第51話 最強!!





 『白銀』はこちらを警戒するように、グルグルと喉をならしている。全くもって可愛くない。むしろ怖い。


 そんなことをしている間に、味方が続々を集まってくる。大公様、国務卿、軍務卿、ヴァートさん、それに各中隊の皆さんの総出撃だ。門が開かれてないってことは、皆飛び越えてきたわけだ。流石。フサフキ小隊の面々もよくやってくれたみたいだ。


 こっちは約1800。そっちは1200と1匹。眷属を取りそろえたそっちの都合で情勢を見ればそっちの勝ちだけど、こちらは精鋭ばかりなんだよね。それが『白銀』からはどう見えているのかな?


 そんな戦場に一瞬の静寂が訪れる。その瞬間こそを、わたしとフォルナの独壇場にしてみせる。


「『白銀』さん。ようこそ死地へ。わたしは、フミカ・フサフキ。当代の聖女を賜っているの。そして、目の前にあるこの騎体。甲殻騎って言ってね、あんたをぶっ倒すために造られたんだよ。ロボットっていうのには、いつだって夢と希望と勇気が積み込まれていてね。敵を倒すんだ」


「おいっ、なにを喋っている!?」


 大公様、今は見せ場だから黙ってて。


「わたくしは、フォルフィナファーナ・ファルナ・フィヨルト。フィヨルト大公国の一女です。この甲殻騎を造り、貴方を打倒すために参りました。お覚悟はよろしいでしょうか?」



 ◇◇◇



 わたしとフォルナが同時にソゥドを高め、フィ・ヨルティアが濃緑色の光を強くする。『白銀』や取り巻き、それどころか味方までもが威圧されたかのように、その場に固定された。だから今こそ、高らかに叫ぶ。



「このロボットの、騎体の名前は、フィ・ヨルティア!!」


「この原初の甲殻騎の名は、フィ・ヨルティア!!」


『それは、最強を意味する言葉!!』



「フォルナが持つ炎に、わたしが油をくべる。さあどうなる? それがこの子だよ」


「フミカ様から頂いた力にわたくしが火をつけ、それがこの子に宿ります。それがどれほどのものだと思いますか?」


『それが、最強たる存在!!』



「さあ、おまえを倒す!」


「さて、貴方を倒しましょう!」



 そうして、フィ・ヨルティアが一歩を踏み出した。



 ◇◇◇



 『白銀』の目が凶悪な色を宿す。こちらが死力を尽くして戦わねばならない存在であると、そう理解したのだろう。その通り。こっちも手を抜くなんて考えてもいないぞ。


 周りも思い出したかのように動き出した。取り巻き連中は任せたけど、大丈夫かな。不安が胸に宿る。そんな瞬間だ。



 どがあああん!!



 フィ・ヨルティアに衝撃が走った。一瞬とも言い難い刹那の間に『白銀』の巨体が胸に体当たりをくれていた。速すぎだろ。ヒビ入ってる、新品なのに。


 すかさず、肩の上で踵を叩きつける。そうだ、私がここに居る限り、フィ・ヨルティアは事実上の永久機関だ。但し、わたしとフォルナのソゥドが持つ限り、だけど。


「フォルナ! わたしとケートザインさんの戦いを思い出して! 相手はこっちより強くて当たり前。だけど、やり様。力と速さで勝てないなら技で勝て! それでも勝てないなら考えと心で勝て!」


「それが、フサフキ!!」


「そのとーり!!」


 『白銀』が右前脚を振りかぶり、そのまま斜めに振り下ろす。フォルナが流す。当然無傷とはいかない。だけど私が治す。


「そう、この展開! フォルナ、集中して。心と身体で相手の強さを理解して」


「はいっ!!」


「周りの皆さん!! ちょっと『白銀』が強すぎます。絶対に近くに寄らないでください! フサフキ小隊も直掩はむりコレ! 誰か適当な指揮官に従って!!」


 このセリフの間に3撃を受け流して、その度に治している。恐ろしい戦闘だ。だけど、『白銀』をフィ・ヨルティアで引きつけないと大変なコトになる。最悪、わたしとフォルナだけが生き残って、他は全滅なんて未来すら、結構ありえる。



 だけどフォルナならやってくれる。



 現に彼女の集中力は、これ以上ないくらい高まってきている。


 さっきまでは全弾が掠める感じだったけど、今は3発に2発は流しきれている。しかも、口からブツブツと何か小さな単語を紡いでいる。人が集中した時の行動はそれぞれだ。彼女な何を呟いているかは知らないけど、見る限り悪い傾向じゃない。



 ◇◇◇



 周りでの戦闘も悪い状況じゃない。昨日まで4万以上を相手にしていたせいか、特にフィヨルト大隊、近衛、そしてフサフキ小隊の働きが目覚ましい。


 だけど、怪我人は当然出るし、多分死人も出ている。悔しい。だけど今ばっかりは、ここを動けない。フィ・ヨルティアは希望なのだから。



 ◇◇◇



「おうらああぁぁ!!」


 交戦開始から30分くらいだろうか、ついに、ついに、『白銀』の攻撃を捌き、フィ・ヨルティアのカウンターが入った。



『ギャバアアア!!』



 わたしは見落とさない。凶悪なその瞳に、驚き、戸惑い、驚愕、そして……。


「おいおい、おまえまさか、殴られたこともなく強くなったとか言わないよな?」


 ハリボテめ!!



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