第45話 ロボットっていうのは打ち勝つための存在なんだ。異論はあるかい?




 こういう流れになるのを予め予想していたんだろう。フォルナは足元に置いてあったカバンから、紙束を取り出し、テーブルにぶちまけた。この世界、植物紙あるんだよね。


「これはなんだ?」


 大公様が訝しげに紙を見る。


 そこに書かれている、いや描かれているモノは、背中を甲殻で覆いながら、守り石を通して両腕を甲殻武装とするデザイン画だった。


 そして次には、その究極形、両脚を甲殻化したのは祭りの時にも見ただろう。それに加えて両腕を、さらには胸を覆うように甲殻を塗した、まさに甲殻の鎧。




「わたくしはそれを甲殻騎士と、呼称したいと思っています」


 まあ、パワードスーツって感じだ。


「提案は分かるが、これで勝てるのか?」


「いいえ、無理でしょうね。ですが、続きがあります」



 フォルナが最後の1枚を差し出した。



「フミカ様の世界での造形を、わたくしの考えうる限りで実現してみようとしたモノです」


 いや、その造形とやら、地球にもないんだよね。あんまりフォルナが簡単に義肢やらなんやら作るから、つい吹き込んでしまった法螺話がこうして計画書になると、さすがのわたしもちょっと引く。


「聖女殿は本意ではないようだが?」


 大公様のつっこみが入る。負けるものか。


「出来る事と出来ない事、世界が異なれば、それが入れ替わる事はもちろんあるのでしょう」


「戯言を」


「そうですね。ですがこれだけは言っておきましょう。もし実現出来るとしたら、それは最強の存在となるかもしれません。そしてわたしたちの世界では、皆の夢を叶えるその存在をこう呼びます」


 溜めるよ、溜めるよぉ。



「ロボットと!!」



 ◇◇◇



 とは言え、これはちょっと違うなあ。


 元になる素材は、中型獣の甲殻、皮、腱、骨がメインだ。しかも、熊、猪、そしてさっきの黒い狼ってところかな。全高は大体4メートル。『白銀』とやりあうにはどうにも頼りない。だけど、この国のいや、この世界のどんな人間よりも力強くはあるだろう。ソゥドを通すことが出来ればだけど。


 シルエットは、これはなんというべきか、よく言えばゴツくて力強い。悪く言えば、ダサい。両手足が長く、胴体は太い。ちなみに操縦席は、頭だ。いや頭、ないんだけど。甲殻をつぎはぎすることで、可動範囲を広げているわけで、そうすると乗れる場所が頭しかないってことになったんだ。


 ちなみに、甲殻義肢で目が再現できなかったのもあって、モニターは無し。目視で、風防すらついていない。もちろん計器類も一切無し。すべては搭乗者の感覚とソゥド力だけで動く、謎ロボットだ。



 いやこれ、ロボットって言えるのか?



「フミカ様の世界では、総称としてロボットと言うようですが、実際には用途、開発経緯、動作概念などによってそれぞれ呼び方が異なるとのことでした。わたくしはこれを騎乗する甲殻、すなわち『甲殻騎』と呼称したいと考えています」


 おおう、ロボットじゃなかったかあ。


「で? 実際にこのようなものを、本当に造ることができるのか? かかる時間は?」


「製作自体は甲殻義肢の延長ですので可能です。時間に関しましては、そうですね、30時間ほどいただきたいと」


「30時間だとっ!? 1日そこらでこれを造り上げるというのか?」


「すでにフサフキ小隊が甲殻獣の解体と、部品の選定に入っております。彼らは甲殻武装の開発と運用にこなれていますので」


 毒のない笑顔でフォルナが言い放つ。こういう時のフォルナって、ほんとノリノリだよなあ。


「勝手に進めていたか。まったく」


 大公様がため息をつくのも理解できる。だけど今は非常時だ。とれる手段は全部やっておく必要がある。


「あとはわたくしが組み立てを、さらには試験や試行錯誤は、フミカ様が手伝ってくださいます。ついでに疲労回復も」


 わたしをヤバい薬扱いしないでほしい。



 ◇◇◇



「やれるべきことはやっておくべきだろう。甲殻騎か? それの製作を認める」


「ありがとうございます」


 満面の笑みでフォルナが着席する。嬉しそうだ。ちょっと黒いけど。



「わたしからも提案があります」


「今度は聖女殿か。嫌な予感がするな」


「聖女の発言に対し嫌な予感とは、異な事を」


「わかったわかった、聞こう」


 わたしと大公様の会話は、なんかこうクダけてきているような気がする。


「当然ですが、甲殻騎の製作が間に合わない可能性は考慮すべきです」


 場の全員が頷く。フォルナまでもだ。


「そこで、さきほどのメリッタさんの提案を修正しましょう。メリッタさんとわたしの二人ではなく、それに加えて数名の選抜隊を。条件としては、『白銀』に対し攻撃を通す可能性を持つものです」


「ふむ、具体的には?」


「それはメリッタさんの眼力ですよ」


 メリッタさんにふる。


「そうですね……。大公閣下、国務卿、そして……、お嬢様、でしょうか」


 すっげぇ、公私混同の真逆だ。身内を2人も推挙したよ。わたしも同感だけど。そして、ケートザインさんと軍務卿、一部の近衛ががっくり肩を落としている。


「わたしは、全員が死ぬまで回復を続けます。皆が倒れたら、私一人で回復しつづけながら攻撃を続けます。最後までです」


 静かになるだろうなって分かっているけど、それでもはっきりと言った。皆が死んだら、わたしも死ぬと思え。


「ほっほ、生い先短い私にも、出番をいただけますか。ありがたい」


 国務卿さんだ。


「ただし、どれくらい残るか分からない取り巻きの排除も必要でしょう。つまりは、全軍出撃、ですな」


 そういうことになっちゃうね。仕方ない。


「となれば、取り巻きを倒しつくした後は、全員で『白銀』に攻撃ですね」


 ヴァートさん……。


「では、情報収取を密としましょう。いつ何時『白銀』がこちらを向くかも分かりません」


 こちらは軍務卿。


「決まりか。長い待ち時間になることを祈ろう」



 ◇◇◇



 それから色々と話し合いを続けて、ふと一息を付いたところで大公様がけしかけた。


「では、ここらで景気を上げるとするか。聖女殿、お願いできるかな?」


 無茶振りかよ。まあいい、こちら風にやってやるか。



「わたしもフィヨルトである!!」


『我々はフィヨルトである!!』


「この国を守る者は誰か!?」


『フィヨルトである!!』



 こうして長い30時間が始まった、



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