♯ 2−1
ଓ
――その笑顔に、どうしようもなく、「こころ」が揺さぶられた。
「神様なんか、誰も見たことない」
きっかけは誰かのそんな言葉だった。今となっては、彼――ガイセルはその言葉に感謝すらしていた。……それがなければ、「
物心ついた時から、ガイセルは祖父に歴史を色々と教わっていた。だが、彼の祖父はただ趣味で歴史を学んでいただけだったので、そのうちに、ガイセルの探求心は祖父を遥かに
「
教えることがほとんどなくなった祖父に、そんなことを言われたガイセルだったが、とてもじゃないが「その日」を待っていることはできなかった。
ついには待ち遠しくなって、ガイセルは自力で勉強を始めた。たくさんの本を読んで、テレスファイラと神々の関係が深いことを知った。――だが、周りはそのことをあまり受け入れず、それどころか「誰も見たことがない」と否定もされてしまった。
悔しくなったガイセルはどうにかして本物の神様に逢おうと決心した。そんなある日、代替わりした大賢者が賢者を選び終えたので、もうすぐ儀式が行われるという噂を偶然聞きつけた。ガイセルは思い切って学舎の近くまで行くことにしたのだった。
――そして、〝女神〟である「彼女」と出逢ったのだった。
ふと「彼女」が空を飛んでいる姿を見掛けて、ガイセルは胸が高鳴った。声を掛けてみたいとは思ったが、それはさすがにできないだろうと諦めていた。ところが、「彼女」はガイセルの元に降り立ち、あろうことか声を掛けたのだ。
〝こんにちは〟
「彼女」の神々しく、神秘的な姿に思わず見とれていたガイセルだったが、まさか話し掛けられるとは思っていなかったので、驚いてあたふたしてしまった。声を掛けられたのも気のせいかもしれないとさえ感じて、ガイセルは「彼女」から目を逸らし、うつむいた。
そうしていると、ガイセルは冷静さを少しずつ取り戻していった。……じろじろ見てしまったのはひょっとすると失礼だったかもしれない。そんなことを考え反省していると、祖父に言われた「挨拶はきちんと返しなさい」という言葉が急に思い出された。ガイセルはこれ以上失礼があってはいけないと、口を開いた。
「……こんにちは」
それは驚くほど小さな声で、ガイセルは自分でも情けなく思えた。恥ずかしくなっていると、ふと、「彼女」が笑いをこぼしていた。はっと息を呑んで、ガイセルは顔を上げ、また思わず「彼女」をじっと見つめた。
――すごく、綺麗だった。「彼女」の笑顔に、どうしようもなく「こころ」が揺さぶられた。
何を思ったのだろうか、それから「彼女」は少しの間ガイセルと話を続けた。
最初は、ガイセルも神と会話をしているとは信じられずにおどおどしていた。神に逢いたいと思っていたと「彼女」に伝えると、意外な答えが返って来た。
〝そう。 だけど、私にも
「彼女」に何があったのか、気になって仕方がなかったが、きっとたまたま逢っただけの自分には教えてはもらえないだろうと感じて、ガイセルは「……そっか」とつぶやいて、それ以上追及することを諦めた。
けれど、ガイセルはどうしても、「彼女」の正体を知りたかった。――ガイセルは「彼女」がテレスファイラの守護神ではないかと考えていた。思い切って、自分の考えを伝えてみると、「彼女」は肯定も否定もしなかった。
〝……
やはり、「
「――どうすれば、またあなたに逢える?」
もし……「その時」が来るのならば、もう一度「彼女」に逢いたい。どうしてもそう強く感じて、ガイセルは思わずそんなことを尋ねていた。
〝……そうね。 学舎へ行って卒業しても、あなたが好きな「
少し考えて、「彼女」がガイセルに優しく微笑みかけながら、そう答える。
――その微笑みを見た瞬間、またどうしようもなく、「こころ」が揺さぶられた。「彼女」に強くひかれ、胸が高鳴った。
絶対に、ガイセルは「
〝それじゃあ、今度逢えたら、その時は私のことを「アリィ」って呼んで良いわよ〟
そう話して、「彼女」は「
「じゃあ、約束。 絶対にもう一度逢ってみせるから」
釣られたように「彼女」も微笑みながら、うなずいた。そして、別れを告げると、羽を広げてどこかへと飛んで行ってしまった。しばらく、ガイセルは「彼女」のいなくなった空を見つめていたのだった。
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