第3話 救世主が目覚めた日

 ホントだった、────本物だった。───このアプリ。


「フフフハハハハハ」


 思わず、笑いがこみ上げてくる。


「僕が、僕がやったんだよな。」


 動悸が、震えが・・・・止まらない。


 こんな、状態で大学に行ったのだがすぐに帰宅を命じられ、今家にいる。


「脆い神経だな・・・我ながら」


(一人殺しただけで、この有様か。)


『ビービー』


 スマホの画面を見る。


 ─初粛清おめでとうございます。これで、世界が救われました。記念すべき初粛清を記念して、726万円贈呈します。これからも、世界を救うために頑張っていきましょう。─


「ふん、世界が救われた?。ハハ、あの男、矢不一止の粛清報酬が4800円なのにか?」


(あの、男はあの夜あいつが食べた食事代と同じとはな。僕はあの程度の価値の男に人生を狂わされた男ってわけか。)


 ─────辞めた方が良いという考えが浮かんでくる。論理的に、倫理的に、感情的に、常識的に、人として。─────


 そんな言い訳が思い浮かんでくる。今ならまだ、元に戻れると本能が叫んでいるのだろう。


 でも、もう戻る必要もない。きっと覚悟はできていたのだろう。朝あの現場にあったときから。いや違う───このアプリに会ったその時、その瞬間から────




 僕はこんな状況をこんな社会貢献ほうほうをずっと望んでいたのか?


 僕は・・・・今までは・・・人が社会がその連なりを美しいとさえ、思っていた。美しいものだと信じていた!でも、そうではなかった。本当は全部汚くて、キレイだと思っていたのは────些細な汚れの違い。


 それを美しいと感じていたんだ。でも・・・・人が、社会が行う、求める───規範、思想、行動の類は全てが汚れきっている。


 ワインの中に泥を入れると泥になるが、泥の中にワインを入れても泥のままだと言葉がある。


 泥にならないためには、泥に汚染されないワインになるか、清浄できるワインになるか。それとも・・・泥を清浄できる人間になるか・・・だ。


 泥があるのは仕方ない。悪人が悪業を成すのも仕方がない。人が・・・世界が・・・汚れていることだって仕方がない。だから、僕が・・・オレがこんな力を持ったことだって仕方がないことだ。だって、オレも、泥の一部で汚染されてきたのだから。




 ────そう、仕方がないことなのだ。だから、せめて、オレができることとして、こんなことをした世界のための恩返しふくしゅうとして、この醜い汚物にまみれた世界を救ってやろう────

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る