W Ⅰ-Ep1−Feather 11 ଓ 〝覚醒〟 〜〝awakening〟~
ଓ
――不覚、だった。
長い間封印されていた身だったので、以前と比べると〝力〟が衰えている自覚はあった。――が、まさか、ここまでとは思わなかった。未だ身体が動かせない状況に、アリィーシュは口惜しく感じていた。
……けれど、【彼】――ゼルグがそれ以上に極悪でもあった。噂には聞いていたが、まさか「あの方法」を本当に使う邪神がいるとは思わなかった。そして、ゼルグに応じるヒトがいたことも驚愕だった。いま、この場を逃れても、さらに凶悪な策を講じてくるだろう。
それに、あの【鎌】――
アリィーシュはそんなことを考えながら、内心焦っていた。……早く、立ち上がらなければならない。いま、戦えるのはアリィーシュひとりだけなのだ。あの
そう思っているのに、身体は思うように動かない。何とか抵抗しようとすると、エリンシェのアリィーシュを呼ぶ声が聞こえ、彼女の声に耳を傾けた。
「――お願い、聞いて。 私、いま、決めた。 この〝力〟を、平和で
そんな決意を、エリンシェが口にする。息を呑んで、エリンシェに応えようと、アリィーシュは必死にもがく。少しして、エリンシェがこちらに視線を向けているのがわかった。何とかあがいて、身体を少しだけ動かすことができた。
少しずつ、ゼルグがエリンシェに近付いているのがわかる。エリンシェは戦う術を何ももっていない。急いで、動かなければならない。
ふと、アリィーシュはガイセルのことを思い浮かべた。彼はエリンシェの異変に気付いていた。察しの良いガイセルなら、グレイムの元を訪ねてくれているだろう。そうすれば――――。
そんなことを考えていると、突然、「何か」が輝き始めた。アリィーシュはどうにか身じろぎして、その方向を向いた。見ると、エリンシェが〝光〟に包まれている。
思わず、アリィーシュは目を見開いた。――エリンシェを包んだ〝光〟が、彼女の〝力〟をどんどん増幅していたからだった。……そんなことができる〝もの〟は一つしかない。
エリンシェの増幅した〝力〟はアリィーシュをも回復させた。そのおかげで、アリィーシュは身体が動かせるようになった。身を起こし、エリンシェを見つめる。
〝光〟が消えると、エリンシェの目の前にペンダントが浮かんでいた。恐る恐るエリンシェが手を伸ばすと、ペンダントは身の丈ほどある〝杖〟に
〝――「
……どうりで知っているはずだ。初めてペンダントを見た時、「そう」だと分からなかったのは上手く細工がされていたからだったのだ。――エリンシェの目の前に現れたのは、〝
〝
「……へえ」
アリィーシュが
〝エリン、その「杖」を掴んで! そうすれば、戦える!〟
我に返ったエリンシェが目の前の〝
――いま、〝彼女〟は〝覚醒〟へと一歩踏み出したのだ。
……いける。先程までは勝機を見い出せなかったが、一気に形勢逆転した。もはや、エリンシェの〝力〟の方がアリィーシュを凌いでいて、ほとんどアリィーシュの出る幕はないと言えた。だが、エリンシェが何とか〝
実を言うと、アリィーシュも自信がなかった。――なにせ、〝
ଓ
その〝杖〟を掴んでいると、エリンシェは勇気が湧いて来るような気がした。それに、彼女自身の中にある〝力〟が、増幅されていても、思い通りにできるようになったのがわかる。
ペンダントを贈った本人であるジェイトはわけも分からず、呆気に取られている。いまなら彼を逃がせるかもしれないと、エリンシェは思い当たった。
「いやぁ……まさか、ただのニンゲンが〝
我に返ったゼルグがそんなことを話して、【鎌】を握り直している。……いくら、この〝杖〟――〝
〝エリン、無理はしなくて良い! 今、あなたがどうしたいかを「杖」に伝えれば、それだけできっと大丈夫だから。 あとは「
ふと、アリィーシュがそんな突拍子もないことを言い出した。そんな無茶なと思いつつ、エリンシェは先端の飾りを見上げる。……気のせいだろうか、飾りがきらりと輝いた気がした。
でも、もし、本当なら――。エリンシェは目を閉じ、〝
すると、〝
「な……っ!?」
驚いて、ゼルグが動きを止める。そんな彼を見たアリィーシュが、「何か」を確信した様子で不敵な笑みを浮かべていた。
〝もう大丈夫よ、エリン。 ――後はグレイムと「
アリィーシュがそう言い終えると同時に、ゼルグに向かって閃光が降り注ぐ。慌てて、ゼルグがそれを避け、舌打ちをした。
「――おのれ、邪神! 我が学舎の生徒に手を出しおったな! 今すぐ彼から離れろ!」
いつの間にか、ゼルグの前に、大賢者・グレイムが姿を現していた。グレイムは怒りをあらわにして、ゼルグに杖を向けている。
ふと、グレイムの側に〝気〟を感じ取って、エリンシェははっと息を呑んだ。――それもただの神の〝気〟ではない、とてつもなく強力な〝力〟を持つ神のものようだった。
「お断りだね、コレは彼も望んだことなんだから。 ……さて。 〝
それだけ言い残し、ゼルグが身を翻す。グレイムの「待て!」という制止の声もむなしく、ゼルグがどこかへと姿を消した。
「グレイム様!」『エリン!』
ふと、学舎の方から駆け寄って来るガイセルと、ミリアとカルドのふたりの姿が見えた。エリンシェは振り返り、三人の方を見つめる。
気が付くと、〝
三人はまず、エリンシェの前で足を止めた。ミリアが「もう……エリン!」とこぼしながら、エリンシェに抱きつく。
「大丈夫だったかい?」
エリンシェがミリアを抱き返していると、ガイセルに声を掛けられる。すぐにエリンシェがうなずいてみせると、ガイセルも彼女にうなずき返して、グレイムの元へ向かった。
エリンシェはガイセルを目で追う。
「間に合いましたか?」
「いや、逃げられた。 さすがに〝彼〟もあの邪神のやり方に驚いていたよ。 ……アリィ、彼を助けられる方法は?」
グレイムの前に立ったガイセルは、彼とそんな会話を交わした。そこに、すっかり動けるようになったアリィーシュも加わる。
〝残念だけど、ゼルグは「彼も望んでいる」と話していたから難しいと思う。 グレイム、それに、ゼルグはどこかに潜伏してる――私、ずっと探れなかったもの。 【力】も前よりずっと強くなってる。 一体、これからどうなるのか……〟
口惜しそうに話すアリィーシュに、グレイムが「……分かった」とだけ返し、ふと、エリンシェの方を振り返った。
思わず、エリンシェは佇まいを正して、グレイムを見つめ返した。同じように、ジェイト、ミリア、カルドもエリンシェの横に並んで立ち、じっとグレイムを見つめた。
「さあ、皆。 ひとまずここを離れて、私のところへ行こう。 ……話はそれからだ」
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