第34話 黒歴史ノート鑑賞会
「こんばんは、委員長。こんな時間にどうしたの?」
「私の……、その……、あ……、昼間は……すみませんでした……。そ、それで……、その……、あの……」
階段からオレ様がこっそり覗くと、玄関に、黒髪ロング眼鏡のいかにも陰キャげな女が、オドオドした態度で立ち尽くしていた。アレはたしか……、そうだ。ヴァイオラが通っている高校の、同じクラスの女だ。名前はそう、
「ああ! あのハムちゃんだよね。先生に見つかるとまずいかなーと思って、こっそり預かってたんだ。ごめんごめん、連絡遅れちゃって……」
「あの! そ、そうじゃなくて!」
イインチョが突然金切り声を上げた。
「わ、私、殺そうとしたんですよ!? あなたを!」
「あぁ、大丈夫大丈夫。わたし『悪魔』だから、そう簡単には死なないの」
「……え!?」
ヘラヘラしながらヴァイオラが返事をする。と、イインチョの顔色がみるみるうちに真っ青に変わっていく。ヴァイオラが
「はい、ハムちゃん!」
ヴァイオラは突然、ハムスター入りの籠を差し出した。小さな願いを自在に叶える
「!? い、一体どこから……」
「おなか空いてると思うから、ご飯食べさせてあげてね!」
イインチョは震える手でソイツを受け取ると、こくりと頷き、玄関のドアノブに手をかけた。籠の中では(オレ様たちの内通者となった)ハム之介が、オレ様に向かってサムズ・アップしながら、バチーン! とウインクを飛ばして来やがった。
――(バカ、流石にバレちまうだろーが!)と思ったが、イインチョはヴァイオラが恐ろしいのか、それどころではなさそうだ。後ろ手でドアを開け、一歩、ニ歩、と後退りして、恐る恐る悪魔の家から退出していった。
「また明日ね~」
ヴァイオラは何事もなかったかのように、にこやかに手を振りながら、イインチョを見送っていた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……。ヴァイオラ、このあと22時からアイツら三人の家に行くんだよな。輝空、ナッツ、鈴、――だったか。アイツらの『願い』を詳しく聞きに行くっつー話で。オレ様は留守番か?」
「悪いけどお願いね。でもすぐに帰ってくるから。へへ、ちょっと考えがあってね……。ふふっ……。バロック、明日の放課後、学校の屋上に来て頂戴!」
「ふーん? ま、楽しみにしとくぜ」
ヴァイオラは悪戯っぽい笑顔を浮かべながら、アイツらの待つ家に瞬間移動していった。……あ~あ、取り残されちまったぜ……。仕方ない、ゲームでもすっか……。
***
「ふごっ」
オレ様はびくっと身体を震わせた。今オレ様はヴァイオラの人間体に变化しているので、二度寝してうとうとした際、入眠時ミオクローヌスってヤツが発生したのだ。脳幹網様体がバグって、落下時の反射を手足に催させるという、あの入眠時ミオクローヌスだ。結果として、オレ様は目が覚めた、ってことらしい。ヴァイオラの身体は指が細長く、ゲームしやすくて非常に良いのだ。なので、寝落ちするまでプレイしちまってた、っつーわけだ。
「?」
机の上に書き置きがある。「放課後、来てね!」だとよ。ヴァイオラの字だ。アイツ、フランス生まれのくせして異常に綺麗な漢字を書きやがるな。文字なんざ、読めりゃなんでもいいのにな。ま、いいか。時計を見ると、既に午後3時を回っている。
(ふーむ、学校には流石に、ヴァイオラの姿のまま行くのはマズいか。元の姿に戻るとしよう……)
オレ様が念じるやいなや、ぽん! という音がキラキラした星のエフェクトとともに弾け、オレ様の姿はヴァイオラの姿から、愛くるしい二頭身の悪魔態へと変遷した。そう。白く美しい、然るながら若干の重力を感じさせる楕円球状の頭部に、大きな黒い二つのつり上がったお目々、赤い蝶ネクタイに黒いタキシードの、この姿にだ。「ぬいぐるみ」だの「ゆるキャラ」だの言い散らかす不逞の輩も多いが、これこそ、悪魔ドグネク族の由緒ただしき姿なのだ。
(――と、余計なこと考えてる時間ねーか。さっさと学校に向かうとしよう)
オレ様は昨晩のヴァイオラ同様、
「おっそーい! バロックやっと来た!」
「え!? あれって……バロックなの!?」
黒髪ポニテが、宙に浮くオレ様を指差しながら不躾に質問してきやがる。まったく、親の躾がなってねーな。
「オイオマエ、人様に指差すのはマナー違反だってママに習わなかったのか?」
「わー、ごめんなさい! ついうっかり……」
「あれがバロックの本当の姿なんだ。いつもは、わたしの事が好きすぎて、わたしの姿してるんだよ。ね、バロック」
「適当な事言いやがって……。それより、コイツらの『願い』をよ、詳しく聞いてきたんだろ? 魔女っ子に、特撮ヒーローに、悪魔使い……。それぞれ、どんな姿で、どんな能力が希望なんだ?」
オレ様が問うと、ヴァイオラはニコッと笑いながらブルネットのボブヘアを揺らし、三人に向かって手を広げた。
「へへ、じゃあみんな、出して!」
何やら神妙な面持ちの黒髪ポニテ、はぁ……とため息をつくピンクツインテ、額に汗を滲ませているボーイッシュ女の三名。……なんだ? どした? 三名は、それぞれ古びたノートやら、紙の束を手にしている。
「ヴァ、ヴァイオラ……。ほ、ほんとに、見せなきゃ……ダメ?」
「鈴、こんなの誰にも見せた事ないんだけど~」
「うぅ……、こんな事になるなんて……。帰りたい……」
ははあ。オレ様はピーンときた。
「わかったぜ。『願い』をより強く叶えるためには、その『願い』について詳しく記した文章、契約書とか、ある種の設計図――。そういった類の物があれば、なお良い。つまり、オマエたちが持っているソレのことだ。想像するだに、ガキの時分、純粋な『願い』のまま、己が成りたいものを一心不乱に書き記した、とあるノート……。ククク。そう、それは……」
そこまでオレ様が口にしたとき、屋上の端っこにある資材置場に腰掛けた
「黒歴史ノートか」
黒髪ポニテとボーイッシュ女の顔がボッ、と真っ赤に染まる。
「オマエ、人のセリフを取るなーッ! ――とはいえだ。確かに、いちいちヒアリングするまでもなく、そのノートさえあれば、非常に高い精度で『願い』を叶えることが出来るだろうな。どーせあれだろ? しょうもない『設定』だのなんだの、つらつらと書き記してあるんだろ? まさかバックストーリーまで書いてないだろーな?」
「~~~~ッ……」
「書いてあるのか……」
「けどさ、それさえあれば一発だからね!」
「ま、ドレスやらスーツやらはガキの絵だろーから、あとでオレ様がブラッシュアップしといてやるよ。――それじゃ、まずはオマエから行こうか……?」
オレ様は、ニヤァ……と悪魔的スマイルを浮かべながら、黒髪ポニテを指差した。ドキーン! というオノマトペをぶちかましながら、口をへの字に曲げた黒髪ポニテこと佐棚 輝空は、おずおずとノートをヴァイオラへ差し出した。
「よ、よろしくおねがいします!」
「うん、わかった。読ませてもらうね……」
「どれどれ……」
ヴァイオラとオレ様、そして他三名は、恐る恐るノートを開き、覗き込んだ……。
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『魔法少女☆スタァリーナイト』
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「く、くくく……。スタァリーナイト……」
「ちょっとバロック! 真面目に読んで! ごめんね、輝空」
「くうっ…………」
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――東京に住むごくふつうの少女、キア。
ある日、やみの世界からおとずれた悪のそしき、アクマージによって、東京は大こんらんになった。キアがアクマージのかい人におそわれたとき、なぞの魔法つかいにわたされたステッキで、魔法少女☆スタァリーナイトにへんしんした!
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「まー、ありがちだな」
「……でも、能力がいいよ。ここ見て。『倒した敵の力をマスコットにして、なかまにする』だって。しかも、『なかまの力を使える』……!」
ヴァイオラがノートの端っこに走り書きされたメモを指差し、そう指摘した。今後倒す敵の種類にも依るが、まーそれなりに、拡張性が高い能力ではありそうだ。下手に単一の『願い』を叶えるより、強力になりうる可能性が……、ないこともない。黒髪ポニテは少しばかり遠い目をしながら語る。
「あぁ……。思い出した。幼稚園のとき、なんで敵は倒さなきゃならないんだろう、って思ったんだ。私、けっこう敵側にも感情移入しちゃって……。みんな友だちになればいいのにな、って」
「あーわかる! 結構さ、敵側の方がハナシ深かったりするんだよね!」
「そうなの! ヴァイオラも観てたの?」
「フランスって日本のアニメいっぱいやってるからね」
女子ばっかだと話が脱線していけねえ。オレ様が修正する。
「まー、それはともかく、『願い』を叶え易い条件は整ったんじゃねーかな」
「そうだね、これだけ具体的なら……」
ノートには黒髪ポニテが成りたかったのであろう、『魔法少女』のイラストが描かれている。ニチアサにやってるような、いかにもドレッシーな雰囲気の女の子だ。ポニーテールを過剰に表現した真っ赤なヘアスタイル、膝丈のドレスに編み上げのブーツを履いて、クラウンをつけ、白い手袋を身に着けている。武器らしきものは見当たらず、徒手空拳で戦うヒロインのようだ。
「デザインもま、悪くはねーか。じゃ、ちょっと考えてみっか……」
オレ様がぶつくさ言い始めると、輝空は頬を染めたまま、次の順番を促した。
「わ、私のはもういいよね、そろそろ次の人に行っていいよ! ほら、早く~!」
「輝空、ありがと! じゃ、次は……」
はい、と手を挙げたのは、
「鈴の番ね」
「OK。読ませてもらうね……」
「どれどれ……」
ヴァイオラとオレ様、そして他三名は、怪しげな紋様が刻まれるノートを開き、覗き込んだ……。
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『
――これは近い未来の話――。機械から生まれた新世代の悪魔『メガル』を従える者たちの物語……。『メガル』を使って世界を支配するため、少女は立ち上がった。
――『メガル』とは。進化した機械が魂を宿し、悪魔となった姿。獣型、鳥型、魚型、人型、ドラゴン型と、ありとあらゆる姿をしている。
――『メガル』の持つ特殊能力について。従える『メガル』は様々な能力を持ち、武器化して装備することによって、その
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「わ、私のと違いすぎる……。ずるい……」
「おお、思ったよりマトモだった。普通にソシャゲでありそうだな、ヴァイオラ」
「うん、結構作りこんであるよね……。イラストもかなり……。こう、生き物と機械の中間みたいな雰囲気と、ディフォルメがちょうどいい感じに混ざってて……」
なるほど、イラストもかなり手が込んでいる。パッと見、開発中のゲームのデザインボードのように見えた。ま、よく見ると結構粗もあっけどな。
「ゲームとか作るつもりだったの?」
「鈴、そういうワケじゃないんだけど、なんとなく書きためてたんだ~。趣味?」
「なるほど、思ってた『悪魔使い』のイメージとは少し違ってたかな。あと――」
ヴァイオラは一瞬躊躇ったような仕草をみせ、うーん、と一息唸った。
「世界を支配、か……。鈴は、世界を支配したいの? それが本当の『願い』?」
ピンクツインテは動じる素振りも臆する気配もなく、あっけらかんと言い放つ。
「そうだよ~。鈴は、この世を支配したい」
ボーイッシュ女と黒髪ポニテが驚いた表情でピンクツインテを見る。
「……マジで!? 意外すぎるんだけど」
「でもまー、鈴らしい気もするといえば、するような……」
普段のポワポワした雰囲気はどこへやら、ピンクツインテは真剣そのものの表情。瞳の奥になにやら黒い炎が揺らいでいるのを、オレ様は見逃さなかった。なんかありそうだなー。ヴァイオラは特に、ソレ以上言及するつもりはない様子だ。
「うん、わかりました。鈴ちゃんにも何か思うところがあるってとこかな。『メガル』の仕様がちょっと難しそうだけど、なんとかしてみるよ(バロックが)。」
「……って、結局オレ様がやんのかよ! 構わねーけどよ……。んじゃ、最後は……」
「あたしの番か……」
「あたしのはお話とかではなくて、あくまでも、自分が変身したら、っていう妄想。なんでこれを書いたかというと、特撮ヒーローへの道を目指してるから。だから、本当にこの『願い』、叶えたい!」
ボーイッシュ女の宣言を受け、ヴァイオラとオレ様、そして他三名は、整然と文字が並ぶ書類を開き、覗き込んだ……。
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『
◆本システム
⇒ 本システムは全身を包むスーツに、各部アーマーを組み合わせたパワードスーツである。一般的な人間の身体能力を大幅に強化し、特殊能力を付与するのが目的。
◆変身システム ⇒『プラグデバイス/異世界プラグ』
⇒この世界とは異なる世界=『異世界』の力を宿した『異世界プラグ』を、左腕の『プラグデバイス』にセットし
◆『異世界プラグ』の詳細
⇒『異世界プラグ』は、1本に上下2つの端子を持ち、それぞれが異なる属性(ワールド/パワー)を備える。『プラグデバイス』には『ワールド』端子と『パワー』端子を挿入できるジャック(穴)が1つずつあり、計2本の『異世界プラグ』を挿すことができる。
◆『異世界プラグ』の種類(一例)
『エンシェント/マジック』⇒いにしえの世界と、魔法の力を宿すプラグ。
『フューチャー/テック』⇒近未来の世界と、超科学の力を宿すプラグ。
『アポカリプス/マシン』⇒終末世界と、機械生命の力を宿すプラグ。
◆変身後スペック (基本状態)
⇒ パンチ力:7.5t/キック力:12.5t/ジャンプ力:50m/走力:100mを1.0秒
備考:強化アイテムの使用でスペックアップ可能、etc……
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「ナッツ、すご……」
「お~、思ったよりガチ目なヤツだったぜ……。実際に特撮で映像制作することとか、玩具展開を念頭に置いてるのがポイント高いな。ガキにも解り易いネーミング、ギリギリ現実離れしない程度の丁度良さげなスペック設定、コレクションアイテムを使用した、かつ今まで出ていないギミック……」
ショートカット女は、マンガに出てくる少年のように鼻をこすった。
「へへっ、さっすが悪魔、よく分かってるじゃん。でも、まだストーリーとか、悪の組織とかは全然考えてないんだ。……といってもまあ、自分がなるなら関係ないか」「フン、どーせほっといても、他の『願いの悪魔』が現れんだろ。それより、『異世界プラグ』の仕様についてだが……」
ヴァイオラ達はまだ書類を眺めているので、オレ様は3人を放っといて、ショートカット女を質問攻めにする。
「2つの属性があるっつーことは、異なる『プラグ』同士で二本差しすれば、能力をミックスできるって解釈であってるか?」
「そう。例えば、『エンシェントマジック』の『ワールド』端子と、『フューチャーテック』の『パワー』端子を組み合わせることで、『エンシェントテック』の
「ふんふん……、了解」
オレ様がメモを取ると、ショートカット女は首を捻った。
「……でも、『異世界』ってどうなんだろう。実際、『願いの悪魔』もいるってことは、『異世界』も存在するの?」
「あー、そんなモン、ゴマンとあるから心配すんな。難しい説明は省くが、適当に良さげなところ見繕って繋げるからよ。実際、『魔法使いになりたい』みてーな『願い』は、そういう『異世界』からパワーソース引っ張ってきたりするしな……」
「へー! じゃ大丈夫そうだね!」
……実際は『異世界』というより、観測者であるコイツらが可能性世界の収斂している地点をどのように認識しているかの問題であって、その基準と見做しているのがこの2022年の現代文明であるというだけに過ぎず、ちょっと上の次元宇宙から観測すれば無数の可能性世界と時空間が重なり合っている状態だからな。ニンゲン1人の脳みそで想像できる、かつ個人規模に収まるレベルの事象を弄るなら、ハナクソほじるくらいの手間しか掛からなかったりする(但し、全世界に適用させるとなると、クソ程時間が掛かったりする)。
「……んで、左右の手足が変更になるのはワカったが、頭部・胸部アーマーは変わるのか? そのへんが変わらないと、視聴者から文句出るぞ」
「あ~、ごめん! まだデザインはそこまで煮詰めてないんだ」
「ナルホド……、了解。そのへんはオレ様の方で作っちまっていいか?」
「あーじゃあ、お願いしようかな。……ちなみに、バロックのデザインってどんな感じなの? 参考資料とかあったら見たいな!」
そこに黒髪ポニテとピンクブロンドが割り込んでくる。
「そうそう、私のコスチュームもいい感じにしてもらいたいし、見たい見たい!」
「鈴は自分で描いたけど~、実際どんな雰囲気になりそう?」
オレ様はヴァイオラにちらっと目配せをする。ま、実際に現物を見せてやったほうが良いだろうからな。屋上には他に人気はないので、このままやっちまおう。
「というわけでヴァイオラ、頼んだぜ」
「それじゃ、わたし達の変身、見せちゃおっか」
三人組が目を輝かせる。
「ヴァイオラ、変身できるの!?」
「ええっ!? ずるい!」
「あはは……。じゃ、行くよ……」
三人組がごくり……と固唾を飲んで見守る体勢に入った。ヴァイオラは瞳を閉じて精神を集中し、体表に光り輝く『翠緑』のオーラを纏わせる。
「コレは『願い』のエネルギー、『アストリオン』だ。コイツを起点に『願い』を発動させるんだ。オマエ達にも使えるようになってもらう予定だかんな!」
「……!」
ヴァイオラがゆっくりと目を開けると、瞳が『翠緑』の色に変化し、ブルネットの髪や制服が、風もないのにゆらゆらと舞う。
「『第1の願い』を発動。……『
宣言するや否や、オレ様の二頭身ボディがアーマーに変化。それこそヒーロー番組の変身シークエンスを想起させる手順で、全身を黒いスーツに包まれたヴァイオラの各部位に装着されていく。完成したのは、元の制服の意匠を残しつつ、SCI-FIな雰囲気が醸し出される、控え目なデザインラインを辿った、ヒーロー然とした立ち姿だ。
「……これが『
三人組は言葉を失ったまま、ため息をつきながらしげしげとヴァイオラ(とオレ様)を眺めている。と、ショートカット女が言葉を発した。
「必殺技とか、武器とか、フォームチェンジもあるの?」
「あるよ! 全部やると時間掛かるから、今度見せるね!」
「うわー楽しみ! ――うん。大丈夫かな、この感じなら。バロックに任せる!」
「鈴もOK~」
「私もー! お願いします!」
オレ様はうんうん、とうなずく。そして『装纏』を解除し、弾ける光の粒子と共に、オレ様とヴァイオラは元の姿へと戻った。
「んじゃ、来週までには一通り完成させとくんで、少し時間くれや」
「ら、来週!? そんなに早く出来るの!?」
「『設計図』があるからすぐに出来っちゃ出来るんだが、『アクマージ』、『メガル』、『異世界プラグ』の仕様を拡張したり、整理しときたくてな。多少イジるかもしれねーが、予め了承しといてくれ。――それと……」
オレ様はヴァイオラに一言頼んだ。
「流石に三人同時変身すると目立つから、どっか良いテスト場所探しといてくれ」
「うん、わかった。一箇所心当たりあるよ」
「じゃ、そっちの手配は頼むぜ」
「任せといてー! じゃあ、来週末に続きということで、今日は解散しよっか」
「はーい」
ヴァイオラが締めの挨拶をキメて、本日の業務は終了だ。三人組+1とヴァイオラが雑談モードに入る。
「鈴、駅前行きたい~」
「また何とかペチーノ頼むのか? くっそ寒いのに……」
「僕も行こうかな。書店に注文していた本があるから」
「そういえば春限定マグカップがそろそろ出てた気がするなあ。わたしも行こっと」
「ほんじゃ、オレ様は帰って、この黒歴史ノート達を具現化するとするぜ……」
フ~やれやれ、とオレ様は肩をすくめて、屋上の資材置き場に置かれた資料数点を回収した。
「よろしくお願いします!」
「お願いね~、バロックちゃん」
「頼んだよー! あたしの夢叶えて! バロック様様!」
「あとでお土産買って帰るねー、バロック」
「はいはい、いってらー」
ふよふよよ空に遠ざかっていくオレ様の眼下には、屋上の全景、ドアに吸い込まれていくヴァイオラ達五人の姿。女子四人で戦隊でも作るつもりかねえ。
……ん?
校舎3Fの窓から、空を飛ぶオレ様を見つめている様子の女。アレはたしか……、ヴァイオラ達のクラスの担任の女教師だ。名前は確か――、
「まったく、面倒なことにならなきゃいいが……」
と空に呟きつつ、ゼッテー面倒くせーことになりそうだな、とオレ様は思った。
to be continuerd...
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