沈黙が二人の間に流れている。ドリンクバーの紅茶が冷めてしまうかもしれない。


「はあ~」


 10分はたっただろうか。またしても、沈黙を破ったのは彼女だった。


「とある医者が如何にヤバイやつか知らしめるためよ。」


「どうして、そんなことを?」


「・・・・・」


「いや、言わなくてもいいよ。想像はつく。発言の内容から。」


 冷めた紅茶に口をつける。


「察してくれて助かるわ。」


 そう言って彼女も冷めたコーヒーに口をつけた。


「今度は、こっちから質問。」


「ん、何?」


「どうして、私の邪魔をしたの?」


 怒りと憎しみが混じった声で質問を言う。


「どうしてって言われても・・・普通に考えて・・・」


 言葉を濁らせながら口ごもる。こんなことに怖気づくなんて情けない。


「どうせ、私が警察のお世話になるのを妨げようとしたんでしょうけど・・・」


「うん。まあね。というか、当然だろ。」


 正論に開き直って口調を強める。


「ホンっとに邪魔してくれたわね。」


「え?」


 思わず驚きの声が出る。


「それくらい、計算済み。いいえ、むしろ連行された方が良かった。そうしたら、母さんのことだって・・・」


 思わずしまったという顔をする。


「お母さんの医療事故について調べていた。けど、証拠が見つからなかったから、警察に調べてもらうためにあんな行動をしたってわけか。」


「そう。」


 うつむきながら、彼女はつぶやいた。


 事情は分かった。納得をした。でも、それは────間違っている。少し前の僕ならそう告げただろう。でも、今は────


「分かった。それで、提案なんだけど・・・」


「イヤ、正論・・なん、て・・・聴きたくない!」


「オレも協力させて欲しい。」


 彼女が思わず。顔をあげる。その表情には驚きと困惑そして、少しの安堵が見て取れる。


「え?い、いま、なんて?」


 彼女は聞き返す。当然だろう。普通の反応ではないし、彼女の知っている天斗という人間はこういったことを言えない人間だからだ。


「協力したいって言った。具体的に伝えるとオレも三上さんのお母さんの死の真相を調べたい。」


 困惑の様子を見て取れる。しかし、すぐに


「本気なの?」


 一転して、凄みのある表情に彼女は変わる。


「本気だよ。それとも、オレが三上さんの前で嘘をついたことがあった?」


「いえ、それは・・・訳を聴かせてくれる?」


「別に、同情とかそんな紳士的な想いがあるわけじゃない。ただ、最近キレイな世界が・・・実はそうじゃないことに気づいたんだ。だから、キレイにしたい。真実が知りたいって思ってる。」


「・・・・」


「これじゃ、ダメかな。」


「・・・・驚いた。」


「え?」


 驚いたのはオレの方だ。それにしても、今日は驚かされてばかりな気がする。


「天斗がそんなこというなんて、驚いた。ううん、決して馬鹿にしているとかじゃないの。ただ、私の知ってる天斗と違うから・・・」


 その反応は当然だろう。もう、以前のオレじゃ・・・


「4年会ってなかったらそんなもんだよ。」


「そうね、うん。そうかも。」


 納得した顔に変わる。この顔が好きだったのだと思い出す。


「正直、同情とか元カノの力に~とかいう理由だったらぶん殴ってやろうと思った。」


「・・・・」


「でも、違った。天斗がやりたいっていう気持ちなら信頼できる。」


 不意に彼女が立ち上がる。


「力を貸してください。お願いします。」


 頭を下げる。


「そして、一緒に真実を見つけるわよ!」


 顔を上げ、意気込みを告げる───


 彼女が手を差し出す。こうなったら、オレの気持ちも決まっている。


「ああ、こちらこそ。よろしく、必ず真実を突き止めよう。」


「よし、これで同盟成立ね。」


 その元気な声を聴き、ようやく、僕の知る彼女に戻ったのだと確信した。

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