第29話 極点
三神さんとエリザベートさんが研究員さん達を避難誘導し、2人も外に出て待っていてもらうようにお願いする。
「それじゃ、ベアスに、会いに行ってきます。そして、最後の『宿主』に……!」
「『全人類を滅ぼす願い』……か。一体どんな人物が、そんな『願い』をしたんだろうか……。あとは、外の車輌からモニタリングさせてもらうよ」
「……気をつけて。ヴァイオラさん。バロックちゃん。シグ。ヘッジフォグも」
「はい!」
2人がエントランスの自動ドアから館外に出ると、バタン! ……という音がして、館内の照明が全て落ちた。「停電……?」かと思いきや、ある一方向に向かって、ぽつりぽつりと照明が点灯した。ベアスが、自分のところへと導いているのだろう。わたしたちは、夜の公園で古い街頭に惹きつけられる蛾のように、光の足跡を辿って、館内の奥へと進んでいく。ガラス貼りの仕切り壁で出来た会議室の間を縫うように通路が続き、道案内する足元の非常灯が、点々と赤く灯っている。
「……けど、なんだろ。普通の研究所、っていう雰囲気だね」
「エレベータだ。入れ、ってことかな」
通路を進むと、銀色のシンプルな扉でできたエレベータの前に出て、わたし達を深淵に招き入れるかのように佇む暗い扉は、音もなくスウッと開いた。
「一箇所だけ点灯しているトコロがあるぜ。……。あれ? ボタンも何もねーぞ」
「ほんとだ。B5Fのボタンからずっと下の部分が光ってる。ただの壁で、何も書いてないね。バロック、押してみて」
「オウよ。ポチっとな」
すると、エレベータのドアはスッと閉まり、下降する重力を感じることもなく、箱は地底へとわたし達を連れて行った。……長い。シグに戦闘服として着られているヘッジフォッグが、なにかブツブツと独り言を言っている。
「――地下50階相当の深さ。これは……、EINベースと同じ、千年前の遺構を利用した、地下研究施設に違いない。だがこの国に、そんな施設があるとは聞いていないが……。三神、どう思う?」
「ザザッ(僕の出身国である日本にも、富士の樹海に『未解決事案研究所』がある。君も知っての通り、もともと僕が所長だった研究所だけどね。それも国内で独自に運営され、国際的には秘密にされていた場所だった。同様の施設が世界中にある可能性は、十分高いと思うよ)」
「――通信に少しノイズが入るな。電波ではなく『白銀アス波』を使用しているのだが……」
「ザザッ(恐らく、ベアスのジャミングだろうね。くれぐれも……)ザザ……」
「……切れてしまった。『宿主の情報を隠蔽する願い』が作用しているようだ」
「止まった。どうやら、着いたらしいぜ……」
スゥゥ……、と自動ドアが開く、とそこには……!
とてつもなく広いスペース。天井まで50メートルくらいあって、巨大な銀色のタンクが何十基も立ち並んでいて、わけのわからないピカピカの機械が縦横無尽に敷き詰めれて、研究所というより、工場……? のように見える。防疫服を着た人たちが何人もいる。彼らはわたし達を見て、すごく驚いている様子だ。
「(な、なんだ!? 侵入者……!?)」
「(あの2人は……! 悪魔の『宿主』か……!)」
……どうやら、三神さんの予想は的中していたみたいで、ここは、秘密裏に何かを研究している基地らしい。EINベースのアメリカ版ってとこか。地上施設が神父様に占領されて、閉じ込められていたんだろうか。バロックがつかつかと、周りの人の方に近づいていく。
「オウオウオウ。ここにベアスの野郎と、その『宿主』がいるんだろ。ちょっと出してもらえっかなあ!? アアン? 兄ちゃんよお!」
バロックが近くにいた研究員さんを捕まえて、ヤクザ映画みたいな啖呵を切っている。どこで覚えたんだろう……。でもま、わたしも聞きたかったので、そのまま様子を見ることにした。
「ヒ、ヒィッ」
……逃げてしまった。そっか、わたし達はもうすっかり、慣れっこになってしまっているけど、あんな得体のしれない生物? が、いきなり突っかかってきたら、怖いよね……。
「ま、聞き出すまでもねーぜ。アイツの頭ん中覗いてみたが、『全人類の滅亡』をダシに、いいように操られてるみてーだわ」
「一般研究員はそうだろうな。上級研究員や所長クラスだとわからないが」
「――オマエたち、見るがいい。真っ直ぐ向かった通路に非常灯が点灯している。ベアスがお待ちかね、のようだ」
ヘッジフォッグがわたし達にそう促すと、地上棟でエレベーターまで誘導されたのと同じ様に、縞鋼板と鉄パイプで作られた簡易な通路に、赤い光が点々と道標になっているのが見える。大きなタンクが両サイドにある通路で、配線だらけの機械たちについた、緑色、青色、黄色、赤色、色々なカラーのLEDがあちこちで点滅して、まるで
「いよいよご対面、か――」
飾り気のまるでない、配線でごちゃごちゃのゲートを潜る。50メートル四方ほどの円形の空間は暗く、中央に巨大な機械の球体がぶら下がっている。ガンメタリックな塗装が施されたシリンダーが球体のあちこちから突出し、その先端からケーブルが無数に繋がれていて、壁面にずらっと並んだ別の機械に全て接続されていた。そして、その球体下部の床に、太く透明で真っ直ぐなチューブが一本。ネオンブルーの光を放っていて、何かがその中に浮かぶ。
わたし達は、それに向かって歩いていく。徐々にそれが近づくにつれ……、一言では言い表せない、複雑な感情が沸き起こる。
ひたり。触れると、すこし温かい。
そのチューブの中に浮かんでいたのは、一人の、赤ちゃんだった。
「……」
「これがベアスの『宿主』か――」
サァ……、と、周囲の空間が広がっていくのを感じる。そしてこの感覚には、覚えがあった。わたしは目を瞑って、あの時のことを思い出す。
暗い水底のようなあの場所。ジョゼとベルゼのクリスタルを受け取った、あの場所。
今、この装置が、あの空間を映し出しているんだ。と、直感的に理解した。
あの空間で、世界を覆い尽くすこと。それがベアスの『願い』――だったんだ。
「――よくぞ参った。我が名はベアス。『悪魔数4』の『願いの悪魔』にして、量子の海を漂う者――。よくぞ、我が意を汲んでくれた――。礼を言おう――」
「……すっかり遅くなっちゃったけど、来たよ。ベアス。……その子は?」
「――この者、名を『ルーゴ』と云う――。ヒトの悪しき実験のために作り出された命……。試験管で生まれ、親もなく、愛情を享受することもない、このまま一生を終えるだけの存在――」
「人工授精で産み出した赤子の脳を量子演算装置の一部に組み込んで、成長する有機コンピュータの生成実験でも行ってる、つーとこか。……ペッ。最悪な気分になるぜ……」
「……ベアス……」
「――この者は、生を、生まれた事を憎んでおる――。我が欲するのは、この者が、自由に、幸せに生きることの出来る世界――」
「……でも、それは、きっと、みんなは生きてはいけない世界、なんだよね」
「――その通りじゃ。人類は全て量子化して一つになり、この者を生かすためだけに存在する事になる――。皆が仮想世界の中の住人となり、この者は、唯一無二の存在、『王』となるのじゃ――。それが、人類の贖罪となる――」
「……わたしは、どうすればいい……? あなたは、わたしに、何を望む……?」
ズズズ……と、わたしの前に、床からケーブルが大量に湧き上がってきて、女性のマネキンのような姿を形作り――、彼女。ベアスとなった。そしてもう一人。成人男性の姿、つまりルーゴの、本来成長するべきだった姿、が形作られていく――。
「――理解っておろう。『王の試練』に決着を付ける時が来たのじゃ――。バロックの『宿主』よ――、お主を倒せば、我が『宿主』が『王』となる。世界が変革する時――。争いも、悲しみも、全てが終わりを告げる――。人類という種とともに――」
ベアスが分解し、ルーゴのボディに巻き付いて、ホール内の機械の球体とシリンダーを小型化したようなスーツ形状へと変化していく。そう、これは――
ルーゴの、『
「……わたしも、黙って負けるわけにはいかないんだ。ごめん……。わたしには守りたい人たちがいる。そして、取り戻したい人たちが……!」
「……ベアス。恨みっこなしだぜ」
「『第2の願い』を再発動……、『
わたし達の、最初の姿。『翠緑のアストリオン』が旋風のように集い、わたしの身体を黒いボディースーツが覆い尽くし、制服を模したアーマーが装着されて、バロックの頭部をスタイリッシュにした形状のヘルムが覆いかぶさる。右腕にリボンの腕輪が嵌め込まれ、『装纏』が完了した。
「――お前達を倒し、支配下の悪魔たちを総取りさせてもらう――」
そう言うやいなや、『
「78億7500万体、か……」
「え、そんなにいっぱいいるの……」
流石ちょっと引いた。多すぎでしょ……。しかめっ面をしているわたしをよそに、バロックが推理を展開する。
「つまりだな……全人類とリンクしてるってワケだ。あの『数字』がゼロになった瞬間。全人類が量子化し、ルーゴの一部となる……。ナルホドな。そりゃあ時間も掛かるし、『アストリオン』の色も極彩色なわけだぜ……。全人類の『願い』が混ざってるから、な……」
「そういうことか……」
でも、関係ない。出来ることを、やるだけだ。
「バロック……、指輪、使わせてもらうね」
「いいけど節約しろよな!」
「うん、もちろん。『第3の願い』を再発動。『
右小指にある『虹色の指輪』。これは『悪魔の願い』の絶対量を増幅できる効果を持つ。これを使って、『
「ベアスよ。あの時、オマエの策略でジョゼとベルゼを再び失って……。オレたちは失意のドン底まで落ちた。――けどよ、学んだんだ。アイツラをもう一度喚び出すまでに、『段階』を踏む必要があることを、な」
「――どういう事じゃ……? 娘の体内に現存する『アストリオン』は、限りがある……。計算上、どう足掻いても完全再現は不可能な筈……」
「そ。完全再現しようとしたのが失敗だった、って事さ。だから、テストしてたんだよ。恐竜たちに使った『一瞬だけ喚び出して、技を出す』。テストは成功だった。そして、その次の段階が、コイツだ!」
『黄金』『漆黒』『暗青』、三枚のメダイユを『白銀』のシリンダーへ装填。更に、『紅蓮』の指輪をてっぺんに嵌め込む。5つのアイテムが合体し、『星紋の杖』へと変化した。わたし達はそれを頭上に掲げ、魔法の呪文でも唱えるかのように、叫ぶ。
「彩れ、
「――なんじゃと――? この光は――!?」
カッ!! ズズズズズ……。
五色の光に包まれたわたし達の周囲に、五体の鎧が顕現した。
『黄金星紋装纏顕現』――! 星紋装纏ウォルコーン(ジョゼ)の鎧。
『漆黒悪魔装纏顕現』――! 悪魔装纏フライピッグ(ベルゼ)の鎧。
『白銀悪魔装纏顕現』――! 悪魔装纏ヘッジフォッグ(シグ)の鎧と剣。
『紅蓮悪魔装纏顕現』――! 悪魔装纏ライグリフ(ルシフェン)の鎧と剣。
『暗青悪魔装纏顕現』――! 悪魔装纏ゴーティオン(モディウス)の鎧。
鎧はわたし達を中心に五芒星の陣形を敷き、全方位に向けて構えを取った。悪魔本体を再現するのではなく、鎧のみを再現する。これなら中身は空洞になるため、『アストリオン』を大量消費しなくて済むんだ。しかも『
「さあ、かかってこい!」
「――フ……。とはいえ、全人類の『願い』には叶うまいて。試してみようぞ――」
ルーゴの『負の願い』にリンクされた、全人類の『負の願い』。妬みそねみ、恨みつらみ、憎しみ、嘆き、苦しみ――。ほんとは十人十色、極彩色のはずなのに、ただただ一面、彩度が失われて、灰色一色に染まっている。それを解消するために、わたし達を喰らい、快楽のために貪ろうとする……。そんな彼ら、ルーゴ・コピーが……嬌声を上げながら……、一気に襲ってくる……!
「みんな、お願い!」
数百~数千度の高温を放つ『黄金の蔦』、触れたものを消滅させる『漆黒の触手』、防御不能の斬撃『因果断裂』、願いを破壊する『祈りを手折る剣』、願いを喰らい尽くす『暗青の蝗』が、それぞれの前方に向かって一斉に放たれた。『宿主』ではない、普通のヒトから生まれた『負の願い』。わたし達の一振り、一撃で、たやすく破壊されていく。しかし――。
「イドの混沌――、彼らを破壊すればするほど、『声』が伝わってくる……!」
「物理攻撃すると、精神攻撃に切り替わるって寸法か。オレ達『願いの悪魔』やシグには大して通じね―が、おっさん共の欲望は、清純な乙女にはキッツいぜ……。『翠緑のバリア』で守っとけよ、ヴァイオラ……!」
「ぐ……うう……、なんとか……」
この空間は量子の海。集合的無意識の『願い』が……、スライムや触手のようにうねうねと蠢き、いやらしいイメージがわたしに侵入しようと、なんとか潜り込もうとしてくる。触手の先端から白濁した粘液のようなものを吹きかけようとしてくる。ひだのある灰色の肉の壁が、包み込もうとしてくる。
……これが、こんなのが本当に、ベアスの望む世界なの……?
「……気持ち悪い……っ! あっちに行って!」
杖を振り回し、『翠緑のアストリオン』でそれらを弾き飛ばす。でも彼らはお構いなしに、将棋倒しになりながら、土砂崩れのように、津波のように、わたし達に向かってなだれ込んでくる。
「ライグリフ! 『第1の願い』を再発動! 剣の『巨人変化』で一掃して!」
「心得た。むうん!」
『祈りを手折る剣』が巨大化し、鎧姿のライグリフがそれを振り回すと、四方八方から迫りくる壁は弾け飛び、数千体のルーゴ・コピーが破壊された。『祈りを手折る剣』はイメージごと破壊してくれるらしい。
「そうか! 『紅蓮のアストリオン』……! これでガードすれば大丈夫だね」
「そーだな、触手系の薄い本、作り放題になっちまうところだったぜ。正直、ちょっと見てみたい気もすっけどな。ゲヘヘへ……」
「…………」
「……にしても、まーだ1万体も倒してねーぜ。流石にキリねーな……」
「――どうする? ヴァイオラ。何か策はあるか?」
理論派のバロックとシグが、わたしに意見を求めてる。ってことは、直感、インスピレーションが欲しいってこと。わたしは深く考えないで答える。
「……本体。ルーゴ本体を叩く」
「……それだ……」
「さっすがヴァイオラ。この状況だと、海に落とした針を探すよ―なモン、砂漠に落とした一粒のダイヤを拾おうとする、無謀な策だ。オレ様じゃ逆に思いつかねーわ」
「……バロック、それ、褒めてるの……?」
「ギャハハハ、冗談だって。答えはいつだって単純、ってことだな」
「そっか……、『2本の糸』!」
ベアスがわたし達に仕組んだ罠。それは、ジョゼとベルゼから伸びた2本の『アストリオン』の糸を自分に接続させておくことで、この研究所の位置を特定させ、誘い込んだこと。逆に今なら、本体のそばにいるだろうベアスの位置を探知することが――
「あ、ダメだ。糸、切られてるわ。ま、そりゃそうか……」
「えぇ……」
「――だが、位置を特定する方法を探す、というのは、理にかなっている」
「フム、
ライグリフが珍しく意見を……。……関わり?
関わり……。何かあったような……。
「ううん……? 何だったかな……。喉まで出かかってるんだけど……」
「奴らがまた襲いかかってくるぞ! 皆、構えろ!」
「ゲ、組体操みてーに合体して……巨大化してやがるぞ……」
「フン。ちょうど良い運動になるわ」
何千体、何万体ものルーゴ・コピーが一体化して、30mくらいの巨人になった。わたしが頭を捻っているので、すぐさまシグが代わりに戦闘の指揮を執る。
「僕は『白銀』をこのまま操作する。バロックは『黄金』、ヘッジフォッグは『暗青』、ライグリフは『漆黒』を操って巨人を殲滅してくれ。ヴァイオラは『紅蓮星紋装纏』して精神攻撃から身を守るんだ。いいか?」
「……ん~、わかった……」
「儂が『漆黒の』!? とほほ……。儂、コレ、嫌いなんだが……」
「ほらほらお爺ちゃん、文句言わないの」
「……ちょっとバロック! わたしの喋り方真似しないでよ!」
「ギャハハハ!」
「ハァ……。君らはよくこの状況で、コントが出来るね……」
バロックがふざけて茶々を入れる感じ。なんだか出会った頃、ジョゼと三人で一緒にいた頃を思い出す。……って、そんなこと考えてる場合じゃないか。
「ヴァイオラ! オレ様たちがアイツラ叩いとくから、思い出せ! お前と、ベアスの『関わり』について! 何かあるはずだ! 一番最初から思い出してみろ!」
「……オッケー。わかった」
「よし、行くぞ!」
皆が操作する鎧を入れ替えて、巨人の方へ向かっていく。バロックはいつもの私そのままな見た目で、『
(なんだか、皆、楽しそうにしてるなあ……)
わたしは『紅蓮星紋装纏』のお陰で、あの気持ち悪いイメージが入り込んでくることもなく、「どこで、ベアスと関わりを持ったか?」の問いを考えることができた。最初から――。そう、バロックと出会った時から考えてみる。
最初にあの遊歩道でバロックを拾って。家に連れて帰って。抱き枕代わりにしていたら『アストリオン』が使えるようになって。神父様とゴーティオンに出会って……。神父様が、他の宿主の情報を得た。その時に、ベアスの名前が初めて出たんだった。――けど、それはわたしじゃなくて、神父様とベアスの接点だから、違う。
次に、神父様に覗かれた暴走ジョゼが逆上して襲いかかってきて、神父様が逃げた。わたしはジョゼと戦って、わたしに殴られたジョゼは正気に戻った。それで、仲良くなったんだっけな……。ホテルのロビーでお茶して、バロックがぬいぐるみと間違われて……。ふふ。
ドゴォォォォン!!!!
――色々考えていたら、バロックがぶっ飛ばした巨人の腕が、わたしの目の前に落下してきて、危うくぺっちゃんこになるところだった。巨人の腕は端から霧散し、消滅していく……。
「……」
「ワリーワリー! おっと! テメェらの相手はオレ様だぜ! こっち来いよ!」
……気を取り直して。えっと。ホテルのところからジョゼの地元、イタリアに飛んだんだった。そこでジョゼが『宿主』になった経緯を聞いて、その流れでわたしの実家に行って、わたしがお茶を淹れて。そして、そのあとアルルの闘技場に観光に行って、バロックが柱の上で座りながら談笑してたら、周りの観光客の腕に、『数字』が――。『数字』…。『数字』!
「ああ―――――――――っ!!!!」
『紅蓮のアストリオン』を纏ったまま、わたしは無意識に思わず、大声を出してしまった。声は『紅蓮の衝撃波』となって伝播し、周りのルーゴ・コピーを何百体か破壊して、おまけに、巨人と戦っていた『願いの悪魔』達をも吹っ飛ばす。……あぁー、やってしまった……。4人がくるっとこちらを向く。鎧なので表情はわからないけど、絶対怒ってる。
「うる……っせ――――――!! いきなり大声出すなバカ!! 頭割れるかと思ったじゃねーかよ!!」
「本当に頼む……、もう二度とやめて欲しい……」
「――巨人の攻撃よりダメージを喰らったのだが……」
「ぐぬう……貴様が主でなければ、この剣で両断してやるところだ……」
「ご、ごめんってば!! それより、分かったの! ベアスとの接点!!」
「!」
「『数字』だよ。あの時。観光客の腕に浮かんだ『数字』に
「あああああ!! そうだ! アレだーッ!!」
自分の『星紋装纏』だけを解除し、右手のひらをくるっと返して見てみる。見た目にはなんともない。でも、ルーゴの『殺意』に触れたとき、全身が血まみれになる程の『アストリオン傷』を受けたんだ。だから、わたしの右手を形作っている『翠緑のアストリオン』に、痕跡が残っているかもしれない……!
「……」
目を瞑り、『アストリオン』の流れだけを感じ取る。すると、まるで赤外線カメラの映像を見ているみたいに、『アストリオン』の色と流れが、わたしの脳裏に浮かび上がってきた。
――左手。『悪魔の設計図』を使用しすぎたせいか、真っ青に染まっていた。左胸には『紅蓮』の心臓が埋まっているため、全身の血管が真っ赤に浮き上がっている。胸の真ん中辺りには、ぽっかり穴が空いていて、『黄金』と『漆黒』……2つのクリスタルが輝いている。……はは。バロックが怖がるわけだよ……。こんな状態だったんだ……。 ……もう人間じゃない、よね。 わたし……。
よく見れば、今まで受けてきた『アストリオン傷』の傷跡が、身体中にたくさん残っていた……。何度もバラバラになって、修復して……。継ぎ接ぎだらけで、ボロボロになっている。傷跡には、受けた『アストリオン』の跡が、その色彩までもがハッキリと残っていた。ジョゼの『茨』の跡。ベルゼの『触手』の跡。シグの、ルシフェンの、神父様の……。そして。右手のひらを、改めて確認する。
『 ∂∂ 』
「……あった」
これは、裏返しになった、『66』の数字。あの時付いた、『アストリオン傷』の跡に間違いない。僅かながら残された『極彩色』が、それを物語っている。わたしは、ぎゅっと手を握りしめた。――そして、空間内の、同じ気配を辿る。
周囲を埋め尽くしたルーゴ・コピーたちは、明らかに気配が異なっていた。彩度がほぼない、薄い灰色。そのずっとずっと向こう……。明るい空に輝く、星を探すように、心の目を凝らして――。
「……いた……」
わたしはゆっくりと瞼を開き、『紅蓮星紋装纏』をした。
ボッ、と二色の『アストリオン』が渦を巻き、赤いアンダースーツの上に、緑色の結晶体が折り重なっていく。それは、わたし自身が、悪魔になった姿、そのもの、なんだと思う。
「みんな。いままで……、付いてきてくれて。……ありがとう……」
握りしめた『数字』を燃やし尽くすかのように、『アストリオン』が燃え上がる。『翠緑』と『紅蓮』が混じり合った時に発生する色。
それは……『黄金』の色、だった。
更に、色が変化していく……。
「そして、ごめん……」
「ヴァイオラ……?」
「ちょっと待て、オマエ……、それ……、『デヴィリオン』じゃねーか……?」
空間跳躍。ジョゼの得意な技だ。今なら出来る気がした。
なにもない空間にむかって、わたしは、跳んだ。
瞬きして、瞼を開ける。次の瞬間。目の前には、驚いた顔のベアスがいた。
そして、ルーゴの入った、青く光るチューブが、目に入った。
「――な、何じゃと……!? ――お主、まさか――!?」
「この一撃で……終わりだ……っ!」
『虹色』に輝くわたしの『
赤ん坊の――、ルーゴの入っているチューブを、粉々に、
破壊した。
to be continued...
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