多勢に無勢

 翌日私たちは進軍する機械ラプトルたちを迎撃しに早速出発したのだが。


「……なぜ私に乗らないのだ?」

「えーと、その……」


 なぜかハンナが私のコックピットに乗ろうとしないのである。


 そんな彼女は軍事車両と並走するボギーたちのジープに乗っているわけだ。


 渋るハンナの肩をカレンが肘で小突く。


「ほら、いつまでもデュークを避けてないのっ」

「別に、アタシはデュークを避けてるわけじゃ……!」

「だったらさっさとデュークに乗りなさいよ、仲直りしたんでしょ?」

「う、うう……」


 そんなやり取りをジープ越しに耳を傾けていると、双眼鏡を構えたウィルが警告を放った。


「皆さん、前方に何かの大群が見えてきましたよ! 多分あいつらが今回の敵です!」


 ウィルが指差した前方では、確かに土煙をあげて機械ラプトルに乗った謎の仮面集団が前進している。


「ほら、あんたも腹くくりなさい!」

「ひいっ!?」


 停車したジープから蹴り出されたハンナと、改めて向かい合う私。


「あ、あはは……」

「いよいよだ、よろしく頼む」

「う、うん」


 頭を垂れた私に躊躇いながらもコックピットに乗り込むハンナ、しかしクリアオレンジのキャノピーはなぜか閉まらない。


「ん?」


 どうしたのだろう、普段なら彼女が乗ればすぐにキャノピーが閉じるのだが。


「あれ、あれれ!?」


 戸惑ってるのはハンナも同じようで、ハンドルをガチャガチャしても私には何も伝わらない。


「どうしたんですか、ハンナちゃん?」

「どうしよう、ハンドルが全然動かないよ~!」

「何だって!?」


 言うことを聞かないハンドルに悪戦苦闘するハンナに、ボギーがすっとんきょうな声をあげる。


 そうこうしてるうちに正面から迫る機械ラプトルたちが、腕の機銃を発砲し始めた。


「グーギュルルルルル!!」


「きゃーーーーー!!」


 操縦もままならずキャノピーも閉じないこの状態はハンナが危ない!


「ふえっ!?」


 私はとっさにハンナをジープに投げ返した。


「ここは私一人で行くっ」

「そんな、デューク!」


 ハンナの呼び止めにも振り返らず、私は二本の脚でどっしりと構える。


 あっちが射撃してきたのだ、こちらだって!


 背中のレーザーライフルを発射しようとしたのだが。


「――どうやって撃つんだ、これ!?」


 そもそもが外付けの武装なのだ、身体の感覚とも繋がっていないがために動かしかたが分からないのである。


 そういえば武器こいつの使用はハンナがやっていたか。


「仕方がないっ」


 背中の得物が使えないとなれば、残された手段は肉弾戦のみ。


 私は一斉射撃する機械ラプトル共に向かって突っ込んだ。


「うおおおおおおおおおおお!!」

「デューク、ダメぇ!!」


 ハンナの悲痛な叫びも銃声にかき消され、今の私には届かない。


 銃撃をかわしつつ私は、機械ラプトルに接近して食らいついた。


「グギャッ!?」


 鋭い牙と強靭なあごの力で、機械ラプトルの首が紙切れのように噛み千切られる。


 その間にも迫ろうとする機械ラプトルたちには踏みつけで対応、こちらも豆腐であるかのように呆気なく潰れていった。


「あの機械恐竜に続けえ!!」


 機械ラプトルを蹴散らす私に続くよう、軍事車両から歩兵たちも出撃し始める。


「グギャーーッ!」


「うわああああ!!」

「のおおおおおお!?」


 しかし人間の力では敵にダメージを与えることも叶わず、逆に機械ラプトルたちに蹂躙されていた。


 頭上を見れば出撃した少数のプロペラ機も機械クワガタたちにすぐ落とされている。


 こんな様子を見かねたところで、私は歩兵たちに叫んだ。


「ここは私が引き受ける! お前たちは下がってろ、足手まといだ!」


「な、何をぉ――うあああ!!」


 反論する余地もなくまた一人やられていく。


 だから足手まといだと言ってるのに!


 この期に及んでようやく奴らとの力の差を思い知ったのか、歩兵たちが後ろに退いていく。


 よし、それでいい。


「うおおおおおおおおおおお!!」


 自分を奮い立てるよう雄叫びをあげて私は機械ラプトルを蹴散らしていく。


 食らいついては噛み千切り、踏み潰し、背後からの敵は尻尾ではね飛ばし。


 そうやってがむしゃらに戦っている間にも、奴らの銃撃によるダメージが徐々に堪えてくる。


 倒しても倒してもキリがない、これではこちらのじり貧だ……!


 さらに悪いことに、空から大あごを振りかざして体当たりしてきた機械クワガタに体勢を大きく崩されてしまう。


「ううっ!!」


 この隙に機械ラプトル乗りたちが私に向けて何かワイヤーみたいなものを射出する。


「電気ショック、はじめ!」


 仮面の機械ラプトル乗りが指示を出した次の瞬間、ワイヤーを伝って私の身体に凄まじい電流が流された。


「うああああああああああああ!!」


 迸る激痛で目の前がチカチカと暗転し始める。


 そんな中で聞き慣れたあの声が、私に届いた。


「デュークーーーーーーー!!」


「ハンナ!? どうして!」


 見れば私の方へ必死に駆けつけようとするハンナの姿が。


「駄目だ、来るな!!」


 私の制止も聞かずに向かってくるハンナだが、途中で機械ラプトルに囲まれてしまう。


「邪魔しないで!」


 ハンナが太もものホルスターから抜いた拳銃とナイフで迎え撃とうとするも、機械ラプトルたちにはたいした効果がなく、逆に彼女は取り押さえられてしまった。


「放して! いやあ!!」


「ハンナ! ハンナああああああ!!」


 手を伸ばして呼び叫ぶハンナを助けようと力を振り絞るが、身動きをとるたびにワイヤーから電流が流されて力を奪われる。


「デューク、デュークーーーーーー!!」


 ハンナの悲痛な叫びがだんだんと遠退いていき、私の意識はここで途絶えた。

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