W Ⅰ-Ep2−Feather 15 ―The second part ―

 エリンシェは〝羽〟を広げると、新しい「力」を手にした〝彼〟の隣に並んだ。〝疾風の弓矢ゲイル〟を手にしただけで、がらりと変わった〝彼〟を見ていると、思わず胸が高鳴っていた。……今なら、ふたりでこの場を切り抜けることができるだろう。

「さあ、ジェイト。 ――反撃開始だよ」

 〝彼〟――ジェイトに向かってそう声を掛けると、エリンシェはゼルグをにらみ付けながら、〝聖杖ケイン〟を構えた。

おかえり・・・・、エリン〟

 そこに、アリィーシュが〝ステッキ〟を手にしたまま、合流した。エリンシェは「ただいま」と短く返しながら、思案する。

 恐らく……「力」を手にしたジェイトが新しく加わったとはいえ、まだゼルグと渡り合うことはできないだろう。エリンシェは一度、【薬】を盛るために連れ去られたあの時、【敵】の強さを思い知ったのだ。いくら三人掛かりとはいえ、まともに戦っても敵わないだろう。それに、ゼルグとヴィルドがまるで一体・・のように動いているのも気に掛かる。心なしか、一体・・の時は【敵】の【力】も強くなっている気がしていた。やはり、アリィーシュが言っていたように、この場から切り抜けるという選択肢しかないだろう。

 そうこうしているうちに、ゼルグが体勢を立て直し、【鎌】を構えていた。【彼】のその表情はどこか涼しげで、余裕がありそうだった。

 ――やはり、後退だけでは足りないのだろう。せめて、怯ませないといけないのだろう。そう考えながら、エリンシェは〝聖杖ケイン〟を握り直した。

 ふと、ゼルグがニヤリと笑いをこぼすと、漆黒の翼を広げこちらへ向かって来た。すぐさまエリンシェは前に出て、間髪入れずに飛んで来た【彼】の攻撃を受け止めた。

「……つまらないなぁ。 あのまま、ボクら・・・のモノ・・・になってれば良かったのに」

 そうささやくゼルグに寒気を感じながら、エリンシェは【鎌】を何とか跳ねのけた。その一撃だけで圧倒的な【力】の差を改めて実感させられた。何とか打開策を探っていると、そこに、援護するかのように、ゼルグに向かって矢が放たれた。――ジェイトが〝疾風の弓矢ゲイル〟を射抜いたのである。

 その矢を、ゼルグが今度は安々と手で受け止めると、またニヤリと笑みを浮かべながら、ジェイトの方を向いて言った。

「キミもただのヒトなのに、このボクに歯向かうなんて……。 さすがに少しは・・・驚いたよ」

 あまりに冷たいで話すゼルグの表情に、思わずエリンシェもジェイトも後ずさりする。……駄目だ、やはり今のままでは到底勝てそうにない。

〝「聖光オレオール」!〟

 そんなエリンシェの不安を拭い去ろうとするかのように、アリィーシュがそう唱えながら、〝ステッキ〟を思い切り振った。そして、〝聖光オレオール〟によってゼルグを少し後退させると、振り返って力強い口調で言った。

〝大丈夫、あなたたちふたりならできるから。 ――さあ、エリン、もう一発いくわよ〟

 アリィーシュのその言葉にはっとして、慌てて〝聖杖ケイン〟を構えると、エリンシェは意識を集中させた。

「〝聖光オレオール〟っ!」〝「聖光オレオール」!〟

 ――そして、アリィーシュが合図したおかげで、彼女とほぼ同時に〝聖光オレオール〟を唱えることができた。二重の〝聖光オレオール〟に直撃したゼルグが今度は大きく後退した。その隙をついて、エリンシェはジェイトのすぐそばまで走った。

「ジェイト、〝疾風の弓矢ゲイル〟を構えて。 私が〝力〟を送るから、合図したら思い切り矢をって」

 すぐさま「分かった」とうなずくと、ジェイトが〝疾風の弓矢ゲイル〟を構えた。エリンシェは〝彼〟に肩を寄せながら、〝聖杖ケイン〟を弓矢の方を向けた。

 やはり、ジェイトのそばにいるだけで、エリンシェは〝力〟と勇気が湧いてくるような気がした。そして、心も落ち着いて、あたたかい気持ちになる。無事にココを逃げ出し、この「思い」を必ずジェイトに伝えなければならない。――そのためにも、この一撃で決めてみせる!

 そんな決心を、エリンシェは〝聖杖ケイン〟に伝えた。……気のせいだろうか、まるでそれを了承するかのように、飾りがきらりと一瞬輝いたような気がした。

 ふと、体勢を立て直そうとしたゼルグがちょうど、ジェイトの真正面に立った。エリンシェは「ジェイト!」と小さく合図すると、ありったけの〝力〟を〝疾風の弓矢ゲイル〟に送った。

「――行けっ!!」

 ジェイトも全身全霊で矢を放った。すると、矢は先程よりも激しい風を巻き起こしながら、ゼルグの方へと飛んで行った。その途中、エリンシェの込めた〝力〟がまばゆいばかりの〝光〟になって、少しずつ強くなりながら矢と共に飛んでいった。

 〝光〟をまとった矢はまっすぐにゼルグの方へ向かい、【彼】にそのまま命中した。〝光〟をまともに受け、よろめいたゼルグに追い討ちをかけるように、激しく強い風が【彼】をなぎ倒した。攻撃を受けたゼルグはそのまま倒れると、しばらく動かなくなった。

「アリィ!」

 それを見た瞬間、エリンシェはアリィーシュに呼び掛け、〝聖杖ケイン〟を構えながら、ジェイトに手を伸ばした。すぐさま〝彼〟が手を取ったのを確認すると、エリンシェはジェイトの手を強く握りながら、目を閉じ集中させた。

〝学舎――「結界」を探すの〟

 中に宿ったアリィーシュの答えを聞きながら、エリンシェは言われた通りに、学舎の「結界」を探した。その途中、ふと、ミリアとカルドのことを思い出した。……きっとふたりにも心配を掛けてしまっただろう。無事に帰ったら、謝ってお礼をすぐに言わないといけない。そんなことを考えていると、エリンシェは目を閉じた暗闇の中にきらりと強い「光」が見えた気がした。――きっと、その方向に違いない。

(お願い、〝聖杖ケイン〟、私たちをココから逃がして!)

 そんな願いを込め、エリンシェは〝聖杖〟を高く振り上げると、地面に向かって強く振り下ろした。

 すると、〝光〟がエリンシェとジェイトを包み込んだ。そして、そのまま少し宙に浮かぶと、〝光〟はぱっと弾けて、その場から跡形もなく消え去ったのだった。

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