第49話 原初の甲殻騎





「それでどうしたというのだ? 緊急との話だったが」


「メリッタさん、どんな伝え方したんですか」


 メリッタさんは、沈黙を保っている。多分説明が面倒になったんだろう。



 集まったメンバーはまさに、この地に居るフィヨルトの上層部全員と言っていいだろう。


 大公様をはじめとして、ヴァートさん、国務卿、軍務卿、各中隊の隊長、副長。その他、多数の野次馬の皆さま。監視はちゃんとしてるんだろうか。



「ではここに、新型装備、甲殻騎のお披露目を行います」


「もう出来たというのか!?」


「はい。どうも、わたくしの適正と、フミカ様の相性が良かったために、調整と適正判断の時間を大幅に削る事が出来ました」


 嬉しそうに語るフォルナだ。この後の展開も分かってやってるんだろう。


「それは何よりだが、その甲殻騎はどこだ?」


「今お見せします。少々お待ちくださいませ。行きましょう、フミカ様」


 大公様の疑問というか、訝しげな質問にも笑顔でいるフォルナがちょっと怖い。


「え、ええ、そうだね……」


 微妙な罪悪感と、そして、巨大な高揚感が胸に宿る。結局は、わたしもフォルナと同類なのかも。



 ◇◇◇



「では、フミカ様、すたんばい!?」


「いいよ、フォルナ、レディ!!」


『起動!!』


 そして原初の甲殻騎がお披露目のために立ち上がった。


 ぶぅんぶぅんと小気味よい振動が伝わってくる。実はわたしがコレに乗ることで動作が向上することがはっきりした時点で、左肩には取っ手の他に椅子も固定されていたりする。



「それじゃいきますよぉ!」


 フォルナぁ、ノリが良すぎるよ。嬉しいのは分かるけど。


「やっちゃって!」


「はいっ! うおぁりゃあああ!!」



 右腕が倉庫の壁をぶち抜いた。もちろん観客の皆さんには被害が無いように、正面側じゃなくって、横の壁を貫いた形だ。



「おうりゃあああ!!」


 こんどは左脚の回し蹴りだ。


「そうりゃあああ!!」


 下から抉り取るように左腕が振り回される。すっかり壁はなくなり、ついでにいえば、天井も一部被害を受けて、そして、騎体が通り抜けられるくらいの穴が開いた。



 ずううぅぅん、ずうぅん!!



 騎体が一歩を踏み出し、そのまま歩み始める。凄い適正だ。一発目からしっかり歩けている。ってか、それくらいできないと、さっきの破壊行動は無理だよね。



 ◇◇◇



 そうして、正面方向に向き直り、大公様たち首脳部の皆さんの前に現れた姿は。


 体高6メートル。全身を黒く塗りつぶされて、各所は金と紫のラインが走る。右肩には、紫の花を咥えた白銀の狼の姿と、2本の骨、その下に横に伸びる紫の線が4本。すなわちフィヨルトの国章。さらに左肩からは、同じ模様だが、紫の4本線の代わりに、白い百合。これは知らなかったけど、フィヨルトたるフォルナのフォルフィナファーナの紋章らしい。



 なんで時間も無いのに、こんなことが出来たかって言えば、適性試験をやりながら、宿屋のオバちゃんと魚屋のじっちゃん、すなわちフサフキ小隊第2分隊のお二人が描いてくれたらしい。看板を書かせれば、そっち方面では有名らしいんだ。


 さらに言えば、騎体はフォルナの指示で即席の戦闘装備に整えられていた。


 まず、手首足首は無い。やろうと思えば五本指は再現できるらしいけど、緻密なそれは一発殴れば壊れて終わりらしい。


 その代わりと言ってはなんだけど、手首には無骨な30センチほどの穂先が。肘には分厚い3重甲殻装甲が、同じく膝にも同じもの。


 さらには肩というか上腕の先っぽにも、手首と同じ穂先が付いている。


 背中には肩甲骨あたりを中心に合計8本の突起が装着されている。


 すなわち、フサフキの技が使用する打撃部分のほとんどが、対応しているという、そういうことだ。



 唖然としている面々を前に、甲殻騎が動く。



 ◇◇◇



 まずは、左脚からの巻き込むようなハイキック。うん、再現出来てるね。


 そこから深く沈みこんで、そして大地を踏みしめ、背中を叩きつける様に押し出す。そう、鉄山靠。


 さらに背中を晒した体勢から、右脚を大きく踏み込み、引っ張られるように右肩が伸びだし、そして、右肘が見えない何かに叩き込まれ、押し込まれる。


 完璧だ。



「ご覧になりましたか?」


 フォルナの声が響き渡る。


「これが、新たな力! フサフキの技をも再現するフィヨルト最強の存在!!」


 観衆の目に光が宿る。分かってやがる。


「フミカ様にお譲りしましょう。さあ、名乗りを!」



「この騎体。この甲殻騎の名は、最強。すなわち、『フィ・ヨルティア』!!」


「僭越ながら、わたくしからも名乗りを上げましょう。原初の騎体の名は『フィ・ヨルティア』!!」



 多分この世界で初めて立ち上がったロボットの名は、最強を意味するものであった。



「うおおおおおおお!!」



 観衆は喝采の声を上げることになった。



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