第42話 頼もしい仲間たちがいる
「ぐわはあっ」
普段なら避けられそうなパンチだったけど、フォルナの怒気にやられてモロに食らった。
ゴロゴロ転がって、だけど頭がまだ煮えているわたしはすかさず立ち上がる。
「何してくれてんの!?」
「頭を冷やしてください! フミカ様の技はあのようなモノなのですか? あれがフサフキなのですか!?」
「ぐぬぬっ」
実は3頭目を相手にしている途中で、気が付いてはいたんだ。ただの八つ当たりに過ぎないって。
守れなかった自分に対する苛立ちを、ぶつけているだけだって。
自分の額に蹴りを入れて、癒して、そして息を長く吐く。戻れ、冷静になれ。状況を受け入れるんだ。
「ごめんフォルナ、もう大丈夫、だと思う」
「申し訳ありません、フミカ様。フミカ様の世界では、こうも人の命が軽くないというのは知っています。だからこそ、そんなフミカ様を戦いに巻き込んでしまった……、わたくしたちこそ」
「いいんだよ、もう。わたしが決めたことなんだからさ」
「フミカ様……」
「どれくらい亡くなったの?」
聞きたくないけど、聞かざるを得ない。受け止めないと。
「近衛が4名、小隊は3名です。その、第7中隊の副長さんも……」
「そう……」
第7中隊は、一番最初にわたしたち小隊を受け入れて、認めてくれた人たちだ。重要性を分かってくれていたし、だからこそ副長なんていう大事な戦力を回してくれた。副長さんとは、わたしも何度も話したことがある。悲しむだろうな。伝えるのが辛いなあ。
◇◇◇
「おお、聖女殿、無事だったか」
何もなかったかのように大公様と国務卿たちが戻って来た。見えてはいたけど、周りの小型獣を蹴散らしてくれていたのは知っている。気軽な感じなのは、気を使ってくれてるんだろうな。申し訳ない。
「状況をどう見ますか?」
だからわたしも冷静を装って応える。
「そうだな、控えめに言ってジリ貧だ。聖女殿の治癒でなんとかなっているが、それが無ければとっくに前線崩壊だったろう。まったく、数は力とはよく言ったものだ」
そうかあ、まだ足りないのか。フォルナの視界が通るところなら何とかしているけど、わたしがいない所では何人も戦死しているんだろうな。残念だけど、わたしの腕はそう長くない。
「いかがいたしましょう。前線を下げますか?」
国務卿が大公様に判断を仰ぐ。
「いや、まだ粘る。その間に、ドレアドスとヴァートに伝令を送れ。二人の判断に委ねる」
凄いな。前線に居る自分の目より、後方にいる参謀格の判断を優先するとか。自分を分かっているっていうのはこういうことなんだろうか?
「では、わたくしたちは、これまでと同じように動きます」
フォルナが敢然と言い放つ。
「ああ、ここから200メートルくらい後で軍務卿が怪我人を集めています。そちらの防衛も視野に入れて動いてください」
わたしも付け加える
「承知した。検討を祈るぞ!」
「了解しました!」
ふたたびフサフキ小隊が動き始める。
◇◇◇
これまで通り、わたしは治療、皆は攻勢防御という役割で前線を突き進む。
そんな戦いの途中、丁度渓谷の西端で遭遇したのは、でっかい甲殻狼だった。なんというか黒光りしていて、やたら強そうだぞ、こいつ。
メリッタさんとわたしが動こうとしたところをフォルナが止める。
「わたくしたちがやります! フミカ様は治癒に専念! この狼は第1分隊でやります。残りは周辺警戒!」
第1分隊すなわち、甲殻武装を装備した初期メンバーだ。フォルナと彼らでやるっていうわけか。
「了解!!」
わたしも含めて全員が指示に従う。フォルナが言うのだ。問題があるはずもない。だけど心配でもある。周りの人たちも、いつでも援護できるように視線を配っているみたいだ。
「ロブナール、1班と2班を連れて正面から当たってください。行動阻害と防御優先です!」
「了解しました! 中々厳しい指示ですなっ」
言葉とは裏腹にロブナールさんが正面から突っ込んでいく。
「ケーシュタイン、アラマトーネ。3班と4班をそれぞれ引き連れ、左右から挟撃。まずは脚からです!」
「了解!」
これでフォルナを除いた第1分隊が全員動き出した。速い! 絶対、訓練中より速くなっている。気合入っているなあ。
「フォルナは?」
「遊撃です!」
言った瞬間、うねるような軌道でフォルナは走り出していた。それがまた、飛びぬけて速い!
うんっ! 個人個人の技量も良いけど、連携が凄い。本当に今回の実戦で上手くなっているのが良く分かる。警戒に当たっているメンバーも、ちらちらとその戦いを伺いながら、目を輝かせている。
正面組が盾で受ければ、その隙に両側からの同時攻撃、どこから降って来たのか背中にフォルナのトッピング付きだ。
大型狼が左右を煩わしそうにしたら、すかさず、正面から一斉に盾先の槍が繰り出される。尻を骨でぶっ叩く、フォルナのオマケ付きだ。
すげーな、フォルナ。
5分も経たなかっただろう。あちこちの甲殻を割られた大型狼は、その巨体を崩して、動きを止めた。
見物組、あいや、周辺警戒組の歓声が上がる。わたしも一緒になって声を上げる。
ほんと、わたしの仲間たちは、こんなにも頼もしいんだ。
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