第6話 悪魔の願い vs. 悪魔の願い

バァン! と、扉が勢い良く開け放たれた。悪魔ウォルコーンと融合しやがった人間の女が、『黄金のアストリオン』を無数の薔薇の蔦のようにうねらせ、ムチの如く叩きつけたのだ。視線が明後日の方を向いていて、完全にイッちまっている。オレ様はでヴァイオラに警告する。


「コイツは由々しき事態だぜ。あの女が融合しているのは、『悪魔数2』の悪魔ウォルコーンだ。もともと好戦的なヤツだが、どう見てもマトモじゃねえ。融合する際に暴走しちまった可能性が……」


と、オレ様が推理している所に、『』がすっ飛んできてブチ殺そうとしてきやがった。が、すんでのところでヴァイオラが『』を展開し、それを弾き返した。と同時に巻き添えで吹き飛ばされた椅子が炎上。


「熱っつーい!! なにこれ!? ……大丈夫、バロック?」

「助かったぜ。アイツ、どうやらオマエのとは違う性質の『アストリオン』らしい。椅子が発火する温度は、低くても500度弱だ。蔦が掠ったくれーでだから、デフォの温度は遥かに高いだろう。絶対喰らうなよ、……っつうか、オマエの防御力ハンパねーな……」


と、オレ様とヴァイオラが対策会議をしている最中、捨てられて雨にずぶ濡れの子犬みてーにガクブル状態の神父のおっさんが、なんとか頑張って『第1の願い』で情報を取得し、オレ様たちに共有を試みた。


「あ、あの女、名をジョゼと云うらしい。願いは『2つ』とも使っている!」

「片方は『悪魔ウォルコーンとの融合』だろ!? もう一つは!?」

「……まて。来るぞ!『願いのエネルギー』が集中している……!」


ゴーティオンが言うやいなや。ジョゼという名の女が叫んだ。


ッ!! 『』をッ!!

星幽監獄葬プリジオネ・アストラーレ】ッッッ!!!!」

「……!? 何かやべえ!」


その瞬間、オレ様は咄嗟にヴァイオラを突き飛ばし、自分も回避した。一瞬遅れた、神父のおっさんの周囲に超立方体テセラクトのワイヤーフレームが発生。……そう。あの女が繰り返していた『消えろスコンパリーレ』というワード。必殺技名の『監獄プリジオーネ』。ここから導き出される可能性は一つ……!


(『』かよ! 不死身も悪魔も関係ねー!)


「モディウス!!!!」


叫ぶ刹那、ゴーティオンが神父のおっさんを引っ張った。超立方体テセラクトが空間を飲み込み、この世から消滅する……! バッと赤い飛沫が周辺に舞う。間一髪、右腕が超空間にのだ……。


「ああああああああああああ~~~~~~~~~~~~!!」

「神父様……!」


おっさんの腕が消滅しており、血飛沫は空中に霧散して消滅していく。超空間に三次元宇宙空間の物体が飲まれた際に発生する現象だ。と、考えている間に、あの女の『黄金の蔦』が再度襲いかかってくる。ヴァイオラがそれを防ぎながら叫ぶ。


「くっ! ゴーティオン! 神父様をお願い!」

「このままじゃヤベーぞ。連発は出来ね―みたいだが、マジで全員消されちまう!」

「ヒィィィ!」


神父のおっさんは悲鳴を上げながら腕を抑えている。阿鼻叫喚とはこのことかよ。あの女は容赦なく、『黄金の蔦』でぶっ叩いてくる。この状況。ゴーティオンは数秒考えて、どうすれば良いかの決断を下した。


「……すまない。モディウスがこの状態である以上、私達は戦力外のようだ」

「んなことは分かってら!」

「神父様を助けてあげて!」

「……。……すまない、すまない。ヴァイオラ。あとは任せる。……モディウスよ。『第2の願い』をこう願っておくれ。【秘密の小部屋へ隠れる】……と」


神父のおっさんは、息も絶え絶えながら、提案された願いを呟いた。ゴーティオンの身体が青く暗い光に包まれ、なんとか神父の『第2の願い』が発動し、【秘密の小部屋】へのポータルが開いた。この最中ずっとヴァイオラは『翠緑のバリア』で防ぎ続け、手のひらが焼け焦げている。不死身とはいえ回復が追いついてない。


「ぐううう……! は、早く……!」

「……私はお前の事も好きだ。……どうか、どうか死なないでおくれ、ヴァイオラ……」

「……ゴーティオン……!!」


そう言い残し、麝香のような残り香と共に、ゴーティオンとモディウス神父は、ポータルの中に消えていった……。ヴァイオラはなんか……知らねーけど、泣いていた。


「そんな……こと、別れ際に言い残すなんてずるい……!! ゴーティオン……!」

「ヴァイオラ……?(……『願いのエネルギー』が強烈に高まっていく……?)」

「うああああ――――――ッ!!」


ギャリィィィン!!!!


右手に集めた『アストリオン』を蔦の猛攻にぶつけ、暴走しているジョゼもろとも後方へ吹き飛ばす。ヤツは、吹き飛んだ勢いでドアを破壊し、そのまま館の外へとぶっ飛んでいった。悲しさや悔しさ、無念……そういった感情が、ヴァイオラの『アストリオン』の威力を圧倒的に増大していた。皮肉なことにゴーティオンの退場が、オレ様たちを救ったって訳だ……。


……ジャリッ、ジャリッ……。


ヤツが、あまり間を置かずにこちらへ歩いてくる。ヴァイオラのカウンターによるダメージは残っているようだ。が、次の瞬間。ヤツの新たな一手がオレらを待ち受けていた。『黄金のアストリオン』が蔦になり、蔦が鎧と化し、ヤツの体を覆い尽くしていく。ヤツの『悪魔と融合する願い』が『アストリオン』と連動しているのだ。


「『星紋装纏アストラ・ドレスト!!』


そう叫ぶや否や。まるで正義のヒーローが変身した時のように、ヤツ……ジョゼの全身を、ヒロイックな白と黄金のフォルムが覆った。悪魔ウォルコーンの狩猟生物を思わせる鋭い目や牙の意匠を残した頭部ヘルムには、元の姿と同じく左右非対称の角が付き、ところどころ西洋の甲冑を思わせる全身のスタイリッシュなアーマーには、茨と炎の意匠が散りばめられていた。あと数秒もすれば、体勢を整えて突っ込んでくるだろう。


「バロック!」


ヴァイオラがキッ、と決意ケツイを持ってオレ様を見つめる。オレ様にはヴァイオラが何を考えているか瞬時に理解ワカった。そして、。ヤツの切り札が、追い込まれたオレらに、とある閃きを齎したのだ。


「あの人に出来るなら、私たちにも出来る」

「来い! ぶちかまそうぜ!」


「『第2の願い』!【私を護るアーマーになって】!」


ヴァイオラがそう願った瞬間――

――バロックの顔をリデザインしたヘルメットが装着され、制服は近いイメージのまま、全身の素肌には黒いスキンスーツが覆い被さった。バロックの紋章があった箇所付近の、二の腕のあたりには、蝶ネクタイのような意匠の腕輪が嵌った。頭は真っ白になって痺れているのと、冷静に俯瞰した思考が同居している。私とバロックが一体化しているのだ。私とバロックは、両拳を握りしめ、空手の三戦さんちんのような構えをとった。


「ヴァイオラ。ヤツの願いは『①悪魔と融合』『②必殺技』の2つだ。そのうち『②必殺技』の方は、オレ達なら回避できる。つまり、実質『①悪魔と融合』だけで戦わなきゃなんねーって事になる」

「こっちは、『悪魔と友達』『鎧』の2つを同時に使ってるからね。つまり――」


『悪魔数2』の『願い』は、1つで強度が50%。

『悪魔数3』の『願い』は、2つで強度が66%。



”『【星幽監獄葬プリジオネ・アストラーレ】ッ!!』”


話している最中に例のアレが飛んできたが、流石さ~すがに一度回避に成功した技をブッパされても、喰らうわきゃねー。ヤツはオレらが回避した瞬間を狙って、もの凄いスピードで突っ込んできながら、『黄金の蔦』をしならせ攻撃してきた。暴走してるヤツには、


「……それを待ってた」


蔦が私の顔に触れる。より一瞬早く私のパンチが、彼女の顔面を撃ち抜いていた。彼女は炎を撒き散らして再び吹き飛んでいき、玄関ドアのあった壁を破壊して外に飛び出し、そのまま、今は使われていない様子の納屋へふっとばされていった。


「はぁ……はぁ……」

「やったな、ヴァイオラ。狙い通り、こっちの『願い』がパワー差で上回った」

「でも、もの凄く疲れた……。家に帰ってお風呂に入りたい」


私は、『翠緑のアストリオン』に、予めこう願いを込めた。「蔦が触れる瞬間」「全力で敵の顔面にパンチ」「と同時に『』」。即効性のある小さな願いをね。


「じゃあ、『第2の願い』をして」

「はいよ、っと。一度叶えた願いは、『再発動』できるらしいからな。つまり、『解除』してもまた使える、ってことだ」

「二度と使わないに越したことはないけれどね」

「さて、アイツの顔でも拝みに行くか」

「うん……。とイイけど」


出来たばかりの瓦礫の道をバロックと歩く。ジャリ……ジャリ……。破壊された玄関から外に出ると、20メートルほど先に納屋が見える。ガラスや漆喰の破片が撒き散らされ、ここが人里離れた山の中でなければ、今頃警察や野次馬が大挙していたかもしれない。そして私たちは納屋の前に到着し、恐る恐る中へと入っていった。


「もしもーし……」

「オイ! 生きてっかー!」


穴の空いた天井からは、室内の舞い上がった埃が起こすチンダル現象によって光がミー散乱を起こし、小さな『天国への階段』が出来上がっていた。……どうも、まだ私の中にバロックの残滓があるようで、ヘンな表現をしながら思考してしまうみたいだ。彼女……、ジョゼは、積んである藁の束の上で、口から血を流しながら横たわっていた。


「う……」

「大丈夫ですか?」

「……こ、ここは……?」

「日本だよ。オメーは悪魔と融合した影響でプッツンして、オレらを消しすためにイタリアからすっ飛んで来やがったんだ。尤も、オレらのタッグの前に轟沈したワケだがな!! ギャハハハハー!!」

「こ、こら! バロック! ごめんなさい、口が悪くて……」

「……そっか、わたしとウォルコーンが負けたのか……」


ジョゼはよろよろと上半身を起こして、片膝をついた状態で座った。私もその前に正座する。


「私の『アストリオン』で、ジョゼさんとウォルコーンのズレを『治し』ました。もう大丈夫だと思います。『治す』のが得意なので」

「……アハ……完敗だ。襲った相手を気遣って、そんな真似まで出来るだなんて……。ジョゼでいいよ。敬語もやめてくれ。アンタ、名前は?」

「私はヴァイオラ。こっちはプニプニ白饅頭」

「……ああん!? なんだとコラ!? 今なんつった!?」

「プニプニ白饅頭」

「……ッ!! ……!!」


バロックは言葉にならないほど怒っていたが、ジョゼは爆笑していた。……本当は、こんなにいい人なのに、何かの間違いで、殺し合いにまで発展してしまった。ジョゼにも、ああなった理由が必ずあるに違いない。そのうち訊いてみるとしよう。


「……助けてくれて、ありがと」

「……っ!」


ジョゼは、私とバロックのことをギュッとハグした。すごくいい匂いがして、心臓が思わず高鳴る。あまりこうして他の人にハグされた経験がないので、顔が真っ赤になってしまう。助けて。


「あっあの」

「あ、ごめん。あんまり可愛かったものだから、つい」

「ブハッ! 窒息死するだろーが! おっぱい魔人め!」

「アハハ、よしよし。……さて、これからどうするかな……」

「とりあえず、私の家に来ますか? 他の『宿主』のこともあるし」

「グラッツェ! でも一旦ホテルに泊まろうかな。あとで連絡するよ。

……これがわたしの連絡先、ね!」


そう言ってジョゼは悪戯っぽくウインクした。


ジョゼは、悪魔と融合した強力な『アストリオン』でぼろぼろになった教会をあっという間に復旧し(むしろ元より綺麗になった)、折角だから日本を観光していこうかなあ、などと言い残して、さっきまでの死闘が夢か幻だったかのように何事もなく、手を振りながら、ただただ普通に去っていった。


「……大人だなあ……色んな意味で」

「そういやさ、神父のおっさんとゴーティオンはどうなったかな」

「ん」


勿論、忘れていたわけではない。


「ゴーティオン……」


ポータルが再び出現することはなく、私の声は風に消えていった。

また、いつか……。あなたに逢いたい。



to be continued...


※新たなる力の発現。


ヴァイオラ…『翠緑のバリア』「超強力な障壁」

      『第2の願い』「悪魔をアーマー化する」

モディウス…『第2の願い』「隔離空間へ退避する【秘密の小部屋】」

ジョゼ…  『黄金のアストリオン』「摂氏数百度~数千度の熱」

      『黄金の蔦』「摂氏500度超の鞭」

      『第1の願い』「対象を超空間へ送る【星幽監獄葬プリジオネ・アストラーレ】」

      『星紋装纏アストラ・ドレスト』「『アストリオン』をアーマー化する」


以上

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