W Ⅰ-Ep1−Feather 12 ―The last part ―

「――さて、エリンシェ殿の〝聖杖ケイン〟に話を戻そうか。 先ほどアリィーシュが話していた通り、その〝聖杖ケイン〟は、最高峰の技術を持つ〝聖武器〟の創造神であるアルジェクトによるもの。 話には聞いていたかもしれないが、彼は不運にも、あの邪神――ゼルグに襲われ、行方知れずになってしまった。 エリンシェ殿の〝聖杖ケイン〟は、その前に彼が創造していたもの。 ――最後の逸品とも言えるだろう」

 ディオルトの話を聞いて、エリンシェは思わず萎縮した。……どうして、そんな品が自分の元へたどり着いたのだろう。とてもじゃないが、エリンシェは自分とそんな〝聖杖〟とが釣り合わないような気がしていた。

「――良いかね? その〝聖杖ケイン〟は自ら、エリンシェ殿を選んだのだ。 相応しい者の元へたどり着くよう、私は少し〝力〟を使っただけ。 ……まさか、さすがに私も貴方の元へいくとは予想しておらんかったよ」

 自信なさげにしていたエリンシェに、ディオルトがそう話して励ました。そんな彼の言葉を聞いて、アリィーシュが顔を上げる。

〝やはり「聖杖ケイン」自身がエリンを選んでいたのですね。 アルの「気」を感じた時、そうではないかと思っていたのですが……。 それにしても、あの細工、よく出来ていて、私も初めは気が付きませんでした。 さすが、アルの創造したものは違いますね〟

 アリィーシュがそう話すのを聞いて、エリンシェは彼女をじっと見つめる。視線に気付いたアリィーシュが、優しく微笑むと、ディオルトと同じく、エリンシェを励ますかのように、大きくうなずいてみせた。

「――あぁ、あれはアルジェクトが、相応しい者が現れるまで悪用されないように施したものらしい。 私も最初見た時、驚いたよ。 ……エリンシェ殿、もし良ければ、アリィーシュに、神が使う術を教えてもらうと良い。 〝力〟のある貴方にも使えるものがあるかもしれない。 それと、〝聖杖ケイン〟のことで気になることがあれば、グレイム殿の元を訪れても良いだろう。 ――私が微力ながら力になろう」 

〝エリン、大神様は天界の中で唯一、「聖杖ケイン」を使っていらっしゃるのよ〟

 ディオルトに補足するように、話したアリィーシュの言葉を聞いて、エリンシェはまた目を丸くした。……まさか、天界を統べる大神だけが使っている「聖杖ケイン」を、自分が手にすることになろうとは。エリンシェはそう思って、また自信がなくなりそうになったが、少し考えを改める。……いや、ゼルグとの戦いで、これから戦っていくことを決意したではないか。そのためにも、この〝聖杖ケイン〟を少しでも扱えるようにならないといけない。

「ぜひ、よろしくお願いします!」

「――まぁ、力になれることはほとんどないかもしれないが。 先程も言ったように、〝杖〟にあなたの思いを伝えるだけなのだから。 私も『あれ』と上手く付き合うのには苦労したものだが……今では良い〝相棒〟だよ」

 まるで、「もの」ではない別の「何か」を相手していたかのようなディオルトの物言いに、エリンシェは思わずくすりと笑いをこぼした。その一方で、できるだけ早く、ディオルトに近付けるようにしなければならないと、エリンシェは感じていた。

「――エリンシェ殿。 私はこれまでと同じように、グレイム殿と協力して、できるだけこの地を守っていこうと思う。 学舎の結界も少し強めるつもりだ。 こちらもできるだけたくわえていたつもりだったが、こちらが思っているよりも、ゼルグは強力な上に凶悪でもあるようだ。 ――この先、どんな策を講じて来るかも分からない。 しばらくはゼルグも動いて来ないとは思うが……。 こちらもなるべく色々と尽力はするが、エリンシェ殿もできるだけ、独りにならないように用心してほしい」

 エリンシェは「分かりました」とうなずいてみせた。隣では、何かを決心したかのように、ジェイト、ミリア、カルドが顔を見合わせ、うなずき合っていたのだった。

「――ではまた」

 それだけ言い残すと、ディオルトがグレイムから〝気〟を消した。少しの間グレイムは目を閉じ、すぐに開くと、元の調子で微笑みながら、エリンシェに声を掛けた。

「そういう訳だから、ルイングさん、いつでも私のところを訪ねると良いよ」

 ――グレイムのその言葉を最後に、大賢者と賢者や生徒、人や神の混ざった、少し奇妙な組み合わせの話し合いは終了した。そして、それぞれ、帰路についたのだった。

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