W Ⅰ-Ep1−Feather 14 ―The last part ―
ଓ
ジェイトの用事が終わると、エリンシェは彼とふたりで、丘へ向かった。アリィーシュは〝何かあればすぐに呼んで〟と言い残し、気を遣って席を外していた。
「ねぇ、ジェイト。 用事って何だったの? 側で見てても全然分からなかった」
道すがら、エリンシェはそう尋ねる。……あまり興味がなかったせいかもしれないが、エリンシェには何をしていたのか、見ていても分からずじまいだった。強いていうなら、試験――のようなものだろうかと思ってはいた。
「僕ってね、風属性の魔法が特に強いんだって。 先生達は授業の中でそう感じていたらしいけど、どれくらいなのか見てみたいって試すために、今日二人でそれを測ってたんだって。 結論としては、訓練すれば、もっと風の魔法に強くなるかもしれないからって、来年から特訓してみないかって誘われた。 ――僕、少しでも強くなりたいから、特訓を受けることにしたんだ。 そうすれば、少しでも君の『力』になるかもしれないしね」
そう言って、ジェイトが笑った。エリンシェは愛想笑いを返しながら、少し困惑した。――できれば、危険なことは避けてほしいのに。なるべく独りにはならないと約束はしたものの、やはりエリンシェは、周りの誰かを巻き込みたくないと強く感じていた。そして、皆を守りたいという気持ちもエリンシェの中に強くあったのだった。
……どうして、ジェイトはそこまでしてくれるのだろうか? そんな疑問がエリンシェの中に浮かぶが、本人に直接聞いてみる勇気は湧いて来なかった。何でもない――と言われてしまった時のことを想像すると、とても恐ろしかった。……自分は一体「
「それで……話したいことって?」
丘に着くなり、ジェイトがそう切り出す。彼の中でも、予想がついているのだろう。その表情は少し複雑そうだった。
余計なことを考えるんじゃなかったと、エリンシェは後悔した。……せっかく振り絞った勇気が縮こまりそうだ。そうなる前に、エリンシェは深呼吸して、やっとの思いで口を開く。
「ねぇ、ジェイト。 あの、ヴィルドに言ってた『僕の大切な〝ひと〟』って……どういう意味?」
言い終えた瞬間、エリンシェは心臓が早鐘を打つのを感じた。ジェイトの答えを待っている時間も、とてつもなく長いような気がしていた。いつかと同じように、胸が締め付けられそうになり、息が苦しくなる。
「えっと……あれに深い意味はないんだ。 あくまで、『友達として大切』って意味だよ」
ジェイトの答えを聞いた瞬間、エリンシェは目の前が真っ暗になった気がした。……本当に、自分は「
「そっか……そうだよね」
生返事をしながら、ジェイトに顔を見られないよう、エリンシェは後ろを振り向いた。その瞬間には、もう涙が頬を伝っていた。……見られたかもしれない。
「ちょっと、気になってたから聞いただけなんだ。 ……ごめんね、わざわざ呼び出して。 私、そろそろ帰るね」
何とかそれだけ言って、エリンシェは走り出していた。……最悪だ。声も震えていて、きっと泣いているのが分かってしまったに違いない。明日から、どんな顔をして彼に会えばいいのだろう。
そんなことを考えていると、いつか感じたのと同じ「感情」がエリンシェの中に浮かんで来る。その「感情」は彼女の胸を痛いほどに締め付けた。その「感情」を一体どうすれば良いのか、今度こそ分からず、エリンシェは涙を流しながら、帰路につくのだった。
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