第6話 誤算
黒田奈津美を粛清したオレは今椿原市民病院に来て、医者に説明していたところだ。
一応、救急車を呼んだのはオレだし、病院にまで付いて行き、事情を説明する義務くらいはあるだろう。まあ、オレが仕掛けたことでもあるが・・・
「はい、急に頭を抱えて倒れたので、僕、その・・・どうしたら良いのかわからなくて。それで、119番したんです。」
(巫山戯た演技だと思うが、無関係を装う必要があるしな・・・)
「何か問題でも、ありますか?」
医者の原さんは首を振り、笑顔で言った。
「全然、問題ないよ。どころか、君がいなければ、もっと事態は深刻になっていただろう。君のおかげで、ご家族とも連絡がついた。それに・・・」
「あの、ところで、黒田さんは何がきっかけであんなことに?」
遮るようにオレは質問をした。というのも、オレがここまで来たのは善行をなすためじゃない。SWの力で粛清した奴がどう診断されるのかが気になったからだ。
「ウ~ン。」
原医師は悩ましげに唸っている。見た目はズボラっぽい、冴えない30歳にみえるが、職業意識はしっかりしているらしい。いや・・・最近あった奴らがひどすぎたせいだろうな。
「・・・・・」
数秒の間が空き、口を開いた。
「そうだね、君にはそれを知る権利くらいはあるだろう。でも、口外してはいけないよ。」
「勿論です。さすが、大学生ですからそれくらいわかりますよ。」
当たり前だ、他の奴に言うはずがない。言う必要がない。
「よし、彼女の症状はいわゆる────脳梗塞だ。」
(やはり、そうか・・・・)
「特に重症でね、少しでも遅れていたら手の施しようがなかった。」
「え!?」
(なんて言ったこの人?それじゃあまるで・・)
「とは、言ってもこれから彼女は障害を持っていきていかなければならないだろう。それはそれで、辛い道だろうが、命あっての人生だ。できれば・・・おっと、すまない。君に言うべきではなかったね。先程、言いそびれたが、彼女が助かったのは本当に君のおかげだ。医師として心からの感謝を。」
途中からオレは話を聴いていなかった。
(あの女が・・・・・生きてる?オレのおかげで?・・・・)
「最近、脳梗塞関係の患者が増えていてね。先日も男性が一人・・・彼女はまだ、若いのにね。」
「ああ、じゃあ、僕はこの辺で失礼します。もう夜も遅いので・・・」
一目散にここから、逃げ出したい衝動に駆られる。汗が止まらない。この医師に動揺を悟られていないだろうか?
「それと、彼女の家族がお礼をしたいと・・・・」
「いえ、大丈夫です。そんなことのために救急車を呼んだわけではないので。失礼します。」
有無を言わさない態度でオレは待合室を後にした。
(なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?・・生きている?粛清できたんじゃないのか?粛清?粛清?まさか・・・社会からの粛清というだけで、命を奪うものではないのか?)
アプリを起動する。画面には粛清終了の文字と報酬460万円の文字、そして、ランク6への昇格の通知だけ。
────とはいえ、復讐は果たしたんだ。医者の話では、まともな生活は送れないようだし、命を奪うよりも、与える絶望は大きいはず。
そんな、思考で安心を覚える自分に嫌気がさす。
「スーハー。スーハー」
深呼吸をして息を整える。頭を、身体の熱を冷ます。
「よし、帰ろう。」
こんどこそ、オレは病院を後に・・・
「あの医者は最低なヤロウよ!医者のいいえ、人間のクズよ!!!絶対、絶対に殺してやるんだから!!!」
聞き覚えのある声が病院前を駆け抜ける。
・・・後にすることはできなかった
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