第二章『ゆるふわ悪魔探偵ヴァイオラ』編

第32話 滲み寄る悪意

「――では、続いてのニュースです。

世界的な奇病によって休校していた期間に発生した、連続高校生失踪事件について。警察は、東京都N区O町で失踪していた高校生たちが、数日前に帰宅していたことを公表しました。プライバシーに配慮し、氏名や通っている学校名は公表されませんでしたが、高校生たちは外傷などもなく、体調に問題はみられないとのことで、登校日になった高校では登校を許可しているところも一部あるとのことです。では、続いてのニュース――」


わたしはヴァイオラ。昨年の秋にフランスから、この東京の端っこにある町に転校してきた、16歳の女子高校生。母さんが日本人で、父さんがヨーロッパ系の、いわゆるハーフというやつ。うっすら栗色がかったブルネットのボブヘアは、ブラッシングのかいもあり、寝癖もなくなってふわふわだ。色々あって休校になっていた学校が、今日から再開されるので、ばしっと制服に身を包み、ニュースを観ながら、母さんが用意してくれた朝ごはんを食べていたところ。


「はむはむ……(連続高校生失踪事件――?

……この町に、何が起こってるんだろう……?)」


朝ごはんは、トースト、ソーセージ、目玉焼き、レタスのサラダ、お気に入りのうさぎマグに入ったコーヒー。それらを吸い込むようにして食べ終える。


「……それじゃ母さん、行ってきまーす!」

「なんだか近頃、変な事件があるようだから、一応、気をつけてね!」

「はーい!」


高校に向かう、駅前にほど近い通学路。ゆるい坂道には狭い歩道があって、緑色の柵が、車道との境界を作っている。久しぶりの登校日は、まだ肌寒い、2月の青い空、白い雲。すう、と髪をなでていく風……。鳥肌が立っちゃった。吐く息がうっすらと白い。寒いから今日も黒いタイツを履いて、もこもこの黄色いパーカーを着込んでいる。


紺色の制服には大きな赤いリボンがひらめいて、すこし短めに履いたプリーツのスカートが今日もかわいい。アスファルトに触れた革のローファーが、かつかつ、と小気味よい音を立てる。


「うわー! ヴァイオラだ! 久しぶり!」


――ふいに背後から、元気な黄色い声が響き渡ってきた。


クラスメイトの輝空きあだ。純日本的なサラサラの黒髪ポニーテールと、元気いっぱいだけど、伏目がちにはにかんだ笑顔がすてきな子。わたしが去年の9月頃に、この東京の街に転校してきてから、最初にできた友達だ。すぐ休校になっちゃったから、久しぶりに会えて嬉しいな。


「輝空、元気だった?」

「もー、あのわけわかんない病気? のせいで休校になって、ヒマでさぁ~。ゲームばっかやってた。……あと、絵を描いたりとか……かな」

「見せて見せて!」


彼女は絵を描くのが好きで、スマホに撮影した油絵を見せてくれる。翼の生えた、白い服を来た女の子の絵だ。頭に輪っかが付いている。


「相変わらず上手! ……天使の絵? ふふっ、わたしと真逆だな……」

「……ええっ!? ヴァイオラってどう見ても天使側だと思うんだけど!」


わたしはニヤッと笑いながら、輝空にこっそりと耳打ちする。


「実はわたし、『悪魔』なんだよね……、ここだけの話」


ピアスの穴も開いてない、丸くて形の良い、綺麗な耳。ふーって息を吹きかけたくなっちゃう。わたし耳フェチなのかも。


「えぇー嘘だぁ。ヴァイオラ、こんなにかわいいのに、『悪魔』なの? ……でも、うーん。……確かになんか、悪魔的? なんか、いっつもいい匂いしてるし」

「悪魔と言えば、何でも願いを叶えてくれるっていうよね。……クックック、オマエの『願い』を叶えてやるぜ……。オマエの望みを言え! ……とか言って」


わたしが冗談っぽく戯けてみせると、輝空は黒髪の尻尾を左右に揺らせながら、大きな瞳を細めて笑った。


「プッ。なぁにそれ、なんかのネタ? TicTacとかの?」

「はは、ま、そんなところ。でもさ、輝空――。もし、もしもね。もし、本当に

――、……輝空は、?」


輝空は目をくりくりと左右に動かしながら、真剣に考えている。絵のコンクールか何かに入賞するとかかな、とも思ったけれど、彼女はきっと自力で成し遂げたいタイプだろうから、そういうのじゃないんだろうな。


「うーん? そーだなー。私は……、ちょっと恥ずかしいから、秘密!」

「ありゃ、なるほど……。そっか……。ま、そうだよね~」


そのとき。――キーン、コーン、カーン、コーン……。

と、学校の予鈴が響いてきた。


「っていうか、ヴァイオラ、遅刻するよ~!」

「……とと、そうだった……。ダッシュ!」


わたしたちは、学校に続く坂道を全力で駆け抜けていった。


***


「ふいー、間に合った~」

「やれやれ……」


わたしと輝空が腕を組みながら教室に入ると、久しぶりのクラスメイト達が雑談したり、席で持ち物を確認したり、スマホをスワイプしたりと、思い思いに過ごしていた。見渡すと、輝空と仲のいい2人が揃って、ベランダ側のセントラルヒーティングの周りに陣取り、暖を取る猫ちゃんたちみたいに固まって震えている。


ストロベリーブロンドの短めツインテがかわいい女の子、スズちゃん。ボーイッシュなショートヘアの女の子、那須ナッツ。ナッツは本名を呼ばれるのが恥ずかしいらしく、ナッツというあだ名で呼ばれていた。ふたりとも、足の裏から貫かれるような寒さに震えながら、わたし達に手を振っている。東京の冬も、意外と寒い。


「おはよう、輝空。ヴァイオラ、久しぶり」

「あっ、おはよ! 遥戸はると!」


自席に着席しながらそう声を掛けてきたのは、輝空の幼馴染の遥戸はるとくん。160cmくらいの身長で、凛とした顔立ちの少年。めちゃくちゃに頭がよくて、学年1位は当然のこと、全国区でもトップレベルなんだとか。もし彼が、何でも『願い』を叶えられるとしたら、一体なにを望むんだろうか。……などと考えていたら、ガラッと前の引き戸が開いて、細いゴールドの丸メガネをかけた、美しい黒髪ロングの女性が入室してきた。担任のみぎわ先生だ。


「みなさーん! 着席してくださーい! ホームルームを始めますよ!」


白衣の裾をなびかせ、黒いタートルネックセーターで大きな胸が強調されている。わたしは胸は控えめな方で、それは別にあんまり気にしてないんだけど、先生のスタイルには、なんだか『圧』を感じてしまうよね……。みぎわ先生は本来、保健の先生なんだけど、少し変わったパターンの勤務形態で、このクラスの担任でもあり、数学の授業もしてくれるのである。


「三ヶ月ぶりの学校ですね。流行り病がありましたし、みなさん、あまり外出はしなかったと思いますけど、風邪などひいていませんか? うがい、手洗いはしっかりと行ってくださいね。各クラスにアルコール除菌も用意してありますが、あまり擦り過ぎると手が荒れちゃうから、気をつけてね!」


……うん、ようやく日常が戻ってきた感じがする。この数ヶ月間、なんとも非日常な日々が続いたせいか、普通の生活になんだか違和感を覚えてしまう。


「それじゃ、ホームルームはこのくらいにして、数学Ⅰの授業を始めます。宿題は各タブレットからクラスルームにシェアしといてくださいね。終わってない人も一応出しといてね。じゃ、教科書の72ページを開いて。正弦定理から……」


サラサラサラと教科書が開かれていく音。タブレットにも一応、電子版の教科書が入っているけれど、紙の本を使ってしまうのは、慣習のせいなんだろうか。大人の事情も色々あるのかなぁ。……ボーッと、窓の外を眺める。天気がいいので、だんだん眠くなってくる……。


「(菫咲すみれさきさん、菫咲さん……)」

「……?」


前の座席に座っているクラス委員長の灯里あかりさんが、四つ折りにした紙をこっそり回してきた(菫咲というのは、わたしの名字)。灯里さんは、キリッとした切れ長の目に黒縁の眼鏡を掛けていて、とても頭が良さそうな人だ。実際、学年順位も、遥戸くんの次くらいだったと思う。フランスでもこういう『紙を回すの』はあったけれど、万国共通なんだなぁ。ふふっ。……カサカサカサ……。そうして、そっと開いた紙には、こう記されていた。


『お話ししたいことがあります。放課後、屋上にきてください』


「……!」

……えっ、呼び出し……? こんなのは初めてだ。うう、なんだろう……、ドキドキする……。告白とかされちゃったら、どうしよう……って、流石にそれはないか。ちらっと灯里さんを見ると、謎めいた微笑みを残しつつ、彼女はふいと前を向いてしまった。


***


――と、いうわけで。放課後。

わたしは屋上への階段を駆け上り、なんとなく周りをキョロキョロしながら、スニーキングミッションをこなす特殊部隊員みたいに、ドアをそーっと開けた。鍵はかかってなかった。


屋上のコンクリートの床面には、壊れた煉瓦のかけらが散らばっていて、片隅にいろいろな資材が積んである。端の方は、落下防止の白い手すりが備え付けられている。その手すりに手をかけて、委員長が可憐に佇んでいた。まるで、一輪の白百合が活けてあるかのように……。わたしは声をかけた。


「委員長! 来ました!」

「……菫咲さん。わざわざ来ていただいて、ありがとうございます」

「お、お話しって、一体……? どきどき……」

「これを見てくださいますか」


そう言うと、委員長はポケットから、を取り出した。茶色と白の毛がまだらに生えていて、ハムスターのように見える。というより、学校にペットを連れてきちゃって、大丈夫なんだろうか……。


「えっと、その……。か、かわいいね!」

「ありがとうございます」


委員長は、目を白黒させているわたしのことはお構いなしに、小動物の背中を撫でながら、静かに語り始めた。


「……高校生失踪事件、ご存知ですよね。今朝も報道されておりました、あの。

公表されておりませんが、実は、わたくし、そのうちの1人なんです。ある日、神隠しにあい、気がついたら、見知らぬ館におりまして……。そこで出会った方に、この子をお譲りいただいたのです」


突然のカミングアウト。

失踪事件? 神隠し? 見知らぬ館……? 全く意味がわからない。


「委員長、どうしてそんな話をわたしに……? そのコと、何の関係があるの?」

「フフ、お見せして差し上げますわ」


黒い霧がすうっとハムスターに集まっていって……

コウモリのような羽根が生え、空中に浮いていく……!

そして羽根以外の部分、胴体や頭部が、まるでピクセルアート作品のような立方体の集まりに変化していき、ぱりぱりと放電までしはじめた。


「それは……?」

「キキ……、キョアアアア!」


なにか、異常な事が起こっている、――のは間違いない。


「この子といると、頭がすっきりして、毎日が楽しい気持ちになるんです。……でも、一つだけ、我慢ならないことがあるのです……。あなたが、この学校に転校してきた、その日から……今日も……」


シュバッ、と屋上が見えない壁に包まれる。周りを見渡すと、壁の外側はぼんやりとして見え、この屋上がまるで、別の空間内に閉じ込められたような感じだ。半球状の超巨大なカプセルをすっぽり被せられたみたいに。半径100mくらい覆われている。


「ああ、あなたを見ていると、イライラするんです……! 容姿が良くて、いつ見ても笑顔で……。みんなの視線を集めて……。わたくしが委員長なのに……! わたくしがクラスで一番のはずだったのに……。どうして、どうして……」


委員長は眼鏡を外し、胸ポケットへと丁寧に仕舞い込んだ。

その眼は紫色の光に包まれている。全身が紫色のオーラに包まれ、誰がどう見てもマトモじゃない。これは、一体……?


「委員長……」

「うるさいッ! 黙れッ!」


委員長がたたっと走ってきて、ただ思いっきり振りかぶって、そのまま素手で殴りかかってきた。右手がスローモーションのように、わたしの左頬にめり込んでくる。


ゴンッ!


……と、まるで、鉄アレイで叩かれたような衝撃が走った。どう考えても女子高校生の力じゃない。


「……!」


ギリギリギリギリ……、委員長の右手が、わたしの顔面を押し込もうとする。

――でも、わたしは倒れなかった。


「この手応えは……!? あなた、一体……!? 嘘、なんで死なないの……?

……! ……人間じゃ、ない……!?」

「……痛ったいなぁ。委員長」


わたしの顔面を打ち抜けないことに苛立った委員長は、バックステップして距離をとった。つう、と一筋、わたしの鼻から鼻血が垂れる。反射的に、制服のポケットに手を突っ込んだ。


「……ティッシュ、ティッシュ……」


その時、そおっと背後のドアが開いた気配。後ろを見ると、輝空、鈴、ナッツ、遥戸くんの4人が、驚いた顔でこちらを見ている。輝空が


「……えっ!? ヴァイオラ! 大丈夫!? ちょっと! 血が出てる……!」

「ああ、大丈夫。っていうか、みんな、なんでここに?」


すずが四人を代表するように、アニメみたいな可愛い声でストロベリーブロンドのツインテールをゆらゆら揺らしながら、わたしの問いかけに返答する。


「帰りのホームルームのあと、ヴァイオラが手紙を片手に猛ダッシュしていったから、後をつけて、覗こうと思って……。誰かに告白されてるかと思ったの! まさか、委員長とケンカしてるなんて……」


続けて、輝空が委員長の『生き物』を指差しながら叫ぶ。


「って、委員長、それ、何!? なんか四角いのが浮いてるんだけど!」

「うるさい……、うるさい……! うるさいうるさい! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさ―――――――――――――い!!!」


委員長はバリバリと頭を掻きむしりながら、大声で叫び始めた。空を劈く、黒板をめちゃくちゃに引っ掻いたようなキンキン声が鳴り響き、輝空たちは耳を塞いでいる。(このままじゃみんなを巻き込んじゃうな……)と思い、わたしは委員長に向き直った。


「ごめん、委員長。わたしに不満があるのは分かったけど、みんなが巻き添えで傷ついてしまうかもしれない。だから――」


わたしは右手をポケットにつっこみ、ティッシュを取り出して鼻血を拭いた。それを丸めてポケットに戻す。



空いた左手をゆっくりとその『生き物』に向け、の形にする。中指を抑える親指に力が加わり、その一点に、『翠緑』の光が発せられた。


「『星紋弾アストラ・バレット』」


ピン、と指を弾く。途端、パシュッと『翠緑』の弾が放たれて、委員長の持つ『生き物』を撃ち抜いた。


「ギャッ――……!」


シュウウウ……、と、紫色の煙が霧散していく。この弾には、生物に取り憑いた『悪いやつ』だけを吹き飛ばすという『願い』を篭めた。屋上の床に落ちた奇妙な小動物は、かわいいハムスターの姿に戻り、鼻をひくひくさせながら、愛嬌のある顔をきょとんとさせた。同時に、委員長は気を失い、ドサッ……、とその場に、崩れるように倒れた。そして、校舎の周囲を包んでいた『見えない壁』が音もなく溶けていき、非日常の空間が消滅して、すっかり日常の景色に戻った。


「失踪事件……。それからあの『生き物』……。何が起こってるんだろう……」


気を失っている委員長のところへ歩いていく。コンクリートの冷たく硬い感触が、コツコツと、ローファーの裏側に伝わってくる。慌てふためきながら、輝空たちも走って駆け寄ってくる。遥戸くんとナッツが委員長の容態を確かめ、鈴が焦った様子でわたしに話しかけてくる。


「……さっきの、バシュッて、ヴァイオラがやったの!? し、死んだの!?」

「大丈夫。気絶してるだけだ」と、遥戸くんが冷静に確認する。

「――ああ、ほんとだ。息はしてるみたいだ」と、ナッツ。

「ああ、よかった……、あそうだ、先生に言ったほうが――」

と、輝空が言いかけた、その時。


――キィィ……と、屋上の出入り口のところから、人の気配がした。


「ちょっと、誰かしら? 下校時間はとっくに過ぎてますよ!」

「汀先生――! いいところに!」と、輝空。

「あれ。君たち、屋上で何をして――……、灯里さん!? どうしたの!?」


あちゃー。わたしは思わずバツが悪そうな顔をしながら、先生に報告する。


「委員長とお話していたら急に倒れてしまって……(わたしが倒したんだけど)。ねっ、輝空!」

「そ、そうです! ちょうど先生を呼びに行こうと思ってたんです!」

「……!」


先生は白衣を翻しながら駆け寄ってくる。校則でペットは学校に持ち込み禁止なので(当たり前だけど)、バレたらマズいんじゃないかなあ。わたしは咄嗟にハムスターを掴んで、制服のポケットに突っ込んだ。先生は委員長の隣で片足立ちになって脈を測ったり、呼吸を確かめている。


「……脈や呼吸は正常ね。貧血かしら……。あとは、私が灯里さんを介抱するから、みんなはもう、下校しなさい。あ、放課後は屋上に入っちゃダメよ。今度から気をつけるように! はい、それじゃ、回れー、右!」

「はーい」


両手を頭の後ろに組んだ鈴が、頬を膨らせながら踵を返して、屋上を後にする。遥戸くん、ナッツ、輝空、わたしもそれに続く。


「すみません……。委員長のこと、よろしくお願いします」


わたしは一言だけ謝って、そそくさと屋上を後にしようとし、出入り口の方向へと振り返った。するとその時。グサッと、背後から、ナイフを刺されるかのような錯覚。わたしの背中に刺さってくるような、冷たい視線――。

その視線の主は……。


「……」

(先生……?)


わたしはポケットにそっと、手を忍ばせる。さっき突っ込んだハムスターの温もりが伝わってきた。まさか、この子の事に、気づかれたんだろうか……。

なーんて。


(委員長の異変に、なにか関連があるとしか思えないな……)


タン、タタン、タン……


夕暮れに差し掛かる赤い光が差し込む階段に、わたし達五人の足跡だけが響く。その静寂を破ったのはやっぱり、鈴だった。階段の真ん中あたりで足をとめ、背中で手を組みながら振り返って、わたしに問いかける。


「……ヴァイオラ! さっきの何!? どうやったの!?」


ナッツもその隣で目を大きく開きながら、さっきのわたしの真似をしながら興奮した様子。ショートカットも相まって、まるで少年みたいに目をキラキラ輝かせている。


「なんだよ、あのデコピンレーザー……。ヴァイオラって、超能力者……!?」

「教えてもいいけど……、2人とも、絶対に面倒なことに巻き込まれるよ……?」

「知りたい知りたい! あれ……、私にも出来る!?」

「あたしもー! 教えてよー!」と、鈴までそんな事を言い出す。


遥戸くんも、最後尾から話題に乗っかってくる。


「僕も知りたいな。さっきの。物理的にあり得ない事象だし。興味がある」

「……」


輝空は口の辺りを手で抑えながら、何かわたしに言いたそうな気配を醸し出している。当然、今朝のことだろう。わたしが冗談めいて言った、あの一言に対してだ。


「あのさ……、ヴァイオラ。朝言ってたあれって……。もしかして、……あれって、ほんとに……?」

「そう。――この5人だけの秘密。誰にも言っちゃダメだよ……」


みんなより先に、階段下の廊下に降りる。居残り禁止令が出ている校舎の中には既に誰もおらず、しんと不気味に静まり返っていた。紅く染まった夕日の光が、わたしを照らして、逆光が、わたしを影のベールに包み込んでいく。


「わたし、実は――、『悪魔』なんだ」


青く透けた左手に『黄金の蔦』が絡まり、わたしの瞳が、虹色に仄めく。


「どんな『願い』も、叶えてあげる……」


みんなは息を飲んで、わたしを見詰めていた。




to be continued...

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