第15話 バロックの涙

ヴァイオラと銀色王子が対峙する。二人共『悪魔装纏デヴィル・ドレスト』を行った状態だ。片やヴァイオラ、身体にピッタリとフィットしたアンダースーツの上に紺の制服を基調としたアーマーが装着され、頭部にはオレ様の尊顔をスマートにした風のメットを被っている。片やシグ。


「か、かっこいい……」


まるっきり最新鋭のロボットアニメに出てくるような、流線型かつトゲトゲピカピカな白銀の鎧、小さな銀色の翼。緻密な細工が全身に施されておりとにかく情報量が多い。ヴァイオラの目がすっかりハートマークになってる。


「オレ様、もう帰っていいか……?」

「ええ~っ。つまんない」


銀色王子の拳に『白銀のアストリオン』が集中していく。ソレを見て、オレたちのスイッチもおふざけモードから、マジモードへと切り替わった。


「来るぜ」

「……ええ」


――音もなく。眼前に『銀色』が出現し――


「グッは……」


ヴァイオラの鳩尾に思いっきりストレートが炸裂していた。全く視えない攻撃。瞬間移動や、時間停止の気配すらない。感覚共有しているオレ様にも、腹部の激しい痛みが伝わってくる。ヴァイオラがアーマー内で吐血した。かなりのダメージだ。即座に『翠緑のアストリオン』での治療が行われる。


「クッソ……、おい! テメエ! もっと優しくしろよな! 女の子だぞ!」

「ゲほッ、ゴホ……。わたしは油断してなかった。それに『星紋交差アストラ・クロス』が発動しなかった……」


先制攻撃を成功させ、反撃を避けるために一旦距離を取った銀色王子とヘッジフォッグ。一体全体、アイツら何しやがった……?


「この初撃に耐えるとは……」

「……100%の願いが発動している者同士だからな、条件は五分だ」

「~~~~ッ」


さっきまでのハートマークはどこへやら。ヴァイオラは一撃喰らわせられたことに少し怒っているようだ。ただ、これは別に勝敗を決める戦いではない。アイツらがオレたちの実力さえ測れればいい、それだけの戦い……。


「……一発やり返さないと気が済まない」

「オ、オイ……、手加減しろよな……」


ヴァイオラの右手に『アストリオン』が集中する。うーん。しかし、逆に言えば、奴らがこの一撃を受け止められなければこの先、足手まといになっちまう可能性もあるからな。試しに撃たせてみるとすっか。


「『星紋撃勁アストラ・レイド』……!」


オレたちの周囲に漂う『アストリオン』の密度が急激に増し、爆発的な推進力となって亜光速へと突入する。モディウスのような先読みでない限り回避は不可能な攻撃。あのジョゼですら受けることが出来なかった一撃だ!


ギャリイイイィィィィン!!!!!


激しい金属の衝突音が響き、地響きが起こる。シグの『悪魔装纏デヴィル・ドレスト』による完全自律防御フルオートガード……! 顔面の位置を防ぐように銀色の盾を構え、ヴァイオラの『悪魔装纏デヴィル・ドレスト』による一撃を完璧に防がれた……!


「……何ッ!」


……かと思いきや、盾にビシ!ビシ!とヒビが入り、バギィィン! と砕け散った。刹那! ヴァイオラはその場で前方回転し、シグの頭頂部目掛けて回転踵落としをブチカマした。


ガッキィィィィン!


シグの完全自律防御フルオートガードは完全に間に合わず、両腕をクロスしてヴァイオラの攻撃に備えたが、想定外の速度と衝撃に耐えきれない。両腕のアーマーが破壊され片膝をつく。とその瞬間、シグの手元に何かが光る! ここでヴァイオラの『星紋交差アストラ・クロス』が機能し、紙一重でその光を躱す。


「……ここまでだ」


その光の正体は、剣。両刃の騎士剣だ。首を薙げる位置に刃が止まっている。ヴァイオラはそれを2本の指……ちょうどピースサインを閉じたような形で挟み、止めているのだ。反対側の手はシグの腹部に手を当て、ゼロ距離での『星紋撃勁』を発動する寸前のところ、シグが掌でそれを遮っている。ほぼ密着しているこの状態で、二人の動きは膠着状態となり、ヘッジフォッグがを止めた。


「「『第2の願い』を解除」」


互いにそのまま『悪魔装纏デヴィル・ドレスト』を解除し、すっぴん状態に戻る。ヴァイオラは口から吐いた血を手で拭い、へへ……と笑った。


「シグ、血まで銀色なんだね」

「君は強いな……」


そのままヴァイオラとシグは意識を失い、互いにもたれ掛かるようにしてドサッと横に倒れた。なんとも妙な喩えだが、まるで姉弟のようだ。二人共、争いとは無縁のような表情で目を閉じ、手を繋ぎあって、静かに呼吸をしている。幸せそうな顔しやがってよ。


「ハァ……、なんだか毒気を抜かれちまったぜ……」

「我が部隊の者たちよ。この二人を担架に乗せ、車に乗せるのだ。……バロックよ。話の続きは、我々の研究所で話そう。娘が持っている石も調べたいし、な……」

「そーだな」


や、ワカってはいるんだ。ヴァイオラは『宿主』だから、やっぱり同じ『宿主』に仲間意識を持つのは当然でさ。コイツがオレ様を、大事にしてくれている事も理解してる。でも、なんか、オレ様の胸に芽生えたモヤモヤが晴れることはなかった。オレ様は、どうしたいんだろうか……。


「……悩んでいる事があるなら、話せ」

「オマエはいーヤツだなあ。油断したら泣きそうだわ……」

「……部隊の者たちも運ぶからな。瞬間移動するわけにもいかんのでな」


ヘッジフォッグが部隊を指揮し、シグとヴァイオラを大型特殊車両の1台に搬入した。その内部は移動基地となっていて、メンテナンス台の周りにワケわからん機械がびっしり埋め尽くされ、シグはソコに寝かされた。よく見ると頭部の皮膚が剥がれ、外部装甲にヒビが入っている。あの踵落としコンボ、相当ヤベーな……。


ヴァイオラはベッドに寝かされた。一発貰った鳩尾が少し痛んでいるようで呼吸が荒いが、容態は安定しているようだ。『アストリオン傷』にドコまで効くかわかんねーけど、一応点滴が繋がれて、ヴァイオラの顔が少し楽になったような感じがした。


「コレ……何入ってるんだ?」

「……シグの『アストリオン』で精製した『アストリオン傷』の『治療薬』だ。こういう事態も想定している」

「そうか。そこまでは考えが至らなかったぜ……。っつーか、二人とも死なねーからって、やり過ぎなんだよ。心配するこっちの身にもなってくれ……」


オレ様は頭を抱えた。胸が苦しい。苦しくて堪らない。


「……上の世界では面倒くさがりで有名なオマエが、下界の生物一人にそこまで肩入れするとはな……。少し、混じったのか……」

「あー、出逢った時にな。コイツに齧られちまってよ。比喩じゃなくそのまんまの意味だが。そのせいか知らないが、コイツが痛いと、オレ様も痛いし、悲しいし、悔しい。ああ、悔しいぜ。悔しくてたまんねーんだよ。心が痛い。当たり前にいると思っていたアイツも居なくなっちまって……。コイツはオレ様を落ち込ませないよう、強がりやがって……」


オレ様の目から大粒の涙がぼろぼろ溢れる。もうワケわかんねー……。


「なんでこんなことになっちまったんだ」

「……では、仮にだが、時間を戻してやり直したいとは思うか?」

「…いや」

「……何故だ?」

「痛くて、辛くて、苦しい……けど、ヴァイオラと過ごした時間は……オレ様の大事な記憶だからな……。それが無かったことになっちまうのは、もっと辛い」

「……では、どうする?」

「まだ、わかんねー。だから、頭下げるよ。助けてくれ……、ヴァイオラをよ」

「……承知した」

「…………、モヤモヤを話せて、ちょっとスッキリした。……ありがとな」


オレ様は涙をごしごしと拭いて、少し笑った。

でもヘッジフォッグのヤロー、事も無げに返事しやがった。


「……それが私の『魅了』だからな。のが『趣味』なのだ」

「オイ! 趣味かよ! せっかくイイヤツだと思ってたのに! あーあ、いい雰囲気がぶち壊しだぜ……」


ま、こうやって突き放すのも、コイツなりの優しさみてーなモンか。はぁ~あ。危うくこんな朴念仁を、ちょっぴり好きになっちまうトコロだったぜ。ヴァイオラの変な虫が感染うつっちまったかな。


「へっくし」


ヴァイオラがくしゃみをした。そして寝返りをうち、大股を広げてだらしない寝相になって、何やら寝言をブツブツ言っている。


「ご飯おかわりで……」


……。



大型特殊車両は、各国間を秘密裏に行き来する地下通路をひた走っている。この通路は凡そに掘られたもので、どうやって掘ったのかはまあ――ご想像にお任せするとして、各国に伝わる『王の儀式』の歴史を継承した人々により、現在もこうして秘密裏に利用されている。って、ヴァイオラの手当をしてくれた衛生班看護師の若い女に聞いた。


「……といっても千年前のことだから、比較的新しい国では勿論、誰も知らないし、ほとんどの国では戦争などで指導者が入れ替わったタイミングで失伝してしまっていて、うちの国とか、イタリア、フランス、日本とか、歴史が深い国家の、更にごく一部の人だけが、共通の秘密として握っているの。千年前ならいざ知らず、現代でこの秘密が漏れたら……、利用する悪者が現れたりして、大変なことになるから」

「そりゃ悪かったな。ネットとかでバズっちまって……」

「いえいえ、悪魔ってそういう物でしょう。私たちが制御するのは難しい。何が起こるかは判らないから、どう対処するかが問題なの」


女は手の数字を見つめる。ヴァイオラが『アストリオン』をベアスに直接繋いで視た、死の『数字』だ……。あと59日で、全世界の人々に等しく、死が訪れる。それをこの人は知らない。オレ様は……心が苦しい。はやく、何とかしてやりたいと……、そう願ってる。


「……オマエは、本当に変わったな。良い『宿主』に出逢った」

「そうかもなー……」



大型特殊車両は数時間走り続け、そのままドイツの秘密地下研究所へ到着した。



「――って、早くね!? クルマだろ!? 直線でも5千キロくらいあんだろ!?」

「この地下通路を悪魔さんが整備してくれたのと、車輌も特別性で、シグくんの能力を使って製作しました。燃料も『アストリオン』ですし、時速500キロメートルで走れるんですよー♪」

「マジか……やりたい放題じゃねーか……」

「……ふがっ! あれ? わたし何で寝てるんだっけ……?」


うちの眠り姫もようやく起きたようだ……。


「オイ、王子様の秘密基地に着いたぞ。起きたばっかでワリーが、また作戦会議だ」

「あぁ……よく寝た……。そういえば昨日徹夜だったもんね」

「……睡眠を取ると、『アストリオン』が回復するらしい。夢に関連しているという論文もある。尤も、世には出回らない論文だが」

「そっか。睡眠は大事だね」


クルマは地下通路から直結している地下駐車場に入っていった。素っ気ないコンクリート打ちっぱなしの壁面の一部に、やたら厳重な警戒態勢が敷かれている一角がある。


「お、あそこか」

「いえ、違います。こちらです。あれはフェイクの入り口です。本物はこちら」


看護師の女がスマホの専用アプリをピッと起動すると、なにもないコンクリートの壁がスッと音もなく開き、入り口が現れた。


「マジかよ……、完全に騙されたんだが……」

「すごーい! 映画みたい!」

「どうぞ、お入り下さい」


入り口から入ると、10メートルほどのガラス張りの通路を進まされ、今度は別の認証システムを使う入り口が現れた。


「これは『アストリオン』を認証するシステムです。ここの研究員は全員、シグくんと同じ構成体で造られたICチップを埋め込んであり、その『アストリオン』に反応して扉が開く仕組みになっています。後ほど、ヴァイオラさんの『アストリオン』でもアクセス可能にしておきますね」

「うわーっ! ありがとうございます!」

「そんなこと出来んのかよ!?」

「はい」


二重扉の一枚目が開き、シャアーッという音を立ててオレ様たちは滅菌され、カシュッと二枚目の扉が開く。その内部は――と、解説する前に、ヴァイオラが感想を述べる。


「SF映画で見る秘密基地っぽい!」

「そのまんまじゃねーか!」

「そうですね。大雑把に説明しますと、各研究員が各々研究する研究棟、中央司令部、ブリーフィングルーム、ミーティングルーム、レストスペースなどがあります」


赤いパンチングカーペットが敷かれた段差の一番低い場所にあり、全体が見渡せるここは、中央司令部の応接スペースらしい。この場所を中心にぐるりと360°、様々な施設の状況が見て取れる。超でかいモニターの一部には、先程までオレ様らが居たUAEのカフェが映し出されている。その他、なんか見慣れた光景がいくつか。


「あれ!? わたしの学校まで!?」

「……ごめんなさい、実はあなたが学校で『アストリオン』を使用している所が目撃されていたので、監視対象となっていたんです」

「……」

「ほーら。だからよー、隠しとけって言ったのによ~」


オレ様たちは、応接スペースのテーブルに案内され、座るように促された。めっちゃ高級な椅子とかではなく、キャンプ用の頑丈なパイプ椅子とテーブルだ。その隣になぜか、本革のでかいソファが置いてある。ヴァイオラはパイプ椅子に、オレ様はそっちに座った。


「ちょうど、良いコーヒーがあるので、お淹れしますね」

「ありがとうございます」

「良きに計らえ」

「ちょっとバロック! 何様!?」

「いえいえ、では少々お待ち下さい」


ヴァイオラがオレ様に向かって変顔をしながら「イーッ」とか言ってくる。オレ様も負けじと過去最強クラスの変顔をブチかます。するとヴァイオラがそれを上回るような究極レベルの変顔を作り出す。オレ様も負けじと……


「こんにちは、初めまして」

「は、はひ」

「誰?」


ヴァイオラは凄まじい変顔のまま、そこに現れた一人の研究者に返事をした。すぐさま「あっ!」と短く叫んで、お行儀よく座り直した。今更感が半端ない……


「す、すみません……」

「ぼくはこの研究所の所長。三神賢一郎って言います。以後お見知りおきを」


その研究者はパッと見40台前半くらいで、180cmくらいのタッパで、体型はフツーで、わりと整った顔をしていて、ちょっとだけテンパーの黒髪で、細いフレームの四角い眼鏡を掛けてて、ヨレヨレの白衣を纏って、無精髭が生えていた。


「わたしはヴァイオラです。多分ご存知かなとは思いますが……」

「そちらはバロックくんかな。よろしくね」

「おう。っつーか、ドイツの研究所なのに日本人がなんで?」

「ま、色々あってね……」


そこに、さっきオレ様らを案内してくれた女看護師がコーヒーを持ってきてくれた。


「三神さんは20年ほど前、日本のとある研究所で所長をされていたのですが、その時の功績が認められてスカウトされたのです」


さっきまでの看護師の格好から打って変わって、ブロンドのボブヘアー、ワインレッドのスーツを着こなし、モデル体型、サングラスとマスクを取ったらちょっと引くくらいのメチャクチャな美形な女性だった。


「彼女はエリザベート。ぼくの助手兼、凄腕のエージェントだ」

「よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします……!」


オレ様は早速、コーヒーを頂く。


「お、このコーヒーめっちゃいい香りだし美味いな~」

「あれ! コレってもしかして……コピ・ルアクですかね……?」

「よく判りましたね。珍しいものを頂いたので。砂糖椰子もどうぞ」

「やったー、戴きます! ……う~ん、このチョコレートのような香り……最高」

「なんか変わった香りだよなー。製法が変わってんのか?」

「うん、麝香ジャコウ猫の糞から取るんだよ」

「ブ――――――ッ! まじかよ!」

「きゃあ! ちょっと! もったいない! すっごい高級品なんだよ!!」

「知るか! 味は確かに悪くないけど! 先に言えよ! 覚悟させろよ!」


「は、はは……。確かに報告通り、安心感のあるコンビだね……」

「そうでしょう。私はドクトルに会わせても大丈夫かと思います」

「そうだね」


隣で大人二人がなにやらぶつくさ言っている。オレ様はピーンと来た。


「ドクトル? ははあ……。さては、シグに『宿主』の権利を譲ったヤツだな」

「おお、その通り! さすがは『悪魔数3』、ドグネク族の悪魔だね。ドグネク族は推理力が高いという伝承があるが、まさにその通りだ!」

「それではバタバタとして申し訳ありませんが、ドクトルの部屋までご足労下さい」


超レアコーヒーの鑑賞会もそこそこに、エリザベートちゃんがお部屋まで案内してくれる。これまで以上に厳重な警備が敷かれた通路を通り、何箇所も様々なチェックをパスして、ようやく部屋に入る。そこはお世辞にも綺麗とは言い難い……というより、書類が乱雑に重なって足の踏み場もない、うかつに棚に触ろうものならば書類雪崩が発生するであろう、恐るべき部屋であった。黒板の前に机が一つ。そこに乗っていたのは……


「脳ミソかよ」

「……っ!」


そこには、いくつにもスライスされた脳ミソが、白っぽい液体に満たされた一つの瓶に収められ、何本ものケーブルで繋がれているという、若干ホラーショーな光景だった。ヴァイオラはてっきり人間と会うものだと思いこんでいたため、硬直している。


「ヘッジフォッグのヤツ、何考えてんだ……?」

「この……、人?……は、生きてる……んですか?」

「恐らくは。というのも、意思疎通できるのがヘッジフォッグだけなのです」

「彼は生前、非常に高名な学者だったんだ。名前は公表できないんだけどね。言い方はちょっと悪いんだけど、ヘッジフォッグが目をつけて、今に至るってわけさ」


オレ様とヴァイオラはこれまでのことを、二人+瓶詰め脳ミソの前で話した。オレ様とヴァイオラの出会い。学校で『アストリオン』を練習したこと。モディウスのおっさんとゴーティオンのこと。暴走したジョゼの怒りを収め、親交を深めたこと。ジョゼと三人で、イタリアやフランスに行った時のこと。アルルの遺跡でのこと。


「あの『数字』は、『全人類を滅ぼす願い』でした。みなさんの手にある数字は、人類絶滅へのカウントダウンなんです……」

「やはりそうか。99%だと思っていたが、確認できて良かった」

「ここの皆は既に覚悟しています。問題有りません」


続いて、バッドロックの棲家で特訓したこと。ヴァイオラがジョゼを好きになったこと。ジョゼとUAEに行って、ベルゼとフライピッグに会った時のこと。暴走したベルゼに手も足も出ず、ジョゼを失ったこと。……と、ここでヴァイオラが耐えきれずに涙をこぼしてしまった。エリザベートがジョゼをハグして背中を擦る。


「……辛かったね。一人で抱え込んで……」

「うっ…う……、う……」

「ここからは、ぼく達もサポートする。色々考えたんだが、我々二人、それにシグとヘッジフォッグ、計四名が、君たちに同行したいと思う。リーダーは現時点で情報を一番持っており、実力も高いヴァイオラ君にお願いしたい。チームで行動しないか」

「オレ様は構わねーぜ。ヴァイオラはどうする?」

「……うん」


ヴァイオラはエリザベートにハグされたまま頷いた。これでオレたちの共闘が決定し、残る3人の『宿主』を倒すことが明確な目的になった。オレ様が纏める。


「『悪魔数1』ライグリフ。アルルの遺跡を破壊。オレたちは最初の報道でしか知らなかったが、さっきヴァイオラが寝てる間にクルマで話聞いたら、世界中のあちこちでエグい破壊活動を行っているらしい。『悪魔数4』ベアス。全人類を滅ぼす願いを発動している。『悪魔数7』ゴーティオン。っつーかモディウス神父。ヴァイオラの持つ『黄金のメダイユ』を狙っていて、ヴァイオラごと消そうとしている」

「――バロックさん、有難うございます。三神さん、話し合いは無理そうですね」

「ああ。基本、倒す方向で良いと思う。ここまで二人の『宿主』を支配下に置いているヴァイオラ君が、最終的に、彼らに勝利して欲しい。いいかな?」


三神に尋ねられ、ヴァイオラが頷く。


「……わかりました!」

「では、以降はシグとタッグを組んで戦ってもらいたい。一旦休憩にしよう。専用の部屋を用意してあるので、一時間後にブリーフィングルームに来てくれ。互いの『願い』の内容や、出来ること全て共有する必要がある。こちらも、シグの『5つの願い』を全て公開するよ」

「ここまで来たら秘密もクソもねー。アイツらぶっ飛ばして、終わりにしようぜ」

「2枚の『メダイユ』についてはデータを取得済みなので、後ほどお返しします」

「仕事はっや!」

「ありがとうございます」



オレ様とヴァイオラはドクトルの隠し部屋を後にし、ゲスト部屋に案内された。部屋はフツーに高級ホテルみたいな感じで、オレらみたいな、「仲間になりそうな『宿主』用に予め用意されていたんだろう。ヴァイオラは部屋に入るなり、ふかふかのベッドにごろりと寝転がった。コイツっていつも真っ先にベッドに寝転がるよな……。


「眠い……。いくら寝ても寝足りない……」

「『アストリオン』の使いすぎかもなー。寝ると回復するっつーことは、寝ないとダメだ、ってこった」

「心配してくれてるの? ……ありがと」

「無理すんなよ」


オレ様はヴァイオラの側に近寄ってくっついた。甘い、いい香りがする。以前ジョゼが表現していたのはなんだったか……。紅茶っぽいと言っていたような気がする。ヴァイオラはオレ様の頭をすりすりと撫でる。……この時間が永遠に続けばいいのに。


「シグの『5つの願い』ってなんだろうね」

「……あー。以前のオレ様予想だと、『①設計図からシグを創る』『②作成したシグに、宿主の権利を譲る』『③悪魔装纏デヴィル・ドレスト』『④不明だが、恐らく必殺技に関するもの』『⑤不明』……と言った記憶がある」


ヴァイオラは顎のあたりに手を添え、寝転がったまま、小首を左右に傾げる。


「シグと手合わせして。相打ちになった時。同時に、って宣言した。つまり、『悪魔装纏デヴィル・ドレスト』は『第2の願い』ってことじゃない?」

「あぁ、そういえばそうか。オレ様の予想、外れたわ……」

「バロックの予想も外れる時あるんだね……。ふあ……」

「……ちょっと寝とけよ、また『アストリオン』使うぜ、きっと」

「そうだ…ね……」


と言いながらヴァイオラは寝落ちした。一応タイマーをセットしておこう。室内の時計を操作して……と。オレ様もその隣にポスっと収まり、寝ることにした。





ピピピピピ、ピピピピピ……


「……あ、……寝ちゃったのか……」

「うーむ…‥…、寝た気がしねー……あと100年くらい寝たい……」

「行きますか……」

「おう……」


ブリーフィングルームはガラス張りの10メートル四方くらいの部屋で、ホワイトボード、たくさんのペン、タブレット、モニタ、カメラ、ヤマドリヤシ、とブリーフィングに必要なものが全てそこにあった。メンツはオレ様たち以外、全員が揃っていた。三神のおっちゃん、エリザベートちゃん、銀色のアイツ、トゲトゲわんこヘッジフォッグの四名、あとなんかメモボード持った一般研究員が10人くらい。


「お疲れ様ー。少しは寝れた?」

「はい……」

「ゼンゼンだわ……」

「それではまずシグの『5つの願い』と、その派生する『技能』からお見せします」

「はーい……」



ヴァイオラとオレ様は眠い目をこすりながら、卓に着いた。



to be continued...

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る