W Ⅰ-Ep1−Feather 12 ―The second part ―

 エリンシェも少し物思いに耽る。きっとアリィーシュは最悪の場合、グレイムが駆けつけることを計算に入れていたのだろう、その甲斐あって、今回は何とか難を逃れることができた。だが、「次」はそうもいかないだろう。それに、ゼルグは本気を出していないように思えた。戦うと決意したエリンシェだったが、今のままでは到底ゼルグにかなうはずもないだろう。今後、どうしていけば良いのだろう。ひとまず……――。

「――アリィ。 〝これ〟に関してはどうしたら良い?」

 そう言いながら、エリンシェは首元のペンダントを掲げる。まるで〝聖杖ケイン〟に変化したのが嘘だったかのように、今はごく普通のペンダントであるかのように静まり返っている。

〝これって確か、もらったのよね? それを渡したのって……〟

「僕です。 偶然、店で見つけたんです。 なぜか分からないんですけど、すごく心ひかれて……」

 ペンダントのことが気になっていたのだろう、ジェイトがアリィーシュの問いかけに、すぐに名乗りを上げる。

「――偶然ではない」

 不意に、グレイムが先程とは違った強い口調、声色でそう言い放った。

「――〝それ〟はとある神・・・・から託されたもの。 〝それ〟が相応しい者の元へたどり着くよう、ずっと働きかけていたのだ。 長い間彷徨さまよっていたが、〝それ〟自身が貴方を見つけ、そして貴方を選び取り、彼の手を借りることで貴方の元にたどり着いた。 無論、貴方は〝それ〟に相応しいといえるだろう。 ……『』がそう言っているよ」

 最後には元の調子に戻って、付け足すようにグレイムがそう話した。そして、何事もなかったような顔をしていた。……けれど、エリンシェはグレイムが違う口調で話す間、彼の側に在る〝気〟が一層強くなっていたことを感じ取っていた。

「それで……〝これ〟って結局、一体何なの?」

 ひとまずその件については横に置いておき、エリンシェはそう尋ねた。〝聖杖ケイン〟というものであるということは何となく理解していたが、まだ詳しくは聞いていなかったからだ。

〝「それ」は神々の「力」を増幅するための武器――「聖武器」の一つで、「聖杖ケイン」と呼ばれるものよ。 「聖武器」の中でも、その「聖杖ケイン」は創造するのが難しいとされていて、天界でも一つしか存在しなかった――はずだった。 ……エリン、あなたが「それ」を手にするまではね。 おまけに、その「聖杖ケイン」は最高峰の技術を持つ創造神によるものだと思う〟

 ……まさか、これが神々の使う武器の一つだったとは。エリンシェは驚いて、ペンダントを見つめる。ゼルグも驚いていたが、この〝聖杖ケイン〟を、神でもないただのヒトであるエリンシェに、使いこなすことができるものなのだろうか。そう不安になるのと同時に、エリンシェは、この〝聖杖ケイン〟がなければ、これから先ゼルグと戦っていけないだろうと感じていた。

「――難しく考えることはない。 現に、貴方はアリィーシュに教わって、〝聖杖ケイン〟を上手く使っていたはずだ。 ――ただ、貴方が願うことを〝杖〟に伝えるだけ。 それを繰り返していけば、自然と〝杖〟と一体になることができ、扱い方も戦い方も全て身についていくだろう」

 またもや先程の口調に戻り、そんなことを話したグレイムをじっと見つめながら、エリンシェは考える。やはり、感じれば感じるほど、彼の側に在る〝気〟はとても強い〝力〟を持つ〝もの〟――いや、きっと神なのだろう。しかも、その神のことを話す時、ゼルグが「御上」と、アリィーシュが「あの方」と呼んでいた。……エリンシェが思い付く限り、そんな神は恐らく「ひとり」しかいない。

「ひょっとして、大神おおがみ様、ですか?」

 グレイム――いや、彼の姿を借りたであろうその神が微笑を浮かべて、答えを口にする。

「――左様。 私の名前はディオルト、天界を統べる最高位の神だ」

 エリンシェは目を丸くした。まさかそんな存在と逢うことになるとは思っていなかったのか、ジェイト、ミリア、カルドも驚愕していた。

「――さて、改めて、自己紹介をしていただこうかな? 名前を呼ばれ慣れていないのでね、私のことは大神と呼んでいただければ結構」

「エリンシェです。 よろしくお願いします」

 自己紹介をした後、ジェイト、ミリア、カルドも名乗るのを聞きながら、エリンシェは少し頭の中を整理する。……確かガイセルは、守護神のいないテレスファイラを、代理の神が大賢者であるグレイムと守っていると話していたはずだ。――ということは、この場にいる大神・ディオルトがその代理の神になるということになるはずだ。

「大神様、アリィが封印されてから今まで、あなたがテレスを守っていたんですか?」

「――そういうことになるだろう。 ただ、『守る』といえるほど、大したことをしていた訳ではない。 私には天界を統べる役割もあって、ほとんどのことはグレイム殿に任せていた。 それに肝心の大賢者選びは、正式な守護神でない私にはできず、一時的にアリィーシュを喚び戻して行っていたのだ」

 ディオルトの答えを聞いて、エリンシェは納得すると同時に、一つ疑問に思ったことがあった。なぜ、大神であるディオルトがテレスファイラを守ることになったのだろうか。

「なんで、また……?」

「――それは……。 ずっとテレスファイラの守護神に相応しい神を探してはいるのだが、見つかっていないからというのが一つの理由だ。 未だ相応しい神を見つけられていないのは、私の力不足でもあり責任問題といえるだろう。 その上、守護神をもたない地は危ういのだ。 ――だからせめて、微力ながらもこの地のためにできることをしている。 それに、思うところが少しあってな・・・・・・・・・・・・……」

 思わずエリンシェの口から出ていた疑問に、ディオルトが口を濁しながら答えた。エリンシェは、彼の最後につぶやいた言葉が少々気になったが、聞いたところで答えてはくれないだろうという結論に至った。

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