救出作戦始動


「なに、兵が全滅したうえに機械恐竜も敵に奪われただと!?」


 あれからカレンたち三人が戻った駐屯所に、アトラーの怒声が響き渡る。


 どうやら彼はたった今通信で状況を伝えられたようだ。


「――ほう、戻ってきたか。むむ、一人足りんが?」


 鋭い眼光でカレンたちを見るなり咳払いをしたアトラーは、人数が一人足りないことに気づいて眉を潜める。


「あいつら、デュークばかりでなくハンナまで連れていきやがった!!」

「ボギーくん、落ち着きましょうよ」

「これが落ち着いてられるか!」


 ウィルがなだめようとするも、怒りのままに机を叩くボギー。

 そんな彼をピシャリとたしなめたのはカレンだった。


「だからってこんなところでかんしゃく起こしてもも仕方ないでしょ! ――申し訳ございません、うちの仲間がお見苦しいところをお見せしましたっ」

「は、はあ」

「そればかりか兵たちを守れなかったうえにデュークまでも奪われてしまったこと、全てわたしの責任です」


 そう言って頭を深々と下げるカレンに、ボギーとウィルも黙ってしまう。


 そんな彼女にアトラーが口を開いた。


「責任はともかくとして、あの機械恐竜を奪われてしまったのは由々しき事態だ。なんとしてもあれを敵の手から取り戻さねばならないっ」

「けどどうすんだよ、あいつら逃げる時ご丁寧に煙幕まで撒きやがったんだぞ。それでオレたちも追いかけることができなかったんだ、チクショーがっ」

「そうか……」


 ボギーの証言にアトラーも押し黙ってしまう。


 するとここで挙手したのはウィルだった。


「あの……。実はボク、事前にデュークさんに発信器をつけておいたんです」

「そうなのウィル!?」


 目を丸くするカレンにうなづいてから、ウィルは説明を続ける。


「発信器の反応は今もキャッチできるはずなので、それをたどればデュークさんのもとに行き着くはずです。それと多分ハンナちゃんもそこにいるかと」

「でかしたわ、ウィル!」

「はわわっ!? カレンちゃんってばいきなり抱きつかれたら困りますよ~!」


 感激極まったカレンに抱きつかれて、ウィルはしどろもどろ。


「よし、そうと決まればデュークとハンナを助けに行くぞ!」

「「おー!!」」


 ボギーの号令に応えるようカレンとウィルも腕を上げる。


「本軍の到着まではまだ時間がかかる、支部長としては歯がゆいが君たちだけで奪還できるかね?」


 葛藤を見せるアトラーに問いかけられると、ウィルが誇らしげに胸を叩いた。


「任せてください!」


 こうしてカレンたちは囚われのデュークとハンナを救出する作戦に取りかかったのだ。



 拠点のプレハブ小屋に帰るなりウィルは、ガレージの中で鎮座する機械クワガタことクワガタくんに駆け寄る。


「クワガタくん、君の力がどうしても必要なんです! ボクにその力を貸してくれますか?」


 そう頼みながらそのおおあごに額をくっつけたウィルを、クワガタくんは自分の背中に乗せあげた。


「わわっ。……これは協力してくれる、ということでいいんですか?」

「キリャーッ!」

「ありがとうございます!」


 クワガタくんの力強い返事に、ウィルは感激を隠せず目にぱぁ……と光を灯す。


「そうと決まれば準備に取りかかりますよ! カレンちゃんとボギーくんも準備はいいですね!?」

「ええ、もちろんよ!」

「ハンナとデュークはぜってー助け出してみせるぜ!」


 それから三人はハンナとデュークの救出に向けて、手早く準備を進めた。


「ボクはクワガタくんに乗るとして、カレンちゃんたち二人は……クワガタくんにかごを吊るして、それに入ってもらいましょう」

「オレたちはそいつに乗れねーのかよ?」

「ごめんなさい、クワガタくんの背中には一人分しか乗るスペースがないんです」


 ボギーに弁明しつつウィルはクワガタくんの裏側にワイヤーを接続し、そこからかごを吊り下げることでカレンたちの足場を確保。


 クワガタくんの背中にある小型コックピットに乗り込んだウィルは、仲間たちに声をかける。


「ボギーくんにカレンちゃん、しっかり捕まっていてくださいね!」

「おう!」

「ええ!」


「それじゃあ離陸します! クワガタくん!」

「キリャーッ!」


 ウィルの号令と共にクワガタくんがまずは羽を広げて垂直に上昇し、カレンたちが乗ったかごを吊るしながらハンナたちのいるであろう地点へ向かって飛び出した。


 飛行するクワガタくんと共に空中を行くカレンは、長い黒髪をたなびかせながら呟く。


「それにしてもすごい風~!」


「こ、こいつは高いな……」


 一方で下をのぞいて顔を青くするボギーを、カレンは茶化した。


「ボギーったら高所恐怖症なのは相変わらずねっ」

「ば、馬鹿言え!? オレが高所恐怖症なわけ……ひっ! ウィル! この揺れもうちょっとなんとかしろ!!」

「す、すみません!」

「あんまり真に受けなくてもいいわよウィルっ。それで、デュークの反応は今もキャッチできてる?」

「それは問題ありません、クワガタくんがしっかりと発信器の反応をキャッチしてますよ。デュークさんは確実にあの向こうにいます」


 自信満々なウィルがクワガタくんを操縦してしばらく空を進むと、程なくして平原の真ん中で深くくぼんだ地点に着陸する。


「ここです、デュークさんの反応がここだと示してます!」

「こいつは基地なのか……!?」


 のぞきこんだボギーが目を見開くのも無理はない、この窪地の真ん中にそれなりの規模を誇る基地と思しき建造物があるのだから。


「四方を崖に囲まれてるから陸からは攻めづらい、というかそもそも認識さえも難しそうね」

「天然の要塞ってわけか……」

「関係ありません。ボクたちは仲間を助けるためあの基地に乗り込むんです!」

「いつになく強気ね、ウィル」

「そうですか? どうしてでしょう、クワガタくんと一緒なら不思議と勇気がわいてくる気がするんです」


 士気も十分なところでウィルは空から敵の基地に乗り込むことにしたのである。


「ボクがクワガタくんと一緒に敵の気を引きます、なのでお二人はその間に基地へ侵入してハンナちゃんを救出してください」

「オレたちはいいけど、お前は大丈夫なのか?」

「そうよ、ウィル一人で敵の注意を引くなんて危険だわ!」


 反対するボギーとカレンの二人だが、ウィルの決意は固い。


「あいつらだってあの機械ラプトルとか機械クワガタに乗るはず、それに対抗できるのはボクとクワガタくんだけなんです!」


 そう告げたウィルは、クワガタくんを操縦して再び離陸した。


「行っちまった……」

「こうなった以上、わたしたちがウィルの分まで頑張らなくっちゃでしょ」

「それもそうだなっ」


 上昇するクワガタくんを見届けたボギーたちは、ワイヤーを使って崖を降りることにしたのである。

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