第48話 起動!!





「もしかして、甲殻狼も夜行性だったりするの?」


「そういう話は聞いたことがありますね。ですが」


「真昼間にずっと寝ていてくれるかどうかは分からない、と」



 今、わたしとフォルナは、組み上がった甲殻騎に乗っている。といっても、わたしは左肩の取っ手を握り身体を支えているわけだ。しかも、フォルナも大変だ。


 甲殻騎は思考操縦ロボットと言える。と言っても、念じただけで動くわけじゃない。じぶんの手足、そして体だと「信じる」ことで動かす事ができる。これが難しいらしいのだ。


 フォルナが操縦席に座っているかというと、実際のところは立っている。両手でコックピット内の取っ手みたいのを握りしめ、肩から上は野ざらしだ。そこから下といえば、一応安全対策ということで、急増でクッションが敷き詰められている。衝撃耐性って、大丈夫かこれ?



 さて、『白銀』が眠ってから、約4時間。例の会議で提示された30時間の内、ほぼ20時間。ここまではこぎ着けた。問題はこの、超巨大なハリボテ、もとい最初の甲殻騎がまともに動作するかどうかの段階だ。戦闘機動? それどころじゃない。


 とりあえず、今は片膝をついて座った状態になっている。まずはここから立ち上がる動作な訳だけど。


「では、行きます!」


「了解! やっちゃって」


 ぶぅん。


 微妙な微振動とともに、騎体が薄く黒い光を放ち始めた。うんっ! 騎体に直接立っているからこそ分かる。ソゥドが通った。って、おい!!


「まさか!?」


 フォルナも気づいたか。


「わたしの力も通ってる!?」


 そういえば、蹴る意思無しでハイヒール越しに甲殻装備に触ったのは初めてだ。誤算っ。これは誤算だぞ。



 ◇◇◇



 わたしとフォルナの力が混じりあいながら、甲殻騎に流れ込んでいる。最初は黒光りだった騎体が今では濃緑色の光に変わっている。そして。


「いけます!!」


「いける!!」


 同時に叫んだ。あくまで主導はフォルナの感性だ。そして、そこにわたしのソゥドが流されている。両者が自信を持ってる巨大なソゥド力が甲殻騎に纏われた。



 そして、立ち上がる。



 直立したその姿は、普段から人間を見ている者からすれば、不格好なものだろう。元になった黒狼のお陰で、計画よりかは身長は伸びて、体高は約6メートル。足で3メートル、胴体で3メートル、そこにフォルナの頭かちょこんと突き出している。耳はついていないぞ。


 肩幅は大体4メートル、そこから4メートルほどの腕がぶら下がっている。手が長いイメージだね。ついでにシッポもついていない。


 もう一度、しゃがむ。


 スムーズだ。恐ろしいほどに馴染んでいる。



「駆動試験、続けます」


「おうさ」


 ◇◇◇


「右脚踏み込み動作……、良好」


「同じく左脚踏み込み……、良好」


「疑似的フサフキ動作、右脚主導……、成功」


 淡々と、フォルナの声が続く。現場の人たちは、唖然としながらそれを見ていた。そりゃそうだ。ここまで「不良」という単語が出てきていない。健全な学級だこと。


 1時間も経たずに、試験項目に挙がっていた動作が全て終わった。結論から言えば完璧。わたしが左肩に乗っていたとはいえ、一回の修復もしていない。


 とりあえず組み上げてみたロボットが、調整無しで完璧に動いてしまった。全世界の技術者さんたちに謝罪しなければいけない事実だ。


「一応、他の者たちも試しますが、必要があるのかどうか」


「そだね」


 結論から言えば、誰も動かせなかった。なんかこう、騎体がびくんびくん動くだけで、まともに立ち上がる事すら困難だったのだ。


 ここまでで30分。


 一応、各部隊からソゥド力の強い人たちも呼んできて、試してみたけど、これもダメダメ。


 これでさらに30分。


 2時間弱で、この甲殻騎のパイロットが確定したことになる。


「まだ時間がありますね。武装をちょっと増やしましょう」


「いいねぇ」



 ◇◇◇



「良い感じに仕上がりました。わたくしの最高傑作です!」


「お嬢様……」


 途中から見ていたメリッタさんは、悲壮な顔をしている。気持ちは分かる。


「メリッタさん、わたしも一緒ですから」


「ありがとうございます、聖女様」


「気にしないでください。わたしがここに来てからの時間、フォルナと一緒に色々頑張って、気づいたことがあるんです」


「気づいたこと?」


 フォルナが首を傾げる。


「そう、気づいたこと。わたしとフォルナはね、ソゥドの相性がいい。ってことは、心の相性がいいってことでしょ?」


「フミカ様……!」



「てことは、バディだ。相棒だ。一緒に戦場に向かうのに、こんな心強いことはないよ」


「ええ、ええ」



「ところでさ」


「どうしました?」


「色々練習する必要あるよね」


「そうですね」


「この倉庫からどうやって出るの?」



 天井自体は高いけど、扉は3メートルもない。



「壊しましょうか。楽しそうです」


 ああ、フォルナの笑みが眩しいよ。



 ◇◇◇



「とりあえずさ、大公閣下を含めて、偉い人たちを呼んで許可取ってからにしょう」


「ええ?」


 なんで不満そうなんだ。


「だって、倉庫を破壊しながら登場したら、強いことを証明できませんか? そのほうが格好良いし。フミカ様の教えですよ?」


「まいった。私の負けだ。じゃあ、偉いさんには外で待ってもらって、そこで登場。それでいい?」


「ええ、もちろん!」


 父親の苦悩がちょっと分かった気がするけど、これは違う方向性だな。毒されないように気を付けよう。


「ということになったから、メリッタさん、偉い人たち、呼んできてもらえますか?」


「……承知いたしました」



 珍しく、メリッタさんが躊躇していた。



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