第50話 白銀とフィ・ヨルティア
「勝手に名乗ってしまい申し訳ありません、……お母様」
そういえば、許可を取っていなかった。
フォルナは、騎体をメリッタさんに向けて謝った。
「……」
メリッタさんは、ただ黙って、いつものように完璧な直立不動だ。怒ってたりする?
「あ、あの、わたしも賛成したんです。いい名前だって。だからフォルナを叱らないでください」
ふぅ、と息を吐きメリッタさんは、これまでにないほど綺麗な笑顔を見せてくれた。
「まったく。無茶は血筋なのでしょうか。フォルナ! 最強を名乗るなら胸を張りなさい!」
「はいい!!」
「そして聖女様、娘を、よろしくお願いいたします」
その重さが胸に響く。
「身命にかけて」
「では、フォルフィナファーナ・ファルナ・フィヨルト=フィヨルティア! そして、フミカ・フサフキ=フィヨルティア・ファノト・フィヨルト!! 敵をぶちのめして来なさい!!」
「了解!!」
あれ? 私の名前、長くなってない?
「閣下」
名前の件を問う間もなく、冷めた感じでメリッタさんが大公様に語り掛けた。
「ど、どうした、俺からも何か言えというのか、そもそも先ほどの聖女殿の名は!」
「『白銀』が目覚めたようです。どうやらこちらのソゥドを感じた様ですね」
「なんだとおおお!?」
◇◇◇
なるほど、これだけのソゥドの持ち主を一か所に集めて、あまつさえフィ・ヨルティアの存在だ。そりゃ『脅威』を感じるか。いや、『脅威』と感じたか? そうか、そうか。
つまり闘争すべき敵と見たか。ならばこちらも応えてあげないと。
「監視員!! 状況報告だぁ!」
ヴァートさんが叫ぶ。
「先頭は『白銀』! 随伴するのは同種の中小個体……約1200ですっ!」
「作戦修正だ! 昨夜、聖女殿の言った物を基本とするが、『白銀』は……、フィ・ヨルティアに任せる。その間に全戦力をもって、取り巻きを狩る! ただし、フサフキ小隊だけはフィ・ヨルティアの随伴だ! よいな」
大公様の指示が飛ぶ。勿論こちらとしても異議は無い。やったろうじゃないか。
とんとんと何名かが、フィ・ヨルティアの肩に乗って来た。ヤード君もいる。
「周りは、絶対やっつけますから! 姫様と聖女様は『白銀』に集中してください!」
「言いたいことを言われてしまいましたね。そういうことです」
ヤード君とロブナールさんが覚悟を決めた目で言う。
「死なない程度でね。怪我したらわたしが治すからさっ」
「了解!」
「それと、フサフキ小隊全員! フィ・ヨルティアのどっかにへばりついて。そのまま行くから!」
「りょ、了解!!」
小隊の面々が肩やら背中の突起やらにつかまるのが確認できた。
「おい、なにをしている!?」
大公様の声がしたから聞こえたから、見たまんまのことを言ってやる。
「何って、フィ・ヨルティアを筆頭に、その直掩、フサフキ小隊の出撃ですよ!!」
◇◇◇
ほんとはここまでする気は無かったけど、相手の動きが速い。こうでもしないと砦がヤラれる。
ずうん、ずうんとフサフキ小隊を張り付けたフィ・ヨルティアが走り出す。後方では、ヴァートさんと軍務卿が何かをわめいているから多分、大丈夫。
「跳べると思う?」
「出来ると思いますよ。出来ると信じましょう」
「わかった、出来るってことだね。信じてるから」
「行きますよ!!」
砦の防壁、高さは約7メートル。
それを助走をつけたフィ・ヨルティアが飛び越えた。ほんとに飛ぶ越えた。凄すぎるぜ。
ざざっと、着地した瞬間、フォルナの指示が飛ぶ。
「小隊各員、降騎! 後続部隊が来るまでは防御戦闘。今回ばかりは、フミカ様の治癒に期待をしないでください! 死なないで。お願いだから死なないでください!!」
「『死んでも死ななないフサフキ小隊』なんでしょう!? 死にやしませんよ」
ああ、ロブナールさんか。ありがとう。それだけで存分に戦えるよ。
小隊各員を残して、さらに前に出るわたしとフォルナ。その先に本物の、そして最後の敵が見えてきた。あれが『白銀』。奇しくも、王家の紋章に描かれているのも白銀の狼だ。もしかしたら、初代様はこんなのとタイマンはったのかもしれないな、ってくだらないことを考えてしまった。
◇◇◇
最初に見るというよりか、感じた時は、逃げ一択を選択した。だけど今は違うよ。
「ねぇフォルナ」
「どうしました」
「アレをぶっ倒したら。もっと凄い甲殻騎作れそうな気がしない?」
「あら? 最強の騎体を駆っているのに、もうその先ですか」
「ごめんごめん、フィ・ヨルティア、気を悪くしないでね」
すでに目の前と言ってもいいだろう。銀色に輝く巨大な狼が目の前にいる。
「フォルナ、分かっているよね?」
「もちろんです。捌いで受ける」
うん分かってるね。
「もしくは、躱して撃つ」
それはちびっ子スタイルだよ。でも悪くないね。
「どっちもオッケー。だけどその前にやることあるんだよ、これが」
「やること?」
「うん、とっても大切な事」
「分かりました。やりましょう」
うわぁ、多分分かっていないのに、全肯定してきたよ。
「それで、何をすればいいんですか?」
やっぱりだ。
「そりゃもう一つ」
たとえ相手が人の言葉を解するかどうかは知らんけど、こういう時はやるべきことだ。
「高らかに名乗りを上げるのさ! これから自分を倒す相手に知らしめるために!!」
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