W Ⅰ-Ep2−Feather 12 ଓ 「仲間」 〜Side 〝J〟 ➳ supporting comrades〜

W Ⅰ-Ep2−Feather12 ―The first part ―


    ଓ


 ――ずっと、「誰か」を探している。


 気が付けば、〝彼〟は【闇】の中を彷徨っていた。

 ……どうして、こんなところにいるのだろう。――そう疑問に思うが、何も思い出せない。

 ただひとつ分かるのは、何か大切な〝もの〟を失くしてしまったような気がすることだけ。けれど、それが「何」だったのかは覚えていない。

〈大丈夫、しばらくはぼくが――を預かっておきます。 ……まだ覚醒めざめていないぼくには、それくらいしかできなくて申し訳ありません、あるじ様〉

 申し訳なさそうに〈誰か・・〉が〝彼〟にささやく。訳も分からなかったが、ひとまず、〝彼〟はうなずいてみせる。

 ふと、【闇】の中に、ひとつの〝光〟がみえた。

 何か、手掛かりがあるかもしれない。そう考えて、〝彼〟は手を伸ばした。


    ଓ


 ――そして、ジェイトは目を覚ました。

 ゆっくりと目を開け、まず最初にぼんやりと視界に入ったのは誰かの姿だった。状況が飲み込めず、しばらく辺りを見つめていると、焦点が徐々に合い始める。

 目の前にいたのは三人だった。見知った顔に、ジェイトは微笑んでみせる。――カルドと、ミリアと、……もう一人、女の子。〝彼女〟は心配そうにジェイトの様子をうかがっている。

 〝彼女〟と目が合うが、ジェイトは戸惑っていた。……どうしてだろう、〝彼女〟のことを知っているはずなのに、名前すら覚えていない。――「記憶・・」を辿ろうとしても、まるで【もや】が掛かっているようで、何も思い出せない。

「……君、誰?」

 思い切ってジェイトがそう尋ねると、見る見るうちに〝彼女〟は青ざめ、涙を流すと部屋を飛び出していった。――その姿を見た瞬間、ジェイトの心はずきんと痛んだ。……なぜだろう、〝彼女〟のことを悲しませてはいけないような気がした。

 慌てて、〝彼女〟の後をミリアが追いかける。理由も分からないまま、ジェイトは罪悪感に苛まれる。けれど、本当に〝彼女〟のことだけは思い出せなかった。

「なぁ、ジェイト。 お前本当に、エリンのこと覚えてないのか」

 部屋に残されたカルドが、どこか悲しそうな表情を浮かべながら、そう問い掛ける。その表情は自分をどこか責めているようにも感じて、ジェイトは一層心が痛む。

 「エリン」――その愛称なまえを耳にしても、やはりジェイトには何も思い出すことができなかった。ただ分かるのは、ジェイトだけは〝彼女〟のことを名前で呼んでいた、気がするということだけ。ジェイトはただ、首を横に振ることしかできなかった。

「……そうか」

 それっきり、カルドは黙り込んでしまった。悲痛で、どこか複雑そうな表情を浮かべている彼を見ると、ジェイトはより一層、罪悪感にさいなまれた。

 カルドの方を見ていられず、目のやり場に困ったジェイトは、〝彼女〟が走り去っていった扉を見つめて、物思いにふけった。

 ――君は誰……? 君のことをおもうと、どうしてこんなに胸が苦しくなるんだろう? ……なぜ、僕は君のことを覚えていないんだろう? いくら考えても答えは出ず、ジェイトは心がきしむのを感じたのだった。


    ଓ


 それから、一度だけ、〝彼女〟が遠目から、ジェイトの様子をうかがいにやって来た。

 あの時は顔をよく見られなかったから、思い出せなかっただけかもしれない。そう思って、ジェイトは〝彼女〟をじっと見つめたが、やはり〝彼女〟の「記憶・・」を辿ろうとしても【もや】が掛かるばかりだった。

 ジェイトが何も思い出せないことに気が付いたのか、〝彼女〟は悲しそうな表情を浮かべると、足早にその場を走り去ってしまった。その後ろ姿を目で負いながら、またジェイトは心が痛むのを感じていた。

 もしかしたら、〝彼女〟と話せば何か思い出せるかもしれない。そう考えてはいたものの、結局何も思い出せずに、〝彼女〟を悲しませることだけはしたくないと、なぜか強く感じて、ジェイトは〝彼女〟に話し掛けるのをためらっていた。あれきり、〝彼女〟の姿を見ることもなかった。

 〝彼女〟には何か「特別・・」な事情があるらしく、いつもカルドとミリアが側にいて、〝彼女〟を守っているようだった。そのため、ジェイトは近頃、独りになることが多かった。〝彼女〟のことを守るふたりの姿を見ていて、ジェイトは自分もふたりに加わらないといけないような、――自分こそが〝彼女〟を守らなければいけない気がしたが、やはりその理由は分からないままだった。

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