第54話 贈り物





「フォースフィルヴァート。お前は大公家の人間だ。よって特別な褒章を与えるつもりはない」


 何も無しかよ。ああ、ちなみにヴァートさんだよ、この人。


「もちろんです。大公国のため戦えたことが、何よりの誇りであると考えております」


 かっけぇ。


「だが、それだけではどうにも味気ない。でだ」


 何が飛び出してくるのか、場に緊張が走る。



「フォースフィルヴァート。お前を正式に公太子とする。以後、フィーダを名乗れ」



 うおおおおお!!



 つまり正式な次期大公様ってことか。いいんじゃないか。


「閣下、私には力が足りません。むしろ、フォルナの方が適任かと思います」


「それは違う。確かにフォルナには、卓越した武と用兵、さらには甲殻装備の開発など、多岐に渡る能力がある。しかしそれは、将たる者の力だ。一部署で発揮される力だ。だがお前はそうではない」


 何となく大公様の言いたいことが分かってきたし、正直同感なんだよなあ。指揮官先頭どころか、国主先頭とか、まずいでしょ、大公様。


「甲殻獣氾濫の予兆から、本日までの『お前の戦いぶり』を見せてもらった」


 大公様が、ヴァートさんの肩に手を置いた。


「見事であった!! この言葉以外、出てこぬわ」



 おおおお!!



 再び大きな歓声が上がる。


「このフィヨルトの国主に必要な力とは何か? もちろん単純な武もあろう。だが同時に、広い視野を持ち、前方だけでなく後方をも鑑み、適切な時に相応な対応をとることが出来る者、それが国主だ」


 うんうん。良いこと言っているように聞こえるけど、ちょっと嫌な予感もする。


「それが今回の一件でよく分かった。すでにお前は俺を越えた。胸を張り。受け止めよ!」


「……賜りました。今後も精進を忘れず、邁進することをお約束いたします」


「皆の者、喝采だ!! 今を持って、次期大公国主はフォースフィルヴァート・フィーダ・フィヨルトとなった!!」


 大喝采が巻き起こる。わたしも思わず拍手をしてしまっていた。責任感あるし、絶対良い国主様になると思う。


「よし、では明日から引き継をはじめよう。1年くらいで戴冠だな!」


「はいぃぃ!?」


 うん。嫌な予感は当たるものだ。



 ◇◇◇



 粘るヴァートさんが、軍務卿に引きずられるようにして舞台から降りたら、次は第2位の発表だ。まあ、わかっちゃいるけどさ。



「うむ、肩の荷が半分降りた気分だ。では、第2位を伝える」


 観衆の大半もそうだろうなあ、って感じになっている。


「まあ想像通りだ。フォルフィナファーナ・ファルナ・フィヨルト!!」



 うおおおお!!



「はいっ!!」


 凛とした姿勢で、フォルナが壇上にあがる。


「フォルフィナファーナ。お前もまた大公家の人間だ。特別な褒章を与えることはない」


「兄さまと同じです。わたくしもこの度の戦いにおいて、戦功第2位と評してくださったことで十分です」


「フォルナは此度の氾濫において、事前に甲殻武装を開発、またフサフキ小隊臨時隊長として多くの者を鍛え上げ、さらには実戦においても目覚ましい働きをみせた。また、『白銀』との闘いにあたり甲殻騎を造り上げ、それに騎乗し聖女殿と共にそれを打倒せしめ、この氾濫を終結させた」


 並べて見せたら凄い武功だ。しかも甲殻装備の圧倒的発展の根本にいる。本当に凄いや。


「よくやったぞ!! フォルナ。お前もまた、俺の誇りだ!!」


「お父様……」


 フォルナの瞳から、とめどなく涙がこぼれる。わたしももらい泣きだ。ああ、メリッタさん、ハンカチ有難うございます。



「さて、ヴァートが公太子となった今、フォルナには別家を立ててもらいたく思う」


 へえ、そういうのもあるんだ。


「メリトラータも預ける。新たな武家だ。『フィンラント=フィヨルト』、今は途絶えた初代の長女様の家名だ。女伯爵を名乗れ」


「有難く賜ります。大変な名誉となります」


「そして、ここでもう一つ贈り物をしたいのだが、それには聖女殿の許可が必要になるな」


 ん? わたし?


「聖女様、壇上へどうぞ」


 メリッタさんに背中を押されるように、わたしは壇上に上がった。



「以前、生きて帰れば免許皆伝などと言っていたな。まあ冗談ではあるだろうが、どうだ?」


「そうですね、正直言えば皆さんまだまだです。まあ、ちょっとくらいは伝わっているかもしれませんね。まさか?」


「いや、全員になどとはとても言えん。だが、フォルナにだけであればどうだろうか?」


「お父様何を言うのですか? わたしなどフミカ様の技など」


「いいですよ。ただし、免許皆伝はあげられませんし、元の世界に戻ると正統後継者がいますので。代わりに『フサフキ』の名を送り、フサフキの異世界流派として認めましょう。つまりフォルナが開祖です」


「はははっ! 相変わらずの気風の良さよ。なんと心地よい、温かい贈り物か!」


「よろしいのですか、フミカ様。わたくしのような者が?」


「うん、技は未熟だね。だけど、フォルナは一番わたしの傍で戦った。大切なものは技だけじゃないのは、もう分かっているよね」


「はいっ!」


「なら、なんの問題も無いし、むしろ嬉しいよ。姉妹になれたみたい……。って、ほら何度も泣かない。わたしまで泣いちゃうからさ」


「はい、はい……」


 メリッタさんがフォルナを介護している。ハンカチ何枚持ってるんだろ?



「では、フォルフィナファーナ・フサフキ・ファルナ・フィンラント=フィヨルト女伯爵の誕生だ!! 先ほどに負けぬほどの喝采を送れ!!」


 会場に轟くような歓声が響く。うん、人気者だ。


「フォルナよ、継承権は無くさない。引き続きファルナを背負え。聖女殿からは何かあるかな?」


「はい。まずはおめでとう、フォルナ」


「有難うございます」


「で、お願いなんだ。どうやら元の世界のフサフキは一子相伝って妹に決められちゃったからさ、こっちの世界のフサフキは門戸を開いてほしい。誰でも、フォルナと一緒に力をつけられるように、皆で頑張って。特にヤード君なんて、油断したら追い抜かれるよ」


「わかりました。お約束致します」


 うむうむ、ちょっとしたフォローだ、ヤード君、感謝したまえ。あれ? ケートザインさんが微妙な顔をしている。なんでだろうなあ。



 ◇◇◇



「さて、それでは最後に戦功第1位だな。ああ、聖女殿、フミカ・フサフキ殿だ」


「ざっつ!!」


「だってなあ、溜める意味あるか?」


「まあ、大活躍したのは自分でも自覚しています。わたしは公家じゃないんですけど、なにか頂けるのですか?」


「ううむ、それなんだが……」


 あれ、大公様が言い淀むって珍しいなあ。


 その時だった。舞台の裏のほうからざわめきが近づいてきて、一人の侍女が駆け込んできた。



「扉が、扉が現れました!!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る