第4話 処刑台への道

 黒田、黒田奈津美。それが、オレの次の粛清対象だ。受験先の面接官の一人であり、あの夜店で喋っていたなかの一人の一人。


(あの女もヤバい思考していたし、そもそも、矢不と同意見のやつだからな。それに、もう一人の若い男、やつの名前も知っておきたい。職員であることは分かっているから実際に窓口にでも行けば解るかもしれない。)


 でも、気がかりな点もある。


 このアプリ、SWの説明に粛清には縁が必要って書いてある。あの男は実際に会って話をしたという縁があったから、粛清ができたのだろう。だが、黒田は違う。あの女は面接官ではあったが、記録係兼受付係という役職についており、実際に話をしたわけではない。


 縁についての説明を載っていないし、どうしたものか・・・


 いや、そもそも、オレはこのアプリについて粛清について知らなさすぎる。


 もし、名前を入力してうまくいかなくなって粛清対象を2度と裁けなくなるくらいなら


 ───実験が必要だな。




「ふうー」


 実験を始めて2週間。大分、成果が出てきたな。ランクもこの期間で5になった。


 5になって追加された条項は


 11粛清は入力から30分~24時間以内に行われます。なお、ランクを上げることで操作可能となります。


 というものだ。


 そして、この2週間の成果をまとめるとこうだ。




 ────まず、ランクについては凶悪犯だから、上がりやすいというわけではなかった。縁がなければ、粛清は行なえないということだが、この支援アイテムを購入することで、粛清を行えるらしい。一個が100万するから、かんたんには使えないが、命の価値だと思うとずいぶん安いように思う。それに粛清すれば、報酬がもらえるから収支がプラスになることが多い。


 だが、このアイテムはいつまでも使えるわけではなく、ランク5になった途端に制限表示が出てしまい、使えない状況にある。


 ─────奇妙なのは、報酬の方だ、世界中のテロ組織のリーダーを粛清した際にはなんと500円しかなかったのに対して、死刑囚を粛清した際には1500万ももらえた。SWの価値観の判定基準がまだわからない。国籍?人種?が関係するのだろうか?


 次に縁について。やはり、これは直接ある程度の時間の対面が必要であるということが分かった。少なくとも、テレビでみたことしかない人は粛清ができなかった。


 具体的な時間はわからないが、矢不の一件からすると5分前後ということが分かっている。でも、こんなことより、もっと良い情報がある。縁は人と会わなくてもできるということだ。それが、分かったのは強盗殺人を行った、元プロ野球選手、篠ケ原光敏を粛清したときだ。




「おい、天斗見ろよこのニュース」


 大学のカフェで僕は新司とお茶をしていた。


「あの、篠ケ原が殺人、強盗の容疑で捕まったんだと。」


「へえー、あの野球選手の」


「そう、あの篠ケ原光敏。現役の頃は超が付くスーパープレイヤー」


「怪我さえなければ、メジャーでも活躍できただろうといわれていたな。」


「逮捕されったてニュースでネット上じゃ大騒ぎだぜ、天斗。」


「例えば?」


「そうだなー」『ファンだったのに失望した』『いつかこんなことする奴だと思っていた。』


「とか、辛辣な意見ばっかりだな。当たり前といえば、当たり前かもしれないが。」


「・・・・・・」


「どうした?」


「あ、いや、そういえば昔その人の試合を観に行ったことがあったなと思い出した。」


「へえー、よく覚えてんだな?」


「ああ、確かホームランボールゲットしたんだよ。記念すべき100号ホームランの」


「おお!まじか!今となっては逆に激レアじゃねえか?フリマアプリのデリバーで出品したらどうだ?就活の軍資金にはなるんじゃねえか?」


「馬鹿言え。そんな価値付かねえし、色々面倒そうだから、そんなことしねえよ。」


「まあ、お前そういうところあるよな。それにデリバー最近ヤバそうなんだよな。」


 新司がまるで自分のことのようにつぶやいた。


「なんか、あったのか?」


「ああ、最近大物転売屋が転売辞めたらしい。それも、大量に。」


「ふっ、やっとまともな仕事でも始めたんだろ?それに世間からの風通しも悪くなってるしな」


「まあ、そんなとこなのかもな。」


 暫くの沈黙。


 切り出したのは僕だった。


「じゃあ、僕はバイトに行くよ。」


「おお、そっか。頑張れよ!」


「ああ、ありがとう。」


 社交辞令的なきまりの挨拶を返す。


「なあ、天斗。」


「うん?」


「──────お前、なんかあったか?」


 ─────鋭いと思った。おそらく、僕の様子に違和感をおぼえたのだろう。


「いや、何も。強いて言うなら、また、不合格通知が来たくらいだ。」


 落ち着いて、動揺をさとられないように言う。


「そっか。」


 安心したような声を出す。


(ホントに良いやつだな、新司。もし、全人類がお前のように・・・・・)


「悪かったな、引き止めちまって。」


「なに。ここでの数秒なんて、大したロスでもない。じゃあ、行くわ。」


 そういって、オレは歩き出した。




 歩きながら、オレはあることを思い出していた。


(篠ケ原か。強盗殺人、60歳の老人とその孫8歳の女の子を殺害のうえ、現金数十万円相当を盗んで逃走か)


(どの程度の経験値、報酬になるのか。と思うが、オレと奴とは当たり前だが、会ったことがない?。)


 いや、オレは奴の記念すべきホームランボールを持っている。この巡り合わせも一般的に縁って言えるんじゃないか。


(もしかしたら───)


 オレはスマホを急いで取り出した。




 この結果からSWの求める「縁」とはその人に所縁のある物でも、粛清が行えるということだ。


 このルールが分かったのは凄く大きい。


 何せ、粛清対象者に直接会わなくてもいいと言うことが分かった。絶対にこのアプリのことは知られてはいけないから、痕跡は少しでもない方が良い。だとすると、気になるのはどこまでが、縁として機能するかだな


 黒田奈津美との縁としては奴の名刺がある。


「これで、粛清できるかどうかだな・・・」


 オレは躊躇うことなく、奴の名前を打ち込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る