W Ⅰ-Feather 5 ଓ 〝羽〟 〜〝wing〟〜

W Ⅰ-Ep1−Feather 5 ―The first part ―

 時が流れ、空が荒れ模様のある日。

 エリンシェはミリアとレイティルと共に、野外施設で飛行学の実践授業に臨んでいた。その日は男女別に分かれての授業が行われていて、エリンシェ達が先に実践を受けることになっていた。

 それまでは飛行の知識や理論を学んでいたが、いよいよ、実践を踏まえての授業が行われるようだった。まず、飛行の練習道具から実践を始め、行く行くは自分の杖を使って飛べるようになるのが目標だった。

 空を飛ぶということに、エリンシェ達は心躍っていたが、その日の天気はあいにくの曇り。今にも雨が降り、雷が鳴りそうな空模様だったが、中止になることもなく、エリンシェ達は野外施設に集められていた。皆、少し不安な気持ちで授業に臨んでいたのだった

「――では、今日から実践に入ります。 初めてなので大丈夫かと思いますが、練習道具を使って、低く飛んで下さい。 上手く飛べないと思ったら、すぐに降りて来ること。 降りたいと思えば、道具が勝手に降りるようになってますから」

 恐る恐る、エリンシェは練習道具にまたがってみる。それだけでは飛べそうになかったので、地面を蹴って宙に浮ぼうとした。すると、ほんの少しの間だったが、空を飛んだ気がした。

 隣に視線をやると、ミリアとレイティルも悪戦苦闘していた。二人とも、「難しいね」と苦笑しながら、飛行を試みている。

 もう一度、エリンシェは飛びたいと強く願いながら、地面を思い切り蹴った。――ふわり。今度は上手く宙に浮かぶことができた。

 ふと、心地よい風が吹き始める。エリンシェはその風に乗って飛んでみようと、意識を集中させる。すると、前に少し進むことができた。落ちることもなかったので、そのまま続けて集中する。

 そうしている内に、風は追い風に変わった。上手く追い風に乗って、しばらくエリンシェは宙に浮かび、空を飛ぶことができた。まるで、風が彼女を優しく包み込んでいるようで、エリンシェは飛ぶのを楽しく思い始めた。


 ――突如、眩しいほどの稲光が走った。


 あちこちから叫び声が上がり、飛んでいた少女達がすぐさま降りて行く。エリンシェも慌てて、飛ぶのを止め、地面に降り立った。

 すぐに避難しようとしたエリンシェだったが、なぜか、身がすくんで足が動かなくなってしまった。……何か、【気配・・】を感じる。――見られている・・・・・・

 恐怖に飲まれ、エリンシェはその場にうずくまってしまった。……逃げなきゃ、逃げなきゃ! だが、身体は思うように動かない。

 次の瞬間、とどろきが起こった。エリンシェはなぜか、雷――【ソレ・・】が、まっすぐに・・・・・彼女の元へ向かっていることがわかって・・・・、思わず目を強く閉じる。

 その瞬間、エリンシェの中で、何か大きな〝力〟がはじけ飛んだ。

「う……あっ!」

 あまりに大きな〝力〟に、エリンシェは自分自身でも制御できず、声を上げる。その〝力〟は【ソレ・・】を打ち消した。その反動に、辺り一面がまばゆい光に包まれた。

 光はすぐに消えたが、なおも〝力〟は収まらず、むしろ暴走を始める。やはり抑えることがかなわず、エリンシェは息が詰まりそうになりながら、後ろへとのけ反った。


 ――その刹那、エリンシェの背中から、真っ白な〝羽〟が大きく広がった。


 苦しさを覚えながら、エリンシェは自分の身体がひとりでに宙へ浮かんだのを感じた。……どこか遠くで、誰かが自分を呼んでいるのが聞こえる。だが、自分ではどうしようもできない。

 未だ抑えることのできない〝力〟に呑まれ、エリンシェは意識が朦朧もうろうとしていくのを感じたのだった。


    ଓ


「エリン! ――エリンシェ!!」

 その場にいた誰もが逃げ惑う中、ミリアだけは〝彼女〟の名前を呼んでいた。何度か名前を呼ぶが、その声は届きそうになかった。

 誰か、助けを呼ばなければ! 〝彼女〟の名前を呼ぶのを止め、ミリアは、いつの間にかはぐれてしまったレイティルの姿を探す。……が、見つかりそうにない。

「レイ、レイ!!」

「――ミリア!」

 一か八かレイティルの名前を呼ぶと、すぐさま、どこからかレイティルが姿を現し、ミリアの元に駆け付けた。

「あたし、どうしたら良い?」

 すぐに行動が起こせるよう、レイティルがそう尋ねて、ミリアの指示を待つ。うなずいて、ミリアは頭に浮かんだ人物を口にする。

「レイはコンディー先生をお願い! あたしは……〝彼〟を呼んで来る!」

 ……理由は分からないが、真っ先に、ミリアの頭に〝彼〟の姿が浮かんだのだ。そして、次に浮かんだのがガイセルだった。

 ガイセルの方をレイティルに任せ、ミリアは〝彼〟の元へ急ぐ。走り出す前に、後ろを振り返り、呟いたのだった。

「エリンシェ、待ってて!」

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