W Ⅰ-Ep1−Feather 6 ―The last part ―
ଓ
〝……いまのところ、女性の邪神は封印されているみたいだったから、警戒する必要はない。 だけど、もう一人の邪神は「羽」が生えた時から、確実に、エリン――あなたの存在を「悟って」しまっている。 ――もう【敵】は封印を破って、動き始めているのよ〟
アリィーシュの語ったことを受け止めきれず、エリンシェは呆然としていた。頭の整理もつかず、ただただ戸惑っていた。
「なるほど、君は【敵】の動きを探って、中々来られなかったって訳だね?」
〝そう。 念のため、エリンに会った時に少し「力」を「制御」しておいたの。 ――すぐには「覚醒」しないようにね。 あの後しばらくは、【敵】もエリンのことを探っていたと思う。 ……エリンを中に運んでくれて、助かったわ。 学舎の中にはグレイムが結界を張ってくれているから〟
「やっぱり。 そんな気がして、グレイム様に頼んで、この研究室の結界を一時的に強くしてもらっていたんだ」
〝ありがとう、ガイセル。 ここに来るまでしばらく、こちらも【敵】を探っていたんだけど、今は気配も見つけられなくて……。 何か企んでいるのかもしれない〟
ガイセルとアリィーシュのふたりのそんな会話も、エリンシェの耳にはきちんと入って来なかった。……【敵】が動き始めている、何か企んでいる? それはつまり――――。
「――それってつまり、戦うってこと?」
〝……残念ながら、そういうことになるわ。 でも、大丈夫、あなたのことは私が必ず守るから。 ――そのために、ここへ来たんだから。 いくら「力」があるとはいえ、あなたは「ヒト」だもの。 無理はしなくて良いの〟
思わずエリンシェが口に出した疑問に答えた、アリィーシュの言葉を聞いて、エリンシェは唸りながら、また悩んだ。……そんな簡単なことなんだろうか。確かに、いざ戦うとなると恐怖を感じる上、できれば戦いたくないとは思う。――が、エリンシェが戦わずに済む、なんてことが許されるものなのだろうか。
それに、エリンシェは誕生の予言を受けて、自分に〝力〟がある理由が何かあるのではないかという気がしていた。未だ戸惑ってはいるが、この〝力〟と向き合っていかなければならないのではないか。エリンシェはそうも思えていた。
「……どうして、私には〝力〟があるんだろう?」
〝なぜあなたに「力」があるのかは私にも分からない。 ただ、予言にもあったように、何らかの形で旧王国時代の姫に関係があるのかもしれないけど……。 ごめんなさい、はっきりとしたことは本当に分からないの〟
またもや口から出ていた疑問に、アリィーシュがすぐに答える。……それも、この〝力〟と向き合えば、いずれ分かることなのだろうか。漠然とエリンシェはそんなことを考えながら、先程気になったことをアリィーシュに問い掛ける。
「ねぇ、アリィ。 私も神様と同じように、〝心〟が大切だったりするの?」
〝――恐らくは。 どこまで私達神々と同じなのかは分からないけど、できるだけ負の心や感情は避けた方が良いと思うの〟
アリィーシュの答えを聞いて、エリンシェはまた考え込んだ。そうなると、やはり「心」が大事だということになる。どうあっても、〝力〟とは向き合っていかなければならないようだ。
……まだ戸惑っていて、不安や恐怖の感情はある。けれど、そんな感情を解消するためにも、エリンシェはある決心をするのだった。――ひとまず、この〝力〟を受け入れよう、後のことは少しずつ考えていこう、と。
「私、この〝力〟と向き合っていくことにする。 だけど、やっぱり怖いとか、そういう感情はあるから、戦えるかどうか、今はまだ分からない。 ――だから、これからよろしくね、アリィ」
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