第41話 暴虐の聖女





「おああぁぁぁあ!!」



 キレた。完全にブチ切れた。


 速度全ブリで力を籠めて、倒れている人たちを蹴飛ばしまくる。生死なんて判別している暇がもったいない。


 その上で、熊どもに吶喊する。


「何してくれてんだああああ!!」


 よくある表現だけど、視界が真っ赤に染まった気がする。とりあえずだ、目の前にいる熊3頭、こいつらだけはぶっ倒す。


「覚悟、決まってんだろうな? こっちは決まってるぞ!」



「お止めください!」


「危険です!」



 なんか雑音が聞こえるなあ。知るか? わたしにはあいつを叩きのめす理由がある。だからやるだけだ。



 一歩、二歩、そして、一歩戻る。目の前を、熊の爪が轟音を立てて通り過ぎる。


 バカか? わたしがブチ切れたくらいで見切り損なうとでも思ってるのか? むしろカモだよ、おまえらは。


 身体を丸める様に、縮めるように、ただ右脚を一歩踏み出し、そして放つ。


「おうらぁああああ!」


 私の右フックが、相手の甲殻を叩き割る。だけど内臓には届いていない。構わない。


「そうらぁああ!」


 そのまま左フック。甲殻獣とは言え動物は動物だ。構造は普通の生物と似たようなものだから、だからレバーに、存分にソゥドを込めて叩き込む。どうだ? 堪えたか? そんなもんじゃ許さんぞ。


 わたしに覆いかぶさるように甲殻熊の巨体が倒れ込んできた。で? この期に及んでわたしがビビるとでも?


「ふんっ!」


 目の前に降って来た喉元を、右手で補足して、握りしめる。



「死ね」



 いつものように大地を握りしめて、腰を回して、掴んだ右腕を内旋させる。


 ブチブチブチっ!!


 奴の喉が抉り取られる音だ。そのまま大人しく死ね!



 ◇◇◇



 轟音と共に倒れ込む甲殻熊を無視して、わたしは右へ飛ぶ。足元を甲殻熊の手が通り過ぎるが気にもならないね。見切ったよ。


 目の前には口を開いて赤い目をした熊さんの顔だ。叩き潰す。


 右貫き手を相手の左目に叩き込む。存分に力を乗っけたから、当たり前のよう突き刺さった。左目は?


「おうりゃあぁぁ!」


 頭突きだよ。これまたソゥドを載せて、背中を逸らせてから思い切り叩き込んだ。さあ、視界もふさがれた。痛みも与えた。どうだ? どんなだ?



「いいから、死ね」



 足を引っかけて首の後ろに回り込んで、そして、手を絡める。思いっきり右手を手前側に引き付けた。右手は熊の左目に突き刺さったままだったわけなので、眼窩ごと捻くり回してやったわけだ。もちろんソゥドは全開だ。相手の首が逆を向いた。



 ばぎん!



 鈍い音を立てて2頭目が沈んだ。



 ◇◇◇



 ぼぎん、ばぎん。



 別に何かを折る音じゃない、わたしの指先が鳴らす音だ。さて後一頭いやさ、一匹。叩き潰す。


 身体は熱を持って、心はクールに? 冗談じゃない、全部が熱をもって暴虐を振るう。他称『暴虐の聖女』、さあ、わたしにしか分からない神髄、見せてやる。


 ほうほう。確かに他の2頭よりかは大きいかもね。だからどうした?


 戦場で熊さんが右手を振りかぶって、こちらを叩き潰しに来る。なるほど、じゃあこちらはそれに応えようさ。


 当たり前に一歩を踏み込み、振り込まれる右手に肘を添える。



 ばぎゃあああん!



『グギャラワアア』


 カウンターだよ。そんなことも知らないのかなあ。当たり前か、所詮は獣だ。んで、その折れた右腕に絡みついてやる。



 ぼぐんっ。



 力じゃない技だ。相手が降りぬいた力に併せて肩を反対側に叩き折る。



『グアラァァ!!』



 右肩にへばりついた私に左手で攻撃か。やるじゃないか。


 無傷で済まそうっていうのは甘かったかな?


 熊の右肩から降り立ったわたしに、奴の左爪が掠る。


「ぐあああぁ」


 痛いなあ。でも相手も痛いはずだ。つまり五分の闘争だ。だけどこっちはチート持ちなんだよ。


 着地というか吹き飛ばされたと同時に、額に自ら蹴りを入れる。ヒール!!


 残念だったね。


 それでもまだ攻撃してくるんだ。じゃあ、反撃してみせよう。襲い掛かる左腕を無視して、前に一歩を踏み出す。いくよ。



 ばがああぁぁん!!



 わたしの肘が下腹部の甲殻を叩き割った。


「さあ、ここからはノンストップだ!」



 どがあん、どごおん、ばきぃん、ずがぁん!



 容赦の、一片かけらの容赦のないわたしの攻撃が、甲殻熊に叩き込まれる。



 ◇◇◇



 気が付けば、目の前の甲殻熊は沈んでいた。


 すっきりしたなあ。


 「フミカ様あ、歯ぁ食いしばってください!」


 フォルナの拳が私の右頬を貫いたのは、その直後だった。



 なんでさ。



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