Intermedio
第31話 幕間劇に興じましょう
「ん……」
わたしが目覚めると、隣ですうすうと寝息を立てているのは、もう一人のわたし。
ここは、『上の世界』にあるバロックの棲みか。隣で寝ているのは、バロック。
要するにバロックが人間態、つまりわたしそっくりの姿に化けて、一緒に寝てた、ってわけ。わたしは、本当の姿……、つまり、悪魔の姿でいる。
黒い地面に、白くて薄い破片のようなものがたくさん散らばっていて、簡易な鉄パイプのベッドにありあわせの素材で作ったような天蓋がついていて、その隣にはコンセントが抜けているけれど何故か中身は冷えている冷蔵庫がぽつん、と置いてある。中には、黒い缶に緑色の引っかき傷がトレードマークの、エナジードリンクが大量に入っている。あと、食べかけのショートケーキ。
それから、懐かしいアナログテレビがあって、ビデオ端子とHDMIケーブルの変換コネクタの先には、最新のゲーム機が何台か置いてある。寝るまで、二人で2D格闘ゲームの対戦をしたけど、地上では売ってない、ゲームバランスがめちゃくちゃなゲームだった。そのあとはひたすらベッドでくっついて、……色々とまあ。えへへ。
「あ、ヴァイオラ、起きたのか……。ふわぁ~あ」
「おはよ! まだ寝てて良かったのに」
「夢ん中にクソったれジジイが出てきさぁ……、枕元に立ってこう言うワケ。
『宿主といちゃついておらんでさっさと報告に来んかい!』――だってよ~。
……ッたく、気が利かねぇジジイだぜ」
「そういえば、バロックは次期神様だもんね。わたしも、ご挨拶しなきゃ」
「メンドクセーけど、ま……、行ってみるか」
バロックは、わたしの姿――、人間態のまま、歩き始めた。
『上の世界』は、暗い空間にところどころ光が灯っていて、それぞれが『願いの悪魔』などの棲みかになっているらしい。それぞれ、世界観も雰囲気もまるで異なっていて、似たものは二つとない。それが無数に散らばって、まるで満天の星空の中に佇んでいるようだ。バロック曰く、それぞれが集合的無意識に接続されており、生物が夢を見る時、ここに繋がっちゃうときも、あるとか、ないとか。
「ここだぜ」
中心のあたりにある、一際大きな光。それが、神様のいる場所だった。ま、神様っていうのは便宜上の呼び名で、解りやすいからそう呼んでるだけなんだって。正式名称は特に無いんだとか。
――思ったより殺風景というか、ただただ白い空間が広がっていて、もやが掛かって薄らぼんやりとした泉とか、花園らしきものがあって、本物じゃないと思うけど、白い鹿が歩いていたり、蝶が飛んでいた。わりと外連味があって、逆にびっくりした。
わたし達が来るということで、悪魔や、いろんな種族のヒト達が見物に集まってきている。みんな、わたし達に手を振ってくれている。――え。ちょっと待って。
「ヴァイオラLOVE」って書いてあるウチワ持ってるヒトもいるし……。
もしかして全部、中継されてたのか……、あの戦い……。
……いや、確かに! そういえばバロックも、誰に向かって話してるのか分からない時、しょっちゅうあったし。わたしも、なんか見られてる感じはした。いまこの瞬間も、この考えすらも。……見てるでしょ。ねえ。……む、むむむむむむ……。
……ダメだ、無念無想の境地には遠いや。まあ、今更か……。
「――遅い。『王の儀式』が終わったなら、さっさと来んか。馬鹿者!」
上から声が降ってきた。神様だ!
神様は、真っ白くて長い眉毛と口ひげがトレードマークの、シワシワのおじいちゃんだった。けど、デカい! 座ったままで15mくらいある。薄衣の白いローブを纏っていて、木を削り出したような感じの杖を持っていて、ものすごく大きな、白い椅子に腰掛けていた。何から何までステレオタイプ……、なんだけど、『そういうもの』、なんだろうな。
「うっせーな! 色々あって大変だったんだよ! ちっとは労えよな!」
「うわあ、タメぐちだ……」
コホン、と咳払いをして、神様はわたしの方に向き直る。すごくニコニコしていて、優しそうなおじいちゃんだ。つられてわたしもエヘヘ、と笑ってしまう。
「はじめまして、ヴァイオラ。ううむ、実物はカワイイのお……! 人間態の愛らしさもさりとて、悪魔態の儚い佇まいも良しッ。しかも最強ときた。最高……、最高じゃ……ッ。ああ~~~~! 間違いなく、過去イチの『推し』じゃッ!」
「推し」
「ここから全て視させてもらっておった。特に最後の戦いで、あのモディウス神父に喚び出された『太古の王』が『滅亡の礫』を放った時は、手に汗を握った。正直、アレで終わるかと思っておったわ。なんせ、かの恐竜文明を滅ぼした、悪名高き『願い』じゃからな。まさか、あそこから立ち上がるとは……」
「か、神様、あの……」
「んで、勝ったんだけどさ、オレ達。交代すんの? 神様ポジをさ」
「ああ、それでなんじゃが……」
神様がシワシワの眉間をさらにシワシワシワシワにさせて、困った表情を浮かべながら髭をイジイジしている。猛烈に嫌な予感がしてきた。わたしの直感はだいたい当たってしまう。主に、悪い方に!
「ヴァイオラ、お主、ベアスを倒す直前に、『悪魔化』しちゃったでしょ……?」
「あ、はい」
「それがどーしたんだ? 勝ちは勝ちだろ?」
「……非常に言いにくいんじゃが……」
「?」
「『王の試練』は、あくまでも『地上の生物』の進化を促すためのもの。だから、悪魔が勝った時は、無効試練になっちゃうんじゃよ……。あくまでも、無効かも、しれん……、なんちゃって……」
「……」
「……」
――――しばしの沈黙が流れた。
「はあああああああああああああああ―――――――――――――――ッ!?」
「えええええ!? じゃ、じゃあ、ジョゼと、ベルゼを復活させるのは……」
「……当然、お流れ、となるな……」
ガクッ……。顔面蒼白になり、膝から崩れ落ちるわたし。あんな……、あんなに頑張ったのに……。ウッソでしょ……。命までかけたのに……。一回死んだし……。
「マジか……」
「……ええぇ……。嘘だぁ……」
「で、で、でも! 大丈夫じゃよ! な、なーんと! こういう時のための救済措置もあるのじゃッ! すごいッ!! 『王の儀式』の勝者が『悪魔化』するなんて前代未聞ではあるが、そこは抜かりないのじゃ!」
わたしとバロックはあまりのショックで酷い形相だ。腰が抜けてへたり込んだまま呆然としている。それでもお構いなしに神様は続ける。
「こほん。ヴァイオラよ。お主は『デヴィリオン』を発動してみせた。
よって――、新たなる『願いの悪魔』として任命する!!!!!!」
「……」
「……えっ?」
周りのヒト達から大きな歓声が上がる。
ええと、聞き間違いかな……?
わたしが、『願いの悪魔』に……?
どういうこと……?
「あ、あの、仰る意味が……。『願いの悪魔』って、バロックのことじゃ……?」
「そもそも『願いの悪魔』は、お主のように、後天的に『デヴィリオン』を使用できるようになった生物の事を指すのじゃ。ここで生まれ、始めから『願いの悪魔』の素質を持つ者のほうが多くなった今では、お主のような個体の方がレアになってしまったが……、いや、SSRとでも言うべきか……」
「SSR」
「ともかく! その素質は十分にあるということじゃ」
頭が真っ白になって、全然内容が入ってこない。
硬直しているわたしを見兼ねて、バロックが質問する。
「で、でもよ! 仮にヴァイオラが『願いの悪魔』になったとして、どーすんだ?」
「良い質問じゃ。そして答えは至極簡単、単純明快」
ズオオ……と、神様が巨大な椅子から立ち上がる。
わあ……、7階建てのビルくらいあるかな……。
「『王の儀式』の再戦を執り行うッ!!!!」
「……」
「……」
どっ! 何かが爆発したような音がして、びっくりして周りを見回すと、集まっているヒト達がみんなスタンディングオベーションして、大声で叫んでいる。ダメだ。ここにいると頭がおかしくなってくる。バロックの性格もよっぽどだと思ってたけど、実はかなり、マシな方なんじゃ……?
「ヴァイオラ。お主は新たな『悪魔数3』の『願いの悪魔』として、『宿主』を見付け、その者を『王』に導くのじゃ!!!」
「えっ!? オ、オレ様は!?」
「バロック。お主はヴァイオラの付き添いじゃ。先輩として力を貸してやるがよい。ま、それは建前で、お主らのイチャ……、コホン。バディとしての戦いを見たいというのが本音じゃがの。ホッホッホ!」
神様の放ったあるキーワードに反応し、バロックの目が輝きだす。
「せ、先輩……!? オレ様が……先輩になるのか……!」
どうしよう……、ついていけない……。
っていうか、さっき「イチャ……」って言ったのが気になって仕方ない。
けど、受けないと、ジョゼやベルゼが……。
「……わかりました……」
「まっ、先輩として、カッコいい所見せねーとな! ギャハハハハ!」
「よろしい! では、征くが良い! ヴァイオラ!!!」
会場の盛り上がりが最高潮に達した。視聴率もスゴいことになっているのだろう。
逆に、わたしのテンションは下がる一方だ。なんで、こんな羽目に……。
ええ、『宿主』見つけるのかぁ……。面倒くさい……。
当初のバロックの気持ちがめちゃくちゃ分かってしまうのが悔しい。
「うぅん……まあ、仕方ないか……。……よろしくね、センパイ」
「任せな! よし、行くぜ!」
「……じゃ、とりあえず、東京のわたしんち行こっか。そのあと
「オウよ!」
なにはともあれ、バロックとまた旅が出来ると思うと、少し嬉しい気持ちはあった。
……ちょっとだけね!
***
「到着~」
つーわけで、ヴァイオラと2人して次元跳躍。一気にトーキョーの家までひとっ飛びだ。いつぞや次元酔いでヴァイオラが顔面緑になったり、クルクルパーになってたのが懐かしいぜ。ま、ヴァイオラは色々身に沁みてワカッてるだろーから、次の『宿主』見っけたら、もうチョット上手くやるだろーけどな。
「よし、と。こっちにいる時は基本、人間の姿でいるから。バロックはどうする?」
「そりゃ悪魔態だろ。オマエが2人いたら妙な事になるぜ」
「じゃあ、もとに戻る前に……」
「オマ、ちょ……」
オレ様の『デヴィリオン』を吸収するつもりだ。出会ったあんときみてーに……。でも、わざわざ人間態のときにやらなくても……。ヴァイオラの腕がオレ様の首にするりと絡まってきて、唇がオレ様の唇に触れ、口内の粘膜同士が擦れ合う。
「ん……」
人間態でいるときはなんとなく体内機能も再現しているから、心臓あたりがバックンバックン言い出して、頬のあたりが上気してしまう。……ああ、ダメだ、脳が真っ白になっちまう……。何も考えられねー……。
「……ヴァイオラ……。オレ様……、オレ様……」
「…………バロック……」
コンコン。
「(うわ―――――――――――ッ!!!!)」
「(ぎゃあああああ!!!!)」
ベッドの上でちょこんと座るヴァイオラと、瞬時にいつもの悪魔態に戻ったオレ様。ヴァイオラは作り笑顔でメチャメチャ冷や汗をかきまくっている。オレたちの醜態にいまごろ『上の世界』では大ウケだろーぜ。
「ヴァイオラ……? 戻ってるの……? ワオ! いるし!! おかえりー!」
ガチャリと開いたドアには、ヴァイオラによく似た顔の人間が立っていた。ヴァイオラの母ちゃんだ。4ヶ月くれー前にカバンからチラッと覗いた程度なんで、オレ様とは実質、初対面だ。
「かかかかかかか、母さん! た、た、た、ただいま! ごめん! 黙って入ってきちゃって……! いると思わなくて!」
「いいのいいの! 大変だったんでしょ! ドイツの施設に入ってたんだもんね……あの『数字』も昨日、突然消えて、日本も大騒ぎだったし。 ――あ! そのコ! もしかしてバロックちゃん?」
「おお! ヴァイオラの母ちゃんだよな。オレ様がバロックだぜ」
……ヴァイオラの母ちゃんが、オレ様をじいっと見つめる……。
「……バロックちゃん、実は、悪魔……でしょ?」
……。硬直するオレ様。ど、どうしよう……。なんでバレた……?
直後、ヴァイオラが素っ頓狂な声を上げた。
「へえぇっ!? な、な、なんで!? し、知ってるの……? あっ!」
「バ、バカ! なんで自白しちまうんだよ! ……ったく……」
「あっ……」
「ハハ。……実は、あたしも小さい頃は、友達だったからね。悪魔と、さ」
あ、そっか。
「うーん、ナルホドな……」
確かに、例えばイタリアでは下悪魔や『悪魔使い』が蔓延ってるわけだし、日本だって昔から魑魅魍魎が跋扈する妖怪の巣窟だしなー。よく考えてみれば別段、不思議でもなんでもなかったわ。なんだったらオレ様の存在のほうが、よっぽど不思議だわ。
「ご、ごめん、ちょっと飲み物飲んでいい……?」
ピカッ。
動揺しまくったヴァイオラは、『翠緑のアストリオン』を使って、いつものコーヒーを出した。あっちゃー……。オレ様はその光景を見て、思わず目を覆った。いきなり何もない場所からコーヒーが出てきたら、母ちゃん卒倒しちまうぜ……。
「あら!『アストリオン』だ! 綺麗じゃない!」
「ブッ!!」
「ぎゃあっち――――――――!! なんでオレ様に向かって吹きかけんだよ!? っつーか、母ちゃんは何で『アストリオン』知ってんだよ!?!?」
「ゲホッ、ゲホッ……。そ、そうだよ。どうして……?」
オレ様はヴァイオラからコーヒーをひったくり、一口すする。
いかんいかん、オレ様まで動揺しては……
「友達の悪魔に教えてもらったの。バッドロックって言うんだけど……」
「ブ――――――ッ!!」
「きゃあああ!! もう! 汚い!!」
「お互い様だろうがよ!!」
「あ、もしかして、バロックちゃんと知り合いだった? 世間は狭いねー♪」
つ、つええ……。この親にしてこの子あり、を地で行く母ちゃんだった。
「で、で、でも、じゃあ、母さんも『アストリオン』を……?」
「でもよ、『アストリオン』は『悪魔の願い』で悪魔と一部融合しないと、使えないハズだぜ。まあ『願いの悪魔』を齧るクソバカも、いるっちゃいるが」
母ちゃんの方を向いていたヴァイオラが、悪魔の形相でゆっくりと振り返る。
「だ・れ・が・ク・ソ・バ・カ・だ・っ・て……?」
「いててててててててててて!! オレ様のほっぺを引っ張るな―――――ッ!」
「フフ。もちろん、母さんは使えない。使えたのは、……父さん。あなたの、ね」
「……ええっ!?」
「てことは……、ヴァイオラの父ちゃんって……!?」
ヴァイオラの母ちゃんはゆっくりと頷いた。
「そう……、千年前の『宿主』。『悪魔数3』――バッドロックの、ね」
オレ様は頭がクラクラしてきた。横をチラと見ると――。
ヴァイオラは白目を剥いて卒倒していた。いや、オマエがぶっ倒れてどーすんだよ!でも自分のオヤジが実は千歳を超えるバケモンでした、ってワカッたら……。まあ、仕方ないか……。
「で、でもよ、そしたら、父ちゃんは……」
「生きてる。バロックちゃんも知っての通り、『宿主』は不死だからね。でも、今は……、会えない状態なんだ」
「フーム……、そっか。何か深い事情がありそうだな……」
***
「はっ」
わたしが正気を取り戻すと、2人はすでに部屋には居なかった。一階で何か話してるのかな。わたしの部屋はきれいに掃除がされて、『王の試練』が始まる前の時と全然変わってなかった。勉強机も液晶テレビも埃一つなくて、棚に飾ってあるわたしの『宝物』たちも、そのままピカピカと輝いていた。あれを見て、バロックは確か――
(なんかの原石、きったねーコイン、錆びたナイフ……、よくわかんねーフィギュア、ぼろい本……、下手くそな絵)
――そう言ってたっけな。……でも、これって……。あれ?
赤い石……、金色の硬貨……、黒く錆びたナイフ……、銀色の人形……、青い本……、色んな色が混ざった絵……。
えっ。これは……。
「ヴァイオラー! 起きたのか? 下で母ちゃんと話そうぜー」
「あ、わかった! 今行くね!」
胸の奥になにか、モヤモヤしたものがつっかえたまま、わたしは階段を降りた。パイン材で出来た、幅1メートルくらいの、ごく普通の階段。この辺りは住宅地のど真ん中で、中古住宅を母さんが購入したんだ。でも、よく考えてみると、わたしは母さんのことを、なんにも知らない。どうして、父さんと結婚したのかな。
「あ、ヴァイオラ。話は聞いたよ。まさか、世界を救ってたとはね……」
「バロック、話してくれてたんだ。……じゃあ、身体のことも……?」
「ハッ。流石にそれはな。自分のクチから言うだろ?」
「そう……だね」
反応が怖かったけど、勇気を出して、見せることにした。
北欧の家具に囲まれた、普通のお家の、普通の居間。2階建て3DKの中古住宅にはおよそ似つかわしくない、悪魔の姿を……。
「……どう、かな……?」
「ええ!? すごい! かっこいいじゃん!!」
本当は少し、震えてたけど、思ってた通りの反応をしてくれた。
この人の子供に生まれて、良かった。ちょっと、泣きそうになる。
……感謝しつつ、わたしは元の姿、人間の姿へと戻る。
「……でも、さすが母さん……。いくらなんでも、動じなさすぎ……」
「……そりゃ、不死の『宿主』と結婚するようなヤツだからなあ……」
「まあね。いい機会だから、あたしの仕事についても話そうか」
「そういえば、世界中を飛び回る貿易のお仕事、としか……」
「それは表の仕事。本当は、世界に生き残る過去の『宿主』と、『王の試練』についての情報を調べてるの。『未解決物研究所』の研究員として、ね」
わたしの悪魔化も吹き飛ぶような極秘情報が飛び出した。まさか母さんが、三神さんが昔居た研究所に所属しているとは……。シュレディンガーの猫ってわけじゃないけど、蓋を開けてみないと、わかんないよね……。
「どうして急に日本へ引っ越すことになったか、分かったでしょ」
「はーん。ナルホドな。ゴーティオンの行方を追った、っつーわけだ」
「ビンゴ! バロックちゃん、冴えてるね~。 あたしはフランス・アルルの遺跡を10年くらい調査してたんだけどね、『王の儀式』がどうやら始まったらしい、という連絡を受けて、呼び戻されたんだ」
「だからちっちゃい頃、引っ越しが多かったんだ……」
「うん……、ごめんね。ヴァイオラ。詳しく話すこともできなくて」
「けどそのおかげでバロックに逢えたわけだし。……ね!」
「へへっ」
バロックが照れくさそうに頬を染めて、頭をポリポリと掻いている。
かわいいハグしたいキスしたい。んんん~~~~。
……でも、……今は、母さんに話を聞かなきゃ。
「……それで、父さんは? 千年前のバッドロックの『宿主』ってことは、生きてるんだよね……? よっぽど酷い『願い』を掛けられてなければ……」
「……生きては、いる。けど、流石あたしの娘、というべきか……、勘が鋭い」
バロックが、腕組みをしながら頷く。
「よっぽど酷い『願い』を掛けられた、ってワケか」
「そういうこと。『宿主』は『試練』が終わっても不死のまま。つまり、太古の昔から、ずっと隠れ潜んでいるのさ。世界中に、たくさんの『宿主』がね」
(……そうか、ルシフェンもそうだった。って、あれ? もしかして、世界中で写真撮られたりしてる、なんとかッシーとか、UMAって……?)
「その中にいる、『石化の願い』を持つ奴が、父さんを……!」
「『石化』か――。シンプルゆえに、強力な『願い』だ。たいていそのテの術者は、捻じくれ曲がった性格してるから、素直に解除へ応じることはないだろーな」
なんだか久しぶりに、バロックの推理を聞いた気がする。バロックの推理は打率8割くらいだから、ちょっと外してそう、くらいの肌感で覚えておこう。そもそも、犯人が人間とは限らないし。
「オッケー。じゃ、そいつを探し出して、倒せばいいよね。母さん」
「た、倒すって? うーん、いつの間にか、頼もしくなっちゃったなあ。……でも、どうやって探す……? ずっと探したけれど、見つからなかった……」
母さんはテーブルの上に組んだ両手へおでこをつけて、うなだれた様子でいる。母さんが研究員になったのは、父さんを助けるため、だったんだ。わたしの行動原理とおんなじ。
「――親子、だなぁ……」
「?」
「ううん、なんでもない。あのね、母さん。よく聞いて。わたしの仲間に、『宿主』の情報を探る『願い』をした人がいるの」
「……情報を……探る『願い』……だって!? それじゃ……!」
「あの人にお願いすれば、きっと見つかる。父さんを『石化』した、犯人を――!」
今のわたしなら、あの人の意識も取り戻せるだろう。
待っててね、ゴーティオン……!
「あ、そうだ。明日から学校、再開するって」
「……あー……、完全に忘れてた……。めんどくさいな……」
「学園ラブコメ・ゆるふわ悪魔探偵ヴァイオラ編、乞うご期待、ってトコだな」
「なにそれ……」
to be continued...
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