W Ⅰ-Ep1−Feather 9 ―The second part ―


    ଓ


 ……ずっと、何か違和感を覚えていた。いつもなら一緒にいることもあるのに、その日は妙にエリンシェと距離を感じていた。

 そのことに気が付いたジェイトは、自然とエリンシェを目で追っていた。確信があったのは、午後の世界学の授業の時だ。世界学だけは誰と一緒に座っていても、いつも彼女は授業に集中していた。それなのに、その日だけは違っていた。

 ――授業を聞いているふりをしているが、全く集中していない。それどころか、何かに怯えているようにも思えた。そんなエリンシェの異変に気付いて、ジェイトは彼女を気に掛けながら、授業を受ける。……なぜか、エリンシェがどこかに消えてしまいそうに思えたからだ。

 授業が終わると、エリンシェがすぐに立ち上がって、独り教室を出た。いつものように、ガイセルの研究室へ行くのかもしれない。……気のせい、だったのだろうか? 首を傾げながら、ジェイトは教室を出て、寮室へと戻った。


「ねぇ、エリン知らない?」

 ふと、ミリアがジェイトとカルドの部屋を訪れ、不安そうにそんなことを尋ねた。思わず、ジェイトは身を乗り出しながら、首を横に振った。

「コンディー先生のところへ行ったんじゃないの?」

「うん、あたしも最初はそう思ったんだけどね。 でも、何だか、胸騒ぎがして……」

 ミリアの言葉に、ジェイトはカルドと顔を見合わせる。……気のせいではなかった。違和感を覚えたのは自分だけではなかったのだ。それが分かると、ジェイトも胸がざわついて、エリンシェのことが気に掛かり、落ち着かなかった。

「――行って来る」

 気が付くと、ジェイトはそう口にして、立ち上がっていた。すぐに寮室を出ようとしたが、「待って!」とミリアに呼び止められた。

「あたしも行く。 手分けしよう」

 同じくカルドもうなずいて、じっとジェイトの返事を待っている。振り返り、ジェイトが「分かった。 それじゃ先に行ってる!」と言い残すと、いてもたってもいらなくなって、駆け出した。

 とはいえ、ジェイトに心当たりは全くなかった。まず最初に、ガイセルの研究室を当たるべきだろうか。一度そう考えたものの、なぜか外に意識がいって、ジェイトは足を向けた。

 学舎を出た途端、ジェイトは背筋が寒くなるのを感じた。何か、恐ろしいモノの【気配】がする。ジェイトは深呼吸をして、その【気配】を強く感じる方向に進んでいく。すると、丘に続く森のほど近くへとたどり着いた。

 そこには、闇でできた球体が浮かんでいた。その球体の奥から、強く【気配】を感じる。……此処ココに、エリンシェがいる。なぜかそう確信して、ジェイトは勢いよく、その球体へと駆け出した。


 その次の瞬間、ジェイトは闇でできた空間に出ていた。驚いて足を止めたが、目の前に、エリンシェが怯えた表情で、見覚えのある少年に迫られているのが見えた。――考えるよりも先に、体が動いていた。

 少年が怒りに満ちた目で、ジェイトをにらみ付けている。……「あの時」と違って、今度は逃げられそうにない。だが、こちらも引くわけにもいかないのだ。もう、飛行学の一件の時のように、後悔しないためにも。そんな思いを胸に、ジェイトはその場にしっかりと、立っていたのだった。


    ଓ


「またお前か! 一体、お前は何なんだ!」

 苛立ちの混じった声で、ヴィルドが「あの時」と同じようにそう問い掛ける。〝彼〟――ジェイトは少しの間黙り込んでいたが、すうっと息を吸うと大きな声で言い放った。

「キミには関係ない! 彼女は僕の大切な〝ひと〟なんだ! ――誰であろうと、彼女にふれるのは僕が許さない!!」

 一瞬何を言われたか理解できず、思わず息を呑んで、エリンシェはジェイトを見つめた。きっと彼も【相手】がただ者ではないと分かっているはずだが、動じず、その場から一歩も離れようとしない。

「コイツ……!」

 ジェイトのその言葉をきっかけに、ヴィルドが感情に任せて動き出す。それに合わせて、ヴィルドの側の【気配】もゆらりと揺らめいた。

 ――何か、来る!! そう直感すると同時に、ヴィルドから大きな【力】が放たれた。急いでエリンシェは駆け出し、ジェイトの前に出る。彼女に合わせて、アリィーシュも動いた。

「――だめ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る