第53話 戦いすんで





 別に勝ちが決まったから『白銀』を治したわけじゃないよ。むしろ勝ちを決めるために治したんだ。


 打撃力は相対速度で威力が決まる、なんて言ったら物理学みたいでわたしには何とも言えない。要はカウンターの理屈だ。


 あの瞬間、例え覚醒状態だったフォルナでも『白銀』を倒しきれるかどうかは怪しかった。だから、わたしは後押ししたわけだ。『白銀』の方を。完全なカウンタータイミングで、いきなり万全状態になった巨大狼さんは、速度を上げて口を開けたまま、フィ・ヨルティアの左腕に向かっていってしまったと、そういう仕掛けだ。


 その結果、目の前には巨大な甲殻狼の死骸が横たわっている。甲殻の光も失い、もはや『白銀』とは呼ぶまい。取り巻きどもは、ボスが倒されたことにより壊乱して、8割が討伐され、残りは逃げ去った。



 この時を持って、今回の甲殻獣氾濫は人類側の勝利をもって終結した。



 ◇◇◇



「戦死192名、聖女殿によっても治癒できなかった戦傷者28名。奇跡とも言って問題ないほどの数字だ。だが人の命は数字ではない」


 大公様の言葉が心に響く。



 その戦傷者の中に、フォルナも含まれていた。



 あの戦いの直後、両腕を失ったフィ・ヨルティアはピクりとも動かなくなった。決してフォルナのソゥド力が全て失われたわけじゃない。だけど、甲殻装備に対する適正は完全に失われた。多分、戦えば強い。壮絶な経験が彼女を磨き上げ、フサフキをある程度理解した彼女は、メリッタさんに届くかもしれない力を持つに至ったと思う。


 だけど、フォルナが夢見た、甲殻義肢、それを発展させた色々な発想を実現するのは難しいだろう。


 戦いが終わって、戦い以外の要素が必要になったのに、フォルナには戦う力のみが残されていた。


「良いのです。後悔はありません」


 つっと流れる涙を、わたしは拭うことが出来なかった。


「わたくしは救えたのです。救う事が出来たのです。これ以上何を望むことがありましょうか」


 フォルナ自身の未来だよ。



 ◇◇◇



 公都フィヨルタの歓迎は熱烈だった。多くの民が拳を振り上げ、戦士たちを称えた。同時に身内や親しい人を失った者たちもいた。だけど彼らは、それを誇りとして、立ち上がり、声援を送ったのち、やはり泣き崩れた。


 これが戦勝か。キルレシオがどうこうじゃなく、真っ当な戦争なら両者に被害が出るのは当たり前で、そこに悲しみが籠ることも当たり前だ。今回は甲殻獣氾濫だったからこそだけど、地球でやっている戦争ってなんなんだろうなって、思ってしまう。



 今、行われているのは戦勝祭だ。とはいっても、出陣祭と違って肉や酒が振舞われていても全体的に大人しい。やはり、哀悼の意味が含まれているのだろう。


 とはいえ、わたしは相変わらず、酒を片手にタバコを吹かしているわけだけど。いいじゃん。頑張って勝ったんだから。



 ◇◇◇



「さて、今回の戦功を称え、これより褒章の儀を行いたいと思う!」


 ああ、盛り上げどころなんだろうな。こういうのが大事って言うのはわからないでもない。しんみりしすぎるのもアレだし。


「真っ先に褒章を受けるべき者たちがいる。192名もの戦死者たちだ。彼らを全員名誉男爵とし、ヴォルト=フィヨルタ戦没者墓地へ埋葬するものとする」


 ああ、そうか。そうだよね。


「遺族には男爵待遇に則った戦没保障を約束しよう。後に国務卿から詳細があろう」


 場は静まっている。


「まずは黙祷を送ろう。フィヨルトに眠りし戦士たちに」


 1分程の沈黙が続いた。



 ◇◇◇



 そして、生き残った人たちへの褒章が始まった。



「今回の甲殻獣氾濫に対し直接戦闘を行った者全員に公国三等名誉従軍勲章を授与する! さらに、後方支援を行った者には、公国四等支援勲章だ!」



 うおおおおお!!



 なるほど従軍そのものに勲章か。そうだよね。みんな頑張ったもんね。



「それでは5位だ。これは複数受賞となるな。『フサフキ機動治療打撃小隊』全員だ!!」



 うおぉぉぉ!



 場が一気に盛り上がる。やっぱりしんみりばかりは良くないな。じゃあ、行くか。


「ああ、フォルナと聖女殿は別枠なので、今はよい」


 えええ、皆と一緒に何か記念になるもの欲しかったのに。


「小隊総員を名誉士爵とする! また、全員に、公国二等戦功勲章を与える!!」



 おおおおおお!!



 すまん、どれくらいの名誉なのかさっぱりわからん。


「小隊総員前に出よ!」


 国務卿さんが指示を出す。


 なんだか全員がぎくしゃくと壇上に上がっていくけど、そんなに名誉なのか。でも輝いているぞ! なんでメリッタさんも混じっている!?


「特にヤード」


「はいっ!!」


「君は8歳にして、名誉士爵となり勲章を受けた。これは大公国発祥以来、最小年齢での受勲である。誇れ!!」


「はいっ! こんごも、はげみます!!」


 うん、これならいいよ。素直に称賛できる。ちびっ子たちも、オバチャンもじいちゃんも。みんな、みんなほんと良く生き残ってくれた。ロブナールさん、ケーシュタインさん、アラマさん。初期メンバーと、第4から第8まで選抜されたメンバー。全員が誇らしそうにしている」


 嬉しい。自分に関わりを持っている人たちが認められるって、こんなにも誇らしいものなんだって、初めて知った気がする。



「さて、この『フサフキ小隊』だが、今後は『フサフキ武装開発試験小隊』として活動を続けてもらいたいと考えている。今回の戦では、甲殻装備、特に甲殻騎が鍵となった。故に次に、その次に備え、諸君らの活躍に期待する。そして、部隊長はフォルナ、お前だ」


「お父様っ! わたくしにはもう」


 追い込むようなこというなよ、蹴り飛ばすぞ。


「分かっている。だがいいのだ。力ではない。その発想と経験、そして組織の上に立つことを学べ。それが今のお前がなすべきことだ」


 言っていることは分かるけど、厳しいなあ。でも、フォルナはあれこれ甲殻装備について語っているのが良く似合う気がするのも事実だし、複雑だ。


「わかりました。お受けいたします」


 盛大な拍手が起こる。やっぱり姫様は大人気だ。ちょっとわたしも誇らしくなってしまう。



 ◇◇◇



「次に、第4位である。農務卿、ディルヴァトル・ダスタ・グラトーン伯。そなただ」


「私がですか!?」


「そうだ。国務卿に振り回され大変であったろう。フィヨルタに残された非戦闘員の統制、並びに食糧確保、見事というより他はない! いかんせん俺には伯爵より上の任命権を所持していない。よって、公国二等国家貢献勲章を与える。すまんな」


「と、とんでもございません。末代までの栄誉となることでしょう」


 なんか凄い勲章らしい。第二等って辺りが凄さを感じさせる。泣いてるよ、農務卿。国務卿のムチャぶりで大変そうだったもんなあ。もう、役職変えればいいのに。国務卿なんて、近衛筆頭でもいいでしょ。ケートザインさんには悪いけど。



 ◇◇◇



「続いて、第3位。フォースフィルヴァート・ファイダ・フィヨルト!」


 うん! 納得の第3位だ。ホントに頑張っていたもんな。



 どんな褒章なんだろ?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る