第26話 太古の願い
「出迎えはバッチリってわけだな」
サンディエゴ国際空港から一時間半。ハイウェイを抜け、山岳地帯の麓にあるアンザ・ボレゴ砂漠州立公園からしばらく走り、岩や砂ばかりで周囲に何もない奥まった荒野の一角に、その研究所は存在していた。ただし、ひっそりと、ではなく――。
ギャアアア! ゴアアアン! ケエッ! ケエッ……!
建物の周囲を極彩色の結界が包み込み、その内部に無数の見慣れない生物がウロウロしていて、とても物騒。でも、互いに食い合うことはなく、一定間隔で徘徊している。わたしの目には、警備、をしているように見える。
「プテラノドン……。ケツァルコアトルス……」
「スティラコサウルス……」
三神さんとエリザベートさんは呆然としながら、恐竜の名前をつぶやいている。わたしはあまり興味がなくて良く知らないけど、好きな人が見たら興奮する光景なのかもしれない。……いや、それ以前に驚いて逃げ出すか。
「けどよ、オレ様たちを今更、あんなモンでどうにか出来るつもりなのか? 月面でルシフェンたちとやり合った時の方が、よっぽどヤバかったぜ……?」
「確かに。恐竜なんかでは、ヴァイオラや僕に触れることすら出来ないはずだ……」
「とりあえず行ってみよう」
「僕(三神)とエリザベート君は、ここで待機する。この車両はヘッジフォッグのお陰で核シェルター並の防御力がある。何かあったらヘッジフォッグ経由で連絡してくれ」
「気をつけて……!」
エリザベートさんにうん、と頷いて車を降り、フェルーゴ国立研究所へと向かう。少し硬い革製のローファーに、足裏の粗い石を踏んだ感覚が伝わってきて、砂混じりの向かい風がわたしの学生服をはためかせる。銀髪をなびかせるシグは、ヘッジフォッグの化けた鈍色の戦闘服を身に纏い、バロックは短い黒い手で器用に腕組みをし、研究所の周囲にいる恐竜たちを睨みつけている。
「ベアス、きたよ……」
極彩色のベールにそっと触れる。なんの感触もなく、すう……と、中に入ることができた。付いてきたシグが内側からノックしてみると、コンコン、とガラスを叩くような音が反響した。一度入ったら、中からは出してもらえないようだ。
「ヴァイオラ、来るぞ」
「うん」
頭のてっぺんがボールみたいな形の、2本脚で走ってくる恐竜が、真っ青な口を開いて勢いよくこちらへ噛み付いてくる。……真っ青、か。
ガシン!
シグが両腕を上下に構え、突っ込んできた恐竜の噛みつき攻撃をガードする。やっぱりだ。恐竜の口の中が青いのは、元々の色じゃない。青黒い霧のような息が、口角の端から吐き出されていた。恐竜の鱗も、たぶん本当は、こんな形じゃないんだと思う。――あの日見た『悪魔装纏』にそっくりだ。
「ゴーティオン……」
「あー……、ま、考えてることは理解るぜ。けどよ。アイツもきっと、こんな事は望んじゃいねーはずだ。多少の傷みは我慢してもらうっきゃねーな」
バキィン!!! ズドオオオン!!!!!!
シグが止めていた恐竜を殴り飛ばし、地面に落下した瞬間。『暗青のアストリオン』がフウッと霧散し、麝香の香りを撒き散らしながら、恐竜は消滅した。
「わかってる」
「なるほど、一体一体はそれほど強敵ではないな。ただ、数が多すぎる。大小合わせて、五千体は越えているだろうか……。『アストリオン』が通っているので、かすり傷でも多少は『アストリオン傷』を受けてしまう。気をつけよう」
「ケッ。こっちの手の内を直接、経験しよう、ってハラだな。あのオッサンが考えそうなこった」
恐竜たちは思い思いに叫び声をあげ、その大合唱はもはや、渦巻いた執念が不協和音となって、地獄で亡者たちが奏でる叫び声、世界を呪わんとする悪神への賛美歌のように聞こえた。でもそんなの、どうでもよかった。興味ないもん。
「関係ないよ。全部倒していこう」
「勿論だ」
「クックック、ギャッハッハ!! いいぜ!! やってやろうじゃん!!!!」
わたしとシグの周りに、『翠緑』と『白銀』の粒子が漂い、体表を薄皮一枚覆った。刹那、目映い二つの光が恐竜たちを照らし、吹き飛ばした。アーマー化したバロックが装着されたわたしの周囲には翡翠の花びらが舞い、シグの周りには光の破片が太陽光を乱反射させた。
「『『第2の願い』』――、『『
同時に『装纏』したわたしたちは、真っ直ぐ研究所の入り口に向かって、『暗青のアストリオン』で構築された恐竜たちを何百体も破壊しながら突き進む。バロックの知識がわたしに共有され、襲いかかってくる恐竜の名前が脳裏に浮かぶ。
「正面にアウカサウルス。肉食恐竜。何千万年も前のヤツ。飛び後ろ回し蹴りで側頭部を破壊。次! 背後からヴェロキラプトル。小型でメッチャはえーヤツ。『
キキキキキキキキキン!! 上下左右から剣閃が唸る。シグも光の剣を出し、電光石火の剣戟が、恐竜の群を片っ端から細切れにしているのだ。『因果断裂』。防御不可の連撃によって大きなトカゲ達は、暗い青の塵へと帰していくのだった。
「上に鳥みたいなのがいるよ、バロック」
「『
パパパパパパン! と上空に黒いしゃぼん玉が無数に現れては弾け、空を飛ぶ巨大な翼竜の翼に穴が空き、墜落していく。前にEINベースで作った技だけど、ようやく活躍の機会が与えられた。
「へへ。やったね。『漆黒のアストリオン』は一撃必殺すぎて、ルシフェン戦のときも使いづらかったんだよね。あの人、直接攻撃しかしないから……」
「ま、あんときゃ目的は『救済』だったしな」
際限なく向かってくる恐竜たちを跳ね除けながらわたし達は研究所の入り口へと走っていくと、あと100メートルにまで迫ったそのとき、目の前にこれまで破壊した『暗青のアストリオン』が再び集まってきて、超巨大な恐竜へと変化した。
「これは知ってる! ブラキオサウルスだ……!」
「とはいえ、まだ前座ってとこだな。あの技で決めちまえ」
ドクン……! 目覚める『紅蓮の心臓』。わたしの瞳が真っ赤に染まり、牙だらけの口がガパッと開いて、赤い霧状の『アストリオン』が溢れ出す。わたしの体内に安置されたもう一人の『宿主』――ルシフェンの『願い』。
「ハァァァァァ…………。『第1の願い』を再発動……。『
ズオオオオオォォォォォォォォォッ………!!
わたしとバロックは『悪魔纏装』したまま巨大化し、体長15メートルの巨人へと変化した。本気を出すと何百メートルにもなり『アストリオン』を大量消費してしまうので、時と場合、相手に併せた大きさにする、って訳。
「喰らえっ!」
ちょうど目の前の高さにブラキオサウルスの顔面がぶら下がっていたので、パンチバッグを叩くような感じで、思いっきり殴りつけた。パーン! とブラキオの頭は弾け飛び、そこから全身に波紋が伝わっていくようにして、ボボボボボッ! と端から砕け散っていき、青い粒子になって消滅した。わたしは『
「ついた」
そこにシグも合流。目の前には内部が見えない構造の、金属の自動ドアが設置されている。右側にはカードキーと網膜認証のシステムロックがあり、本来ならばここに必要なアイテムを使って、扉を開けなくてはならない。本来は。
「さ、第2ステージだ」
シグは切り裂くこともせず、『白銀のアストリオン』に『小さな願い』――つまり、扉を開けるという『願い』を籠めることで、難なく扉のロックを解除した。扉は、プシュ、と油圧シリンダーの動作する音を出しながら開いた。中は真っ暗で、何も見えない。
「フン……、別空間に繋がってやがる。罠だな」
「ま、行くけどね」
わたし達は迷わず飛び込んだ。
しばらく落下するような感覚が続いて、ゆっくりと着地する。
カサ……。
何か、紙のようなものが大量にある。
真っ暗な中に、薄ぼんやりと床が光る空間。
上を見ると天井はなく、宇宙空間が広がっていた。
「ようこそ。『秘密の小部屋』へ――」
わたしは目を閉じた。
ああ……。
インスタントコーヒーに、シガレットの香りだ。
わたしはなぜか、ぐっと胸に込み上がるものを感じた。
「……神父様」
「久方ぶりだね。君は相変わらず、あの店のコーヒーを好むようだ」
「さっき、テイクアウトして、車で。――近くの空港で、限定のマグカップも売ってたんです」
「――それは良かった」
神父様は、以前会った時より更に老けて見え、80歳くらいに見えた。不死の肉体に老いを生じさせるほどの幾星霜――。ここでまた、過ごしていたんだろう。何十年も、何百年も、何千年も……。たったひとりで。
「……神父様」
「表の恐竜たちはどうだったかね? なかなか良いアトラクションだっただろう? 勿論、あんなもので君たちを倒せるとは思ってはいないが――」
「……わたしたち、戦わなくちゃ、ダメですか……?」
「ハハハ。解っているだろうに。『黄金の結晶』を渡してくれれば、私は満足だ」
「……ッ」
――――ヴァイオラ……、――ヴァイオラ――――
ハッとしてわたしは顔を上げた。神父様の周りに漂う『暗青のアストリオン』……。そこから声が聴こえたような気がしたから。
「ゴーティオン……」
……――私の事は気にせず、この男の苦しみを終わらせてやって欲しい――……――愛おしい娘よ……お前は、すでに私と――……
「……ァイオラ、ヴァイオラ!」
シグがわたしを呼んでいる。
――ハッ!?
しまった。『麝香』で意識を持っていかれた。
神父様はジョゼと同様に、ゴーティオンとほとんど一体化しているみたいだ。
あの『魔眼』と同じような強烈さだ……!
鼻の奥が焼け付くように痛い。
「ガハッ!」
血だ。目眩がする。
『翠緑のアストリオン』で回復を……
刹那、神父様が掌に暗青色の球体を作り出す光景が目に飛び込んできた。
「『第4の願い・
早い。そう思った瞬間。思いつく限りのありとあらゆる生物が……、『暗青のアストリオン』で実体化し、その全てが『暗青の鱗』に包まれ、ギャリギャリギャリと金属が擦れるような音を響かせて、火花を散らしながら、わたしの視界を埋め尽くした。青く光る無数の目が、わたし達を見つめている……。
「そしてこれが私の『第5の願い』――『全ての生命を再現する願い』――だ」
その時。頭上に異様な圧迫感。ゆっくりと空を眺める。巨大な生命体の形をした塊が、わたし目掛けて落下してきた。あれは海の生物……。空中にそれが突然現れ、迂闊にもわたしは一瞬、気が動転してしまった。
「クジ……ラ……?」
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン……
バサバサ…… バサ…… カラン……
「くっ……、ゲホッ、ゲホッ……」
「ヴァイオラ油断するな! 来るぞ!」
「なにあれ……きゃあああああ!!」
ブオオオオオオオオオオン……!
黒い霧が……、いや! 黒くて小さなものの集団! それが羽根を広げて突っ込んでくる。あれは虫……、バッタ……、いや。『イナゴの群れ』……!? 何億もの青黒い弾丸が飛んできて、『翠緑のアストリオン』が食われ、削り取られていく……! このままではまずい……! シグも同様だ。虚を衝かれたわたしたちをカバーするため、バロックが声を荒げて指示を出す。
「ヴァイオラ! シグ! 防御だ!」
「『第3の願い・
取り出した『漆黒のメダイユ』を『
「ハァ……、ハァ……、メチャクチャだよ……」
次々に襲いかかってくる動物たち、猿、狼、ライオン、ゴリラ、シャチ……、それらが自分から突っ込んできて、勝手に破壊されていく。ただ、このままだと……、神父様の物量攻撃が圧倒的すぎて、攻撃に転じる余裕がない。そして、ジリジリと少しずつ、『アストリオン』が消費させられていく。
「神父様、持久戦が目的……? でもこれじゃ、お互い削り合うだけ……」
「フッフッフッフ……。まさか。そんなつまらないやり方で、この戦いに決着をつけるとでも……? 『第5の願い』など、ただの布石に過ぎんのだがな……?」
「……!?」
神父様の両目が光る。まずい。『第6の願い』だ……! 無限に近い時間をかけて『願い』を練れるのに、7つもあるなんて……。
ずるい!
「『第6の願い』を再発動。『黄泉帰れ、古の王よ』」
バロックの目が大きく開く。展開が急すぎて理解が追いついていないんだ。
古の……王……?
「何ッ!? ど、どういうイミだ……!? 『王』……、だって?」
「……クックック……、まあ、見れば理解る……、厭が応にも……」
ズズズズズズズズズズズズズズズズズズ……
これまでの生物たちとは違う、濃い『アストリオン』……、今までを例えるなら水で溶いた水性絵の具だとすると、これはチューブからそのまま捻り出した油絵の具のような……。それが、低い振動音を撒き散らしながら、ある生き物を形どっていく。シグがそれを見、そいつの名前を一言、漏らす。
「T-REX」
そうだ。遊園地とか、博物館とかにいる、あの恐竜だ……。流石にわたしでも知ってる。
「それって、ティラノサウルス……だよね……?」
「ア、アレ? だけどよ、また恐竜か……? なんで……!? 外でバチクソやって、オレ様たちにはゼンゼン通じてなかったろ……?」
神父様が微笑みながら(目はぜんぜん笑ってないけど)、人差し指を左右に振る。
「……チッチッチ。よく見たまえ。T-REXに『角』は生えていないだろう?」
「『角』……だって……? ま、まさか……」
「に……『虹色の……アストリオン』……!?」
ゴオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
そいつの頭上に『虹色のアストリオン』で出来た輪が掛かり、真っ黒な穴が開いた。わたしは知っている。これは…、これは……ッ!
「『悪魔の願い』だ……!」
「……御名答。私の『第5の願い』は、奴を探し出すためにあった。雑魚を大量生産するなど、副産物に過ぎん。『王の試練』は、なにも人間だけが対象とは限らないのだ。考えてもみたまえ。生物が誕生して、どのくらいが経過しているのか……。原初の『願い』とは? そして、過去の『王』とは、何者なのか。全てを吟味した結果、6600万年前に、私の理想とする者が一人だけ存在した。……それが、奴だ。――もう一つ教えてあげよう。この願いは、『第2』『第4』『第5』『第6』……、四つの願いを掛け合わせたものだ。この空間で、悪魔の設計図で、全生命を再現し、恐竜の王を喚び出す……。さあ……君たちの好きな計算を、してみるがいい」
「(100/7)^4=41649.31278633903……、つまり……約41.7倍の出力……だと!?」
「(まずい……、わたしの『アストリオン』は今……!)」
穴の奥から何かが飛んでくる。そのぜんぶが『虹色』に輝いている。一つでも確実に致命傷なのに、百発やニ百発じゃない。周囲は『暗青の魔物』たちに取り囲まれていて身動きが取れない。相互作用で『第5の願い』も膨れ上がっているんだ……!
瞬間移動……できない! この空間のせいか。
まずいまずいまずい。
「上を見たまえ、ヴァイオラ君。……チェックメイトだ」
あれは……
……隕石…だ……ッ!!
「……ッ」
耳鳴りが……………。周りの状況を……。
「……ほお……、まだ息があるとは……。流石に複数体の悪魔を取り込んでいるだけはある。だが、お前の悪魔と従者は……」
「バロ……ック……、シ……グ…………」
バロック……ズタボロだ……
……シグは……、バラバラに……。
「ヴァイオラ……僕はもう戦えそうにない」
「まだ……、まだだよ……。ゴホッ。
……わたしが……神父……様を……、倒す……。だから……、力を……!」
「……死ぬなよ……、ヴァイオラ」
シグが……光の粒子になって……、一つに集まる。
光が……収まったあと……わたしの手のひらには、『白銀のメダイユ』があった。
「ありがとう……、シグ……」
シグの残った『アストリオン』が共有され、わたしの体力が急速に回復していく。
「――やれやれ、諦めの悪いことだ……。当然、君自身は視認できない事だが……、君が『翠緑のアストリオン』で自己修復していく様は文字通り……、アンデッドそのものだったよ。いやはや……。君は到底、人ではないな」
と、神父様は、背中で手を組んだまま、這いつくばったわたし達を見下している。長いお喋りでようやく上体が起き上がれる状態になって、ぐぐぐ……、と、腕の力でなんとか身体を起こす。
「いてて……。神父様だって、人のこと、言えないと思いますけど……」
「……」
神父様と『暗青色の魔物』たちは、わたし達が体勢を整えるのを待ち構えているかのごとく、警戒体勢でじっとしている。T-REXの『願い』は、連発ができないんだと思う。そう、ジョゼの『星幽監獄葬』と同じように。『太古の王』の強大な『虹色のアストリオン』を利用した、とはいえ、数百発すべてに破壊のエネルギーを篭めたわけだから……。
「……無駄な足掻きを……。君は悪魔化が進行し、『心』すらその悪魔に捧げ、もはや『アストリオン』の塊が人の形をとっているに過ぎない。知っていたかね?」
「知ってます」
耳に痛い言葉で、心を折りに来ている。――でも、今のわたしには、効くはずない。
「――その心の穴を、みんなが埋めてくれている。だから、大丈夫」
「……」
涼しい顔をしているけど、神父様も実は大量の『アストリオン』を消費していて、体勢を整えているんだ。今の一撃で決まると思っていたから。その証拠に、追撃が来ない。わたしは、倒れたままゼェゼェと息を荒げているバロックを見る。
「……バロック、いける?」
「ケッ……、悪魔使いの……荒いヤツ……だぜ」
「これ、使って」
わたしはバロックに、右手の親指に嵌った『赤い宝石』の指輪を渡す。これはライグリフの本体であると同時に、『悪魔の願い』の結晶体でもある。つまり、バロックを修復できる効果があるはず。――手にとったバロックの身体に赤い光が伝播し、ゴミ捨て場に捨てられたボロボロのぬいぐるみ状態から、一回洗ってあげたくらいまではキレイになった。
「へっ。……やいやい嘴ジジイ。オレ様に……力を貸せ。あのクソトカゲは、どうやら大昔の『宿主』らしいぜ……。強えヤツと戦いたいんだろ? ……オレ様たちがアレをブッ潰しても、今の『王の試練』にはカンケーねー。やっちまおうぜ」
赤い宝石がキラリと怪しく光る。
「クックック……、面白い……。悪魔が、悪魔を『
「ぶっつけ本番だ! いくぜ! ライグリフ!」
「すまんがバロック、お主、人間態になれるか? そのサイズだと流石に併せ難い」
「あー、これでいいか?」
バロックが光に包まれたかと思うと、前に神父様と戦った時みたいに、人間の姿へと変化する。ブルネットの髪、赤いリボンのブレザーとプリーツスカートの制服、黒いタイツに革のローファーの姿。――要するに、わたしの姿になった。やっぱり自分がもう一人いると、ちょっと妙な気持ちになるな……。神父様にとっては因縁の姿だ。
「……またそれかね。以前のような騙しは通じんよ……?」
「そんなの、わかってら……!」
わたしの姿になったバロックが握りしめた『赤い宝石』は、太陽を直接見た時みたいに強烈な輝きを放って……、バロックの身体を覆い尽くしていく。
「『
黒いアンダースーツに包まれたバロックに制服意匠のアーマーが覆いかぶさり、赤黒い羽毛のような刃がアーマーの上部に組み合わさっていく。さらに、ライグリフの意匠である鷲の嘴が頭部を覆い尽くし、それがバカッと開いて、バロックの頭部を模したヘルムの全面が出現する。両肩部は鷲の爪を模した防具となって、最後に背中へ真っ赤なマントが翻った。
「うおおおお――ッ!」
「フハハハハハ――ッ!!」
右手には『
「……ほう……、確かに『太古の王』にならば、『願いの悪魔』をぶつけても、咎めはないだろう。まあ、この程度で終わってしまっては、つまらない所だった。まだ『第7』の願いも見せていない訳だからな……」
『第6の願い』一撃でほぼ壊滅状態になってしまったのに、神父様はまだ本気を出していない……! この事実が重くのしかかる。すうう……と、虚空に鰯の魚群、回遊するマグロ、ジンベイザメが回転し、ゆっくりと毒針を漂わせるクラゲが、わたしの目の前を泳いでいった。神父様の『アストリオン』が回復しつつあるってこと。
――きっとあの『太古の王』は、この世で一番強くなることを願って、あまりにも強すぎる力を手にした結果、自らの種をも滅ぼし、孤独になってしまったんだろう。神父様も同じ事。幾ら肉体が不死でも、孤独は魂を蝕む。遥かなる太古の『宿主』を喚び出すなんて……あんな『願い』、一体どのくらいの時間を掛ければ叶うんだろう……。
「でも、わたしは負けない。今こそ、あなたと、力を合わせる時――!」
わたしは、『紅蓮の心臓』へ意識を集中する。
――ドクン!
瞳が真っ赤に染まっていき、『翠緑のアストリオン』と、『紅蓮のアストリオン』が、まるで大理石模様のように混じり合う。皮肉な話しだけれど、『アストリオン』の総量が減ったお陰で偶然、わたし一人でも『紅蓮の心臓』をコントロール出来る状態になっていた。
「――『翠緑』と『紅蓮』。フフ……、正に悪魔を表現する色そのもの、だな……。今の君に最も相応しい色だな、ヴァイオラ君。――では最後の勝負と行こうか。見せてあげよう。我が『第7の願い』を――!」
神父様が『最後の願い』を発動させようとしている。それに呼応するかのごとく、パキパキパキ……と、わたしの身体が、『
「人間とか悪魔とか、そんなの、どうでもいい。わたしはわたし!」
ボッ……、と拳に破壊のエネルギーが満ちて、両腕が『
「いくよ、ルシフェン……。全部……ブッ壊してやるッ!」
to be continued...
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