第13話 紫煙が再び薫るなら
朝チュンの時間だ。と思ったらなんかデカい鳥が外を飛んでいった。そういえばこの街は地元民がハヤブサを飼うのが流行ってるとかなんとか。……それは兎も角。オレ様とヴァイオラは、超空間に囚われているであろうジョゼとベルゼ、それとアホ豚をこちらに呼び戻す最善手を編みだすべく、作戦会議を行っていた。
「ダァ―――――――メだ! 全ッ然思いつかね――――――ッ!」
「一晩中考えたのに……。あ……そうだ。お金準備しないと」
「あー。入院と診察代か。ホント律儀っつーか、クソ真面目っつーか……」
と言ってる間に、ヴァイオラは病院着を脱ぎ捨ててスッポンポンになった。すべすべの肌、もちもちのお尻……
「うっ、うわーっ!! お、オマエ! さっさと服着ろよーッ!」
「べつに照れなくてもいいでしょ、一緒にお風呂入ったのに今更……」
「う、うるせー! 恥ずかしいモンは仕方ねーだろ!」
「まったく。それじゃ、『アストリオン』でダイヤモンドを創って、と」
ヴァイオラが『翠緑のアストリオン』を炭素分子に変換し、26カラットほどのブリリアントカットされた透明な石を創り出した。って、おォーい!
「オマ、その大きさはヤバいって……!」
「じゃ、ちょっと行ってくる」
「ちょま……。行っちまった……。億の値が付いちまうぞ、アレ……」
オレ様は「あ~あ」と独りごちつつ、静かになった室内で、消えた仲間を呼び戻すための妙案は無いものか、と頭を捻った。ジョゼ・悪魔化したベルゼ・アホ豚。実質悪魔3体分だ。これを超空間から引っ張り出すのは、『願い』1つ分の出力だと厳しい。しかも、その『願い』だとよしんば上手く行ったとしてもだ、それ以外の使いみちがなく、結局他の『宿主』によって人類が滅ぼされちまう。
「はぁ……。オレ様はこれ以上、オマエの悲しい顔を見たくないんだよ……」
思わずお気持ちがぽろりと口をついて出てしまった。その時。
「ただいまー」
「ギャア!? いきなり現れんな! 心臓がブッ潰れるわー!!!」
「なにが??? バロックって心臓あるの?」
どうやら聞かれなかったらしい。マジ焦ったわ。あんなん聞かれたら末代までの恥。ちなみに『
「で、ナンボになったん? オレ様の鑑定では(円換算で)1億は降らないハズ」
「いや、そんなにお金いらないから、病院代とコーヒー代くらいだけ貰ってきた」
「はあぁぁあ!? また『アストリオン』で人心惑わせたのか! どうせ相手がダイヤ見て狼狽えてるから、無理やり言うこときかせたんだろ?」
「人心て、人聞きが悪いなあ。悪いことはしてないよ。多分……」
「は~。オマエ、本当に変わってるよな」
ヴァイオラは受付で支払いを済ませ、支払い証明書やら診断書やら貰うと、フツーにエントランスから歩いて外に出て、スマホでマップアプリを開き、近場のコーヒーチェーン店を検索しだした。いつぞやの屋上みたいに、自分でコーヒー出せばいいのに。「なんちゃらかんちゃらラテ!」とか言ってさー。
「バロック、違うんだよ。こういうのはお店で注文するから、いいの」
「何でオマエはオレ様の考えてる事がワカんだよ」
ヴァイオラはにかっと笑って、コッチを見る。
「そりゃ、わかるよ」
「チェッ。オレ様にもなんか注文してくれよな」
「めっちゃ苦いやつね。アドショットアドショットアドショット……」
「全然分かってねーじゃねーか!!!」
「アハハハ! 冗談だよ。こっちだね。行こ」
ヴァイオラは、笑顔だ。やっぱり、希望が見えたのが大きい。ひとまずはコーヒーでも飲んで、気分を落ち着けるとしよう。ヴァイオラがてくてく歩いていく後をついていくと、ホテルのほど近くにでかいショッピングモールがあり、その一角に「いつもの」コーヒーチェーンが軒を構えていた。文字が違うだけで、どこの国でも然程の差はない光景だ。ヴァイオラはカウンターで何か注文しており、オレ様はそのへんのテーブルを占領する方に注力することにした。
「あーくっそー! ここは限定タンブラーないんだって。ドバイ行けばあるよって言われた。行く時間あるなら行きたいよ! もう……」
「『アストリオン』で出しちまえばイイのに……」
「まーた悪態ついて。そんな事言うとあげないよー」
と、なんか茶色の氷を砕いたドリンクの上にクリームとチョコチップとチョコソースが掛かった、ヤバいブツを手に持っている。絶対にウマいやつ。これは脅迫だ。ひどい仕打ちに、オレ様は屈することにした。
「はわわわわ……、ごめんなさい」
「よろしい」
そしてオレ様の前にそれが献上された。ふわりと香るコーヒーと焙煎の苦味、それをなめらかな口溶けの氷が押し流し、優しいクリームが冷えた口の中を暖かく包み込む。忘れた頃にチョコレートが甘さの鞭で頬をひっぱたいてくる。幸せの鞭だ。
「うまっ!」
「相変わらず語彙がひどい」
「頭の中では色々考えてんだよ!!」
「わたしは、最初に来た店ではブレンドにしてる」
といって、ヴァイオラはブラックのフツーのコーヒーを口にした。
「通ぶってんなー」
「ラーメン屋さんでも、一番基本のメニューにしたいな」
「めんどくさ。オレ様なら初見でも、期間限定の一番変なヤツにすっけどなあ」
「そっか。そういう楽しみ方もあるか……」
いつもなら「絶対基本がいいって!」と突っぱねてくるのに、なんかヘンだな。調子が狂う。ヴァイオラはオレ様が変わったと云ってたが、コイツもなんか……。
「あれ?」
その時、ヴァイオラが小鼻をひくひくとさせて、何かの匂いを嗅ぎ取った。オレ様も感じる。いつかどこかで漂ってた匂い。最近じゃねー。一ヶ月以上前。ヴァイオラと出会って割とすぐくらいか。煙草の匂いだ。葉巻じゃなくて、紙巻き煙草。高級品じゃなくて、安いやつ。それに、コーヒーの香りが混じる。そして。
「麝香の香りだ!」
「この薫り……! まさか……!!」
ヴァイオラの肌がざわざわと粟立つのが判る。そうだ。間違いない。あの時に感じた匂い。青暗い色を感じる匂い。ヴァイオラがぞわぞわ……、と背中を震わせる。そう。『視られている』のだ……! あのキャソックの、咥え煙草に、眼鏡をかけた、アイツに――!
「ごきげんよう、ヴァイオラ。そして白頭の小悪魔」
ヴァイオラがばっと後ろを振り向く。そこに立っていたのは。
「神父様……!?」
「モディウス……なのか!? ……その見た目は一体……」
とオレ様が驚くのも無理はない。50代半ばとはいえ、悪魔祓いを生業にしていた屈強な男であったはずのモディウスの頬は、すっかり痩せこけ、70代前半くらいの見た目になっていたからだ。眼窩は暗くへこみ、それに反して眼球はらんらんと『暗青』の輝きを放ち、かさかさの唇は卑屈な笑みを浮かべ、肉体はある程度のデカさを保っているが指先はヒビ割れ……、今まで一体何をしていたのいうのだろうか。
「……何をしていた、か。その答えは一つ。恐怖をうち祓うためだ……」
モディウス神父は鋭い眼光でこちらを見ながら、
「恐怖……?」
「……さよう。あの時。あの女が『魔眼』で私を覗き込んだ時のことを覚えているかな。私は神経を焼かれ、地獄の苦しみを味わった。だが、ゴーティオンが直前に叶えてくれた『第1の願い』で、ほんの僅か、『アストリオン』に開眼していたのだ。それが幸いし、虫の息で生き残ることができた……」
ヴァイオラはハッとし、神父のおっさんに尋ねた。
「そうだ、ゴーティオン……! あの
「どこに行っちまったんだ……?」
ゴーティオン。短い時間ではあったがヴァイオラと打ち解け、互いに信頼を得た悪魔の名前だ。暴走したジョゼが襲ってきた時、その攻撃で退却を余儀なくされた。それから一度も姿を顕していない。今も、その姿は確認できない。
「……私はゴーティオンに連れられ、誰も知り得ぬ暗室『秘密の小部屋』で自身の回復を行いつつ、あの女に植え付けられた恐怖に怯えた。あの暗室では時間の経過が外界より遅く、怯えたまま膨大な年月が過ぎ去ったのだ。数十年、数百年……、不死の身体は、死ぬことすら許してはくれなかった……」
「オイ、話が噛み合ってねーぞ?」
「神父様……?」
モディウスはやや正気を失っているように見える。仕方なくとはいえ上の世界に連れて行かれ、そこで永い時を過ごすハメになってしまったのだ。ヴァイオラが上に行った時、その光景を眺めた一瞬で顔面蒼白になり、酷いメにあった、あの場所で数百年……。普通の人間じゃ気が触れちまうハズだ(あの時、暴走ジョゼが反応していたのはヴァイオラではなく、おっさんの方だった。だから、仮におっさんが遠くの場所にテレポートしたとしても、ジョゼはすぐさま追っただろう。なのでいずれにせよ、ゴーティオンは閉鎖空間に閉じこもる必要があった)。
「……ゴーティオンは、私を護るため、私に『第3の願い』を使わせ、悪魔の粒子となって私の身体に織り込まれた。これを見給え。あの時、あの女に切断された、私の手だ。復元しているだろう。……この青い暗い色は人のそれではない。ゴーティオンはほぼ私に『同化』してしまった。もはや意識すら感じぬ。あの愛おしき私の悪魔。私たちは互いを想っていた。二度と逢うことは叶わぬのか……と絶望した……」
「神父様……」
「おっさん……」
迂闊にも、オレ様とヴァイオラは神父のおっさんに同情してしまった。まさに昨日、ジョゼを失う体験をしたばかりだから、気持ちがワカッてしまったのだ。ゴーティオンのヤツ……、おっさんを護るために消えたのか……。ヴァイオラの顔が曇る。
「ゴーティオン……」
「……私は考えた。どうするべきかと。そして思い至った。自分の身体から、ゴーティオンを分離する『願い』をするべきだとな。失われた我が悪魔を取り戻すために。そしてあの女に復讐をせねばなるまい、と誓った。これを同時に行わねばならん……。私は考えた。永い間……」
「え……それって……」
「オレたちが朝、話し合っていた内容に近いな。消えた悪魔の復活、敵に対する抑止力。その両立だ」
モディウスは高らかに宣言する。
「失われた我が悪魔を取り戻しつつ、怨敵を倒しうる力……! その結論が……これだ!」
そして手のひらの上に、『暗青のアストリオン』を集中していく。
「『第4の願い』を再発動。いでよ……」
突然光り輝く老人の姿に、周囲の客や店員は驚きの声をあげ、逃げ出したり、スマートフォンを取り出して動画撮影を始めている。ヴァイオラはちらりとその様子を見て、例のモザイクを自分にかける。色々マズい状況だが、目の前の出来事が急すぎて、何がマズいのか、解説している余裕がない。そして神父のおっさんの、新たな『願い』のお披露目会が始まった。
「『
モディウスの左手、掌の上に、暗い青の球体が出現した。それはごく細かいワイヤーフレームの球で、読めないほど細かい文字で縄文土器のような複雑な文様が形作られ、ゆっくりと回転しているように見える。まるで自転する惑星のようだ。
「『願い』!? ……一体どんな……?」
「……これは、『自分の支配する悪魔を、粒子レベルで操る願い』だ。フフフ。永い年月さえ掛ければ、悪魔を支配できる力すら『願う』事が可能……という事だな。あの女を倒したのち、この『願い』でゴーティオンを復元するのだ……」
「復元……!!」
神父のおっさんがやったのは、『願い』の最大のネックでもある、『複雑な願いを叶えるには時間がかかる』に対する一つの回答。つまり、時間の流れが遅い場所で、膨大な年月を掛ける、という荒業だ。そして、悪魔自体の操作という、超高難度の『願い』を叶えてみせたってわけだ。とんでもない執念。
「……本当に永かった……。無限とも思えるあの時間で、弱々しい『アストリオン』を使ってようやく鉛筆と紙を創り出し、ひたすら書き上げたのだ……。この願いを成立させるためのロジックをな……。あのゴーティオンの棲んでいた……時の止まった『秘密の小部屋』からは残り香も消え失せ……、紙という紙、文字という文字で埋め尽くされた……そして遂に、『願い』は叶った……」
「ンだよ! そんな裏ワザありかよ!」
ウチらも若干チートはしたけど。
「でも神父様、どうして今、わたしの前に現れたんですか……?」
モディウスは暗い洞穴のような眼窩の奥で『暗青』を光らせる。そして「フフ、フフフフフ……」と、不気味に嗤う。とてもじゃないが、久しぶりに会った知り合いに向ける嗤いではない。嫌~な予感がする。
「……私の『第1の願い』を忘れたのかね。『悪魔についての知識を得る願い』だ。私は全て知っているぞ。ヴァイオラ君。君があの女を倒し支配下に置いたことも。あの女が他所の悪魔と消え、『アストリオンの結晶』を遺したことも。あの女に対する慕情もな。全てだ……」
「……」
「……君はあの恐ろしい悪魔を好いている。……君はあの女が、私たちにした恐ろしい事を忘れたのかね……? その上で仲間になったと……?」
ヴァイオラは
「けれど、あれは……」
「……過程などどうでもよい。結果として、私は体感として数百年もの間恐怖に怯え、心が破壊され尽くし、ゴーティオンは消え去ってしまったのだ。私の苦しみが解るのか? いや、解るはずがなかろう。あの女が少しの種火でも遺しているのならば、消し去るまで私の心が癒えることはない。さあ、差し出し給え……!」
「ッ……」
神父のおっさんが、ジョゼが遺した『アストリオンの結晶』を渡せと迫ってきた。ヴァイオラは胸のあたりを庇うような仕草をする。あの結晶は、ヴァイオラの心の中に仕舞われているんだ。ジョゼを失った心の空洞に。渡せるわけがねーよ……。
「そんなことさせない……!」
「……ならば仕方がない。では代わりに、その白頭の悪魔を消し去ってやろうか。私の苦しみが少しは理解して貰えるかもしれん……」
「ケッ、やれるモンなら……。ん? ヴァイオラ?」
プッツン、とヴァイオラの中で何かがキレたような音が聞こえた。ヴァイオラは手を握りしめ、激しくうち震わせている。しかし、それでもまだ、ヴァイオラは話し合おうと試みる。
「や……やめて下さい…‥。神父様……。わたしの中が視えるなら、ジョゼを失った悲しみが解るはずです。あなただって、ゴーティオンを失ったのだから……。なのに、バロックまで……?」
だが神父のおっさんは、汚いものでも一瞥するかの如く、唾棄しながら言い放った。
「私の悪魔と一緒にするな、汚らわしい」
ヴァイオラの『翠緑のアストリオン』が、まるでジョゼの猛火の如く燃え盛る。完全にブチ切れちまった。もう誰にも止められない。怒りに震えた声でヴァイオラは宣言する。
「『第2の』……『願い』を……再発動……」
それに従い、オレ様の身体が『翠緑』の光に包まれていく。神父のおっさんには恨みはないが……。ま、お互い譲れないモンって、あるよな。仕方ねーさ。理由はともあれ、コイツの一番繊細な部分を踏みにじった、おっさんが悪い。
「『
瞬時にオレ様を纏ったヴァイオラは、技名を呟く間もなく、神父のおっさんに殴りかかった。『
「おあああああああああああ!!!」
「ハハハハ……、それはあのフライピッグとかいう豚に使った技だね。一度見せてもらったものが通じる筈がなかろう」
亜光速で放つ無数の攻撃が全て躱されている。これは『暗青のアストリオン』の効果に違いない。情報を知る『願い』から発生した『アストリオン』。予め、すべてが識られているというわけか……! オレ様と同期したヴァイオラもそれを察知し、一旦距離を取る。
「『第2の願い』、一旦解除」
ガラガラガシャ―ン! と、破壊音が炸裂した。ヴァイオラが攻撃の衝撃波を抑えているとはいえ、ちょっぴり漏れた衝撃で、おっさんの背後にあった床タイルや植木などが吹き飛んでいった。
周囲の人間は驚いた顔をしつつも全員無事だ。『翠緑のアストリオン』のバリアが個々を包んでいたからだ。パチンとバリアが弾けると、人々は蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。彼らに向かって、ヴァイオラは拡声器でも使ったかっつうレベルの大声で叫ぶ。
「すみません!! あとで全部直しておきますので―――――!!」
「おやおや。そんな事が出来るとでも?」
神父のおっさんがニヤリと嗤う。
「君とあの女の因果は、まだ細い糸のように繋がっている。君を生かしておけば、あの女が復活しかねん。つまり私には、君を消す必要があるのだ」
今度はオレ様がブチキレた。
「テメェ~~~! ホントブッ殺すぞ! オレ様のヴァイオラをやらせるかよ!」
「バロック、わたしに考えがある」
ヴァイオラはブチ切れているようで、意外に冷静だ。ベルゼとはかなり相性が悪く、何も出来なかったが、今回は勝算があるらしい。ヴァイオラは、カメラに自分が映らなくなる『モザイク』を応用して、こちらの思考が漏れないようにして、オレ様にこそこそと耳打ちした。
「(一発だけ触れられればいい。だから……)」
「(ふんふん。なるほど)」
「……密談かね。……フム、『アストリオン』で情報を遮断しているのか。賢しい真似をするものだ。余程聞かれたくないことでも?」
「ギャハハ! そりゃいーや。じゃ、いっちょやってみるか」
「でしょ。ふふ、ふふふ……」
オレ様はどきりとした。ヴァイオラが顔を上げ、神父のおっさんをゆっくりと見据えたのだ。細めた目は蛇のように怪しく光り輝いて、口角が釣り上がり、その両端からは『翠緑のアストリオン』が冷気のように降り注いでいる。そう、獲物を見つけたハンターのように……。
「な、なんだ、その笑みは……」
神父のおっさんが
「まるで……悪魔そのもの……」
ヴァイオラはその隙を見逃さず、『第2の願い』を発動しないまま、『翠緑のアストリオン』を全開にして神父目掛けていきなり突っ込んだ!
「何ッ!?」
「あッはっ! あははっ! 神父様!! そんな驚いた顔して! ふふっ!」
「くッ、『
『翠緑のアストリオン』で情報を隠匿された読めない攻撃を危うく回避した神父のおっさんは、一旦距離を離して『
「ゴーティオンの外殻だ……! 気をつけろヴァイオラ!」
「……お前達にできて、私に出来ない筈がなかろう……」
神父のおっさんが『
「『
ゴーティオンの外殻がスーツとなり鎧となり、嗄れた老躯に装着されていく。このおっさん、オレたちの技をパクりやがった。技名までそのまんまじゃねーか!
「……だったな……」
「うわぁ……、かっこいいですね神父様……! 素敵です。ふふっ、あっははは! あっはははははは! くくっ、くくくく……」
突っ込んだヴァイオラは、完全にハイな状態になっちまった……。落ち着け、落ち着くんだ……。狙い通り決められればイイが。
「君たちは分離したままで勝てるつもりなのかね」
「!」
瞬間移動! 突然目の前に神父が現れる。これもヴァイオラが得意なヤツだ。……と同時に、ゴーティオンの爪を纏った腕でヴァイオラの胸元をえぐり取ろうとする。
だが――
「『
ヴァイオラの必殺カウンター! しかし、あっさり躱されてしまう。
「……その技も視させて貰ったからな。既に得た知識であれば、当たらんよ」
「だと思いました」
神父はそのまま爪での連撃を繰り出してくる。ヴァイオラもまた、『
「……いくら常人離れしているとはいえ、人間のままでいる君には追いつけない速度まで上げてやろう。ククク……、ハハハハ! さあ、どこまで耐えられるかな……」
百発、2百発、3百発、4百発……。ヒュンヒュンという空振りの音だけが周囲に響き渡る。いくらやっても、神父の攻撃はゼンゼンかすりもしない。最初は余裕ぶっこいてたおっさんも、『アストリオン』全開で攻撃を振り回しているので、徐々に疲弊の色が見え始める。
「……ハァハァ……。何だ。何かがおかしい……。いくら『アストリオン』使いとはいえ、連続的な使用に耐えるのは限度がある筈……。こちらは悪魔と『同化』しているのだぞ……?」
「クククク……。ご老体にはちと、厳しいですかね?」
「……
神父が一旦距離を取り、掌に『暗青のアストリオン』を集中する。
「……ハァ……ハァ……だが、いくら情報を遮断したとはいえ、『第1』『第4』の願いを複合すれば、お前達の狙いなど看過できよう。フフフ……」
そして、再び『
「ヴァイオラ!! 今だ!!」
「……何?」
ゴーティオンを纏った神父の背後から、もうひとりのヴァイオラがゆっくりと姿を表す。そして、『翠緑のアストリオン』を集中させた手で、ガシッ! と『
「チェックメイトです」
神父のおっさんは理解が追いつかず、オレ様の姿と、二人のヴァイオラを交互に見遣っている。オレ様はとうとう堪えきれず、吹き出してしまった。
「プーッ! ギャッハッハッハ!! 引っかかったぜ!! 『第1の願い』を過信しすぎたな!」
「……どういうことだ……!? 何故二人いる? そんな『願い』はしていない筈……」
さっきまで神父の猛攻をしのいでいた一人目のヴァイオラが指をパチン、と鳴らすと、オレ様の姿は、フッと霧のように消え去った。神父は、ヴァイオラに化けたオレ様に振り返り、視線をあちこちに乱しつつ、少しずつ理解をし始める。
「……白頭が娘に化けていた…だと?」
「途中で入れ替わってたんだよ! バーカ!」
そう。実は、こういうことだ。
①まず、ヴァイオラが悪魔的な笑みを浮かべ、神父をギョッとさせる。実際、ちょっと人間離れしすぎた笑みだったので、オレ様までギョッとした。
②そのスキに、オレ様が元の姿のガワだけを残し、中身だけを使って『
③すぐにヴァイオラは脱皮し、『アストリオン』で自分の姿を隠して、オレたちがバチバチ始める前に物陰に隠れる。
④『王の儀式』の制約で、オレ様が神父を攻撃すると、その瞬間にルール違反で敗北になってしまうのだが、神父は一度視た攻撃を全て回避する事が判明している。なので、ヴァイオラの姿をしたオレ様に『
⑤いくらやっても攻撃が当たらないオレたちに疑問を抱き、疲弊した神父が、企みを看破するために再度、『
⑥そこに本物のヴァイオラがこっそり近づき、『アストリオン』を『
――という、多段構えのトラップだったのだ。あまりにも上手く行き過ぎて、オレ様は笑いを堪えることが出来ず、何度か吹き出してしまって内心ヒヤヒヤしたが、最初のヴァイオラの笑みが中々良かったんで、なんとか狂気的な演出にすり替えられたのではないかなー、と思う。ま、結果オーライっつーことで。
「まさか……騙したのか? この私を……しかし、何故……何が目的なのだ……?」
「もう遅い。やっちまえ! ヴァイオラ!!」
すうっ、と大きな息を吸い込み、本物のヴァイオラは高らかに『第3の願い』を叫んだ。
「『第3の願い』! 『
ヴァイオラの『願い』が光り輝き、『
「……はあぁっ!? そんなバカな。出来ない。出来るはずがない。何故ならこれは私が数百年もの時間を掛けて描きあげた最高傑作だからだ。それがこんな、一瞬で複製など出来るはずがない。あって良い訳がない。これ程、緻密な設計図を。道理に合わない……」
神父がハッとなにかに気づく。
「緻密な、設計図……!」
「やっと気付いたか! バカめ!」
「そうです。神父様なら、悪魔ウォルコーンが造った、あるものを知っている筈です。人間と共同して制作した、生命と魂を持った、機械じかけの少年」
「……ああっ!」
そう。ウォルコーンと人間たちは、銀色王子を作るため、設計図を事前準備していたのだ。緻密な設計図があると、『複雑な願い』を叶える時間が大幅に短縮される。設計図は、『願い』を叶える『回路』みてーなモンだからな。『
「……そ、そんなバカなッ! そんなことが赦される筈がないッ! 私の、あの苦労が、成果が……横取りされるだとッ!?」
「ふふ。先に『
ヴァイオラがオレ様みてーな煽りをカマす。神父が白目を剥き、口から泡を吹きながら激昂し、爪を振り回す。が、ヴァイオラは一瞬早くその場を逃れた。数メートル飛び退いて、ヴァイオラの姿をしたオレ様の隣に立ち、右手に光り輝く球体を掲げてみせた。二人揃ってポーズをキメる。
「『第3の願い・
「ありがたく頂戴したぜ。――さあ、お仕置きタイムだ」
to be continued...
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