紅の病

Reign

2人の病の入り混じり

少年は慟哭どうこくした ―――――


少年の名前は田中たなか みなと。現在高校2年生だ。そして、今日はなんにもない普通の学校、のハズだった。


「湊くん好きです。私と付き合ってください。」

そんな、僕の羞恥心をえぐるように休み時間の教室で言い放ったのは加々宮かがみや 琴子ことこだった。

クラス中から期待きたい羨望せんぼう(一部嫉妬に変わってるやつもいるが)の眼差しを向けられ、普通は断ることなどありえないであろう状況。だが、僕はその彼女の全力の告白に対し、

「ごめん。君とは付き合えない。」

クラス中が騒然とした。だが、何よりもショックを受けていたのは琴子だった。琴子は教室の真ん中で唖然としてしまった。

「ごめん、君が悪いわけじゃないんだ。ホントにゴメン。」

僕はいたたまれない空気に立ち止まっていられなくなり、教室を足早に抜け出した。


そう、これは僕の普通のハズだった日常が徐々に普通ではなくなる物語。


放課後僕は、モヤモヤした感情を抑えられず、自分でもわからないなにかを吐き出したくなり、屋上へと足を運んだ。

扉を開けると、そこには琴子がいた。僕の中で何時間も前の光景がリフレインしそうになった時、少し遠くを見ていた琴子が微笑んでいた事に気づいた。

「あっ。湊くんだ。」

何か用?とでも言いたげな顔でこちらを見つめてくる。

「ごめんね。好きでもない人に告白なんかされて迷惑だったよね。」

僕の目に映った彼女は微笑みながらもどこか物悲しげで、まるで罪悪感のような気持ちに襲われた。

平気なフリをしている彼女も、僕にはその気持ちがわかってしまってどうしようも出来ない僕はただ立ち尽くすだけだった。

5m先には彼女がいて、そんな彼女は10秒ほど俯いた後、一度後ろを振り返り、

「何も言ってくれないんだ。でもさ、せめてこれだけは聞きたいの。」

「、、、」

「私のどこがだめだったんですか?」

およそ当事者以外が聞くと、ただのめんどくさいやつなのだが、琴子は今ある気持ちをどうにかしようと必死で、湊も湊でここは逃げてはいけないと直感的に感じ、思わず話が広がることになってしまった。

「別に、加々宮さんが悪かったわけじゃないんだ。ただ僕は、、怖くって、、、」

「私って怖かったですか!初めて言われたので、参考になりますっ」

「違うよ。そうじゃなくて僕自身の昔の経験からかな。ちょっとしたトラウマで、ね」

「それって、どんなことですか?教えて下さい!」

(なんだこの人、普通人がトラウマって言ってるんだから、それ以上聞かないだろ)

「いや、ちょっと言いづらいことなんだ。」

「教えて下さい」

「ごめん。無理だ。」

「教えて」

「無理です」

「ください」

「だから、無理だって〜〜〜〜〜」



こうして、言い合いを繰り広げた後、押され負けた僕は、

「実は、前に付き合っていた人に裏切られて、それで、色々あって、高1の途中で転校してきたんだ。」

「そうなんですね。それは古傷を抉るようなことをしてしまいました。」

(ん?あー。もしかしてこの人トラウマって言葉の意味わかんなかった感じか!そりゃ、しょうがない、のか?)

「えっ、ていうことはそれが原因で振られたんですか。ならば、私のことを信用してもらえれば、オーケーってことなのでは?」

「まぁ、間違っては無いけど信用できなかったから振ったんだ。今更、、」

まるで小動物のようなかわいい唸りをあげた後、彼女はこう言い放った。

「じゃあ、試しに1週間付き合ってみません?それで信用できるかどうか決めてください。」

(え?何言ってんのこの子。まじで?)

だが琴子の目からは溢れ出んばかりの誠意とやる気で、一日に二度も振るというのはさすがに、湊の心も傷ついたため

「じゃあ、一週間な、それだけだぞ。それで、僕が信用できると判断出来なかったら、その時は」

「はい。わかってます。その時は切り捨ててください。まるで何もなかったかのように。」

「じゃあ、よろしくね、加々宮さん」


キーンコーンカーーンコーンー


その後の帰り道、湊と琴子は一緒に帰った。


「ちなみに一つ言っておくけど、仮にでも僕たちが付き合ってることは内緒だから、僕達の中の秘密だ。」

「え〜なんでですか?」

「普通まだ仮なんだし、言わないだろ。それに変な噂がたったらイヤだし。」

「むぅぅ。まぁいいです。逆に秘密って言うとドキドキしますし。」

(ほ〜ん。出会って早々、惚気じみたことをかましてくれるじゃないか。)

などと思いながら、初めて一緒に帰るとは思えないほど、楽しく帰っていると気づいたことがあった。

「ていうか、なんで僕なんだ?」

「どういう意味です?」

「、、、だからなんで僕なんかを好きになったんだ?だって大して話したことも無かっただろ。」

「あーそれですね。ん〜。強いていうなら、、、あ!いけないいけない私、家こっちなのでそれでは!」

「う、うん。じゃあ。」

(え〜なにそれ反則だろ。いい感じの所で教えてくれないの!)




そんなこんなで日にちは流れ1週間が経っていた。


僕たちは1週間の間に意気投合してしまって、もはや湊は琴子と付き合ってもいいのではと思ってしまっていた。

そう、このときの湊は今この瞬間が幸せな時間だったため、昔のことを忘れてしまっていたのだ。


「湊くん。今日で一週間ですね。どうでした、私?」

「なんなんだ、そのぶっきらぼうな質問は。」

「えへへ。私は楽しかったので、このまま続けるのもありかなって。」

「続けるはずないだろ、何言ってるんだ君は、」

「、、、。そ、そうですよね〜なんかすいまs。」

「僕と付き合おう、加々宮。」

目の前の琴子はとても驚いた様子で、こちらを見ている。だが、この瞬間1番驚いたのは、湊自身だった。

頭で文字に起こすよりも先に、言葉になって自然と口から出てしまっていた。

その後目の前の琴子は顔を赤らめて、今まで聞いた1番大きい声で、

「はい!お願いしますっ」

と言ってきた。


帰り道、琴子にさっきのはずるかったなどと言われながらも、結局1週間前と同じように楽しく帰ったのだった。

そして、僕は『恋』という名の病にかかり、同時に別の病にもかかっていた。




その日の晩はどうも冷え込んでいた。めでたく付き合うことになり、浮かれていた湊は久しぶりに街へ繰り出し途中で中学時代の知り合いに会った。その後のことは、ろくに覚えていない。もともとアイツらが好きなわけではなかったし、どちらかというと嫌いだった。そんな奴らに連れ回され、帰ったのは22時くらいだった。流石に親に心配されたが振り切って、風呂に入りすぐに寝てしまった。



翌朝、目覚めなどあまり良いものではなかった。朝食の卵かけご飯にポン酢をかけ、かき混ぜていると、

「あら、怖いわね。家から結構近いじゃない。」

そう言ったのは、湊の祖母だった。湊の母は湊を産んですぐに亡くなってしまい、父親も中学の時に亡くなってしまっていた。

ゆえに、今は父方の祖母の家に住まっていた。祖父はというと、高1の冬に倒れてしまってから、ずっと入院生活なので、今はこの家に2人しか住んでいなかった。

そんな祖母の言葉でテレビをみると、昨日湊が行った街の近くで傷害事件が起きていた。

どうやら、全身殴打を受け、意識を失っていたらしい。

「そういえば、湊昨日ここの近く行ってなかった?」

「まぁ、行ったけど。でも僕の時はこんな事件なかったよ。」

「それならいいんだけど。。」



「おはようございます。」

「お、なんだ。加々宮か。」

「なんだってなんですか?ってなんか眠そうな顔ですね。」

「あぁ。あまり寝付けなくってな。」

「だめですよ、ちゃんと寝ないと。睡眠は健康の基本です!」

「そんなこと言って君も眠そうじゃないか、さっきから何回かあくびしてるぞ。」

「へへ。バレちゃいました。その〜、実はお弁当を作って来たんです。後で、食べませんか?」

(まじ!これこそ彼女持ちの特権!キターーー)

「そ、そうか。ありがとうな。」

内心で高揚しまくったテンションをおさえ、いただくことにした。

「じゃあお昼はいつもの場所だな。」

「はいっ。絶対に来てくださいよ。」

(そんな心配されなくとも、絶対に行くんだけどな〜)と思いながら、クラスに入り、それぞれの席に向かうのだった。

昼休みは琴子の作ってくれた、ふわふわのだし巻き卵という、僕の好みを抜群に見抜いたものを食べ、幸せに包まれていた。




そして、時期は早くも付き合い始めてから1ヶ月ちょっと経っていた。

その間、湊達は3回のデートを経て、学校では密かに噂になっているほどだった。


だが、ちょうどその頃、祖父が亡くなってしまった。

祖父は厳しい人だったが、ちゃんと褒めるときは褒めてくれる人だった。

そんな祖父が亡くなってしまい、湊の心には3つと1つ、大きな穴が空いてしまっていた。

その穴を塞ぎたくて、どうにかしたくて、湊は夜な夜な街を走り回った。そして、疲れ果ててそこからは何も覚えていなかった。。


朝、目覚めたら自分はリビングのソファーに横たわっていた。

そして、湊は目の前にある異物に気づいてしまう。残されたたった1人の家族である、祖母が亡くなっていたのだ。

しかも、よく見ると床には血が付着した包丁が落ちていた。

「ぐぅぅあああ。ど、どうして、、、」

その瞬間湊の中に埋まっていた心の中の物が全てなくなってしまった気がした。

「きゃあはは、、これはこれは随分と面白いことじゃないか!」


「何もかもなくなればいい、全て全てこの世から!」

湊は片手に包丁を持ち、街を疾走した。。。


次の日、1日休んだ学校にきちんと登校した。

「昨日は大丈夫でしたか?湊くん」

「少し具合が悪くってな、1日寝込んだら、多少ましになったよ。」

「それもですけど、事件のことです。男子高校生による連続殺人で死者が10人近く出てるんですよ。」

「あ〜なんかニュースになってたな。僕は寝てたからそんなの見てないけど。」

「もしかしたら、しばらく湊くんと遊びにいけなくなるかもですね。早く捕まらないかな〜」

「そうだな、早く捕まってほしいな。」

「なんか、急に豹変したように襲われたらしくって、人が変わったような感じらしいですよ。あれですかね?二重人格ってやつですかね?」

「へぇ〜〜そんなのあるのかぁ〜」


その日もいつもと変わることなく、一緒に帰り分かれ道で、帰る二人だったのだ。



プルルル、プルルル

家に帰ってから30分ぐらい経った頃だった、湊は機械音の呼び出しに応答すると、

琴子の母が出た、

「えーっと湊くんだよね。そっちにうちの子行ってない?」

「いませんけど。何かあったんですか。」

「最近何かと物騒だから、琴子が湊くんの家に行くっていったんだけど、ダメって言ったら、買い物に行くって言って出ていっちゃてね、、」

「ちょっと自分見てきます。」

その後の言葉は聞かず、心配になり家を飛び出してしまった。


だが、琴子は意外とあっけなく見つかった。

どうやら、湊の家に行く途中だったのだ。だが、そこには確実にいつもと違うところがあった。

「おいクソガキこっちに来い」

「そんなことより、その子を離せ!」

琴子は、がたいのいい男に掴まれていた。その男は1人ではなく4人のグループで来ていた。

「お前がうちの仲間殺ったのはしってんだ。まさかとぼけるなんてことはしねぇよな。」

「は。お前何言ってるんだ?僕が。人殺し?そんなわけないだろ。」

「こっちは証拠だってあんだ。今更知らないなんて、通じる訳ないだろ!」

どうやら湊は人殺しになってるらしい。そんなはずはないのだ。

しかし、証拠の写真を見せられた瞬間、急に普段の自分とは違う自分が流れ込んできた。

湊はまるでその光景を知っているように感じた。

「あぁ、そんなザコいたかもな。ザコ過ぎて特に覚えてなかったわ。」

「てめぇ、今ザコって言ったか?あぁ?どうやらしばかれてぇようだな。」

「お前ごときが俺に勝てると思ってるその思考がザコなんだよ。」

「おい、お前らその女しっかり見とけよっ!」



乱闘になった末、男たちを1分もしないうちに倒してしまった。

「てめぇ。ただで済むと思うなよ!」

「そうだよなぁ。わざわざケンカ売ってきてそんな相手ただで返すわけないよな。

せめて可哀想だから選択肢をくれてやる。

1.潔く自分達から死ぬ。2.俺に殺される。

さぁ、どっちを選ぶんだ?」

「そう易々と死んでたまるか!」

「まぁ、どっちにしろ楽に逝けると思うなよ。俺様に手を出したんだ。てゆうか、むしろ折角俺様の手で死ねるって言うんだ。ちっとは嬉しそうに感謝でもしやがっ」

その時、男の仲間の1人がナイフを持ち湊めがけて全力疾走してきていた。だが湊が気づいた時には、既に背中に衝撃が走った時だった。

「てめぇ、よくも。よくも。よくも。。よくもよくもよくも。。よくも!」

刺さったままのナイフを抜きそれで男どもを殺した。

1人目、2人目、3人目、

「さぁ、てめぇで最後だクソがぁぁぁぁ」

その時、聴き馴染んだような声が聞こえた。

「やめて湊くん、そんなの私の知ってる優しい湊くんじゃない。」

「どけ。俺はそいつは殺るんだっ」

鮮血が飛び散った。と、途端非常に大きな頭痛に襲われた。

目の前には赤い世界が広がっていた。

「あれ、僕はどうして、、こんなの僕じゃない。どうしてだぁぁ、グァッッ」

全身が燃えるようだった。意識は覚めたが、感覚は死んでいた。1番最初に殺したはずのやつが最期の力で、湊の足を刺してきたのだ。

「琴子、僕はどうして。いや、僕はやってないはずだ。きっとこれは何かの病でおかしな物を見させられてるんだ。そんなはずは、せめて、最期にもう一度君の卵焼きを、、。」


その後、その場所は一体が紅に染まった。


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紅の病 Reign @yuonmi_Emaru

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