第40話 戦場のフォルナ





「フォルナ! わたしにはムリだから。指揮権移譲。指示出して!」


「受け取りました。馬は何頭ですか?」


「14頭います!」


 ヤード君がはきはきと答える。


「では、足に自信のない方と、メリッタ、あなたが馬を使いなさい」


「お嬢様!」


「力が乱れていますよ。それに、いざとなった時には容赦なく力を振るっていただきます。ですから今は」


「かしこまりました」


 フォルナの容赦ない正論がメリッタさんを襲うわけで、いやあ、こっち向かなくて良かった。


「フミカ様。ソゥドがどこまで持つかは不明です。攻撃と防御はわたくしたちに任せて、なるべく治癒に専念していただけますか?」


「は、はい」


 こっちに向いてきた。



「メリトラータもそうだったが、戦いはここまで人を成長させるものか。いや切っ掛けはそれぞれか」


「そういうものかもしれませんね。ですが、老兵とて成長が止まるわけでもありませんぞ」


 大公様と国務卿がぼそぼそやっている。そっちもそろそろ動いてくださいな。


「閣下、近衛を率いて前線の維持をお願いいたします。ケートザイン、よろしく」


「了解いたしました!」


 一体、この軍の総指揮官は誰なのやら。



 ◇◇◇



「陣形は先頭がわたくし、二番手に聖女様! 第1分隊は両脇を固めてください。新規参入組、第2分隊は後方から援護。実力次第で前衛に出します。よろしいですね、聖女様!」


「なんかもう、文句をつけ入る隙がないので、存分にやっちゃって!」



「では、『フサフキ機動治療打撃小隊』、運動開始!!」



 ちなみに第1分隊は初期メンバー、さっき追加された増援が第2分隊ということになった。


 その後は、もうなんて言うか凄かった。


 フォルナの指示で、各員が次々と甲殻獣を屠っていく。それぞれの技量を考慮して、その上で配置までもを把握して攻撃対象を指定していく。とんでもない目だ。


 おかげでわたしは、治癒に専念できている。フォルナは、前線ギリギリを駆け抜けながらも、負傷者の回復を前提に進路を決めてくれているんだ。ヴァートさんが戦場を整えるのに長けているのに対し、フォルナは戦場を支配する。すっごい兄妹だ。二人がお互いに理解をもっと深めたらもっと凄いことになる、なんて想像すらしてしまう。



 ◇◇◇



 そうやって戦場を駆け抜けるに従って、我が小隊の練度もまた上がっていっている気がする。特にちびっ子5人組だ。彼らは速い。そして小さな体とその速度を最大限に活かして、相手の攻撃を躱して、そして攻撃を入れていく。確かにまだ甲殻を割るような攻撃は出来てはいないけど、それを理解しているのだろう。相手の進路を妨害することに専念しているように見える。


 特にヤード君8歳が凄い。身びいきじゃないよ。当初こそ相手の攻撃を大きく躱していたのが、どんどん見切りが鋭くなっている。狼、兎、猪、鹿、狸? 各種の甲殻獣の攻撃範囲、可動範囲を学んでいるんだ。


 飛び込んでの攻撃がフサフキの本領だけど、ヤード君は躱して攻撃を入れている。だけどあれはフサフキだ。いや、もしかしたらヤードという新しい武術が生まれようとしているのかもしれない。


 ぶるりと震えがくる。もしかしたら斎藤のじっちゃんも母さんも同じようにわたしを見ていたのかもしれない。そうか、これが成長を見届ける心か。嬉しいんだな。


 他の増員部隊も負けていない。不敵に笑いながら50センチ程の棒を振り回しているオバちゃん。杖のような骨を巧みに操るじっちゃん。元々いた小隊員と連携しながら、槍を突き出す連中。ヤルじゃん。



 負けてらんないな!



 ◇◇◇



「軍務卿よりの伝令です! 現在、前線後方200に負傷者を搬送し、纏めております。聖女様におかれましては、急行とのことです」


「了解しました!」


 わたしが何かを言うより先に、フォルナがあっさり了解してしまった。


「小隊編成を割ります。ロブナール、アラマトーネ、それとちびっ子5人組はフミカ様の直掩。負傷者の元へ走ってください」


「いいの?」


「幸い中央はまだ散発的にしか抜かれていないように見えます。とにかく駆け抜けてください」


「分かった!」


「残りは中央にて防御戦闘! フミカ様が戻られるまで、重傷を負わないように防御重視です!! では行ってください、フミカ様!!」


「ありがとう! 行ってくる!! すぐに戻るから、誰も死んじゃダメだよ!!」


「了解しました!!」



 わたしたちは、伝令さんに誘導されながら、負傷者の元へ駆け出した。



 ◇◇◇



 着いた時には、すでに3人が亡くなっていた。失血死だ。もうちょっとだけ早ければ。いや、ダメだ。出来る事を出来るだけやるんだ。


 わたしは生きている者たちを蹴っ飛ばした。その数、大体30名くらいだろうか。


「助かりました。事態に大きな変化がない限りは、ここを負傷者収容場としますので、随時お越しくださると助かります」


「軍務卿!? なにやってるんですか?」


 そこにいたのは軍務卿のドレアドスさんだった。


「いえなに、ヴァート様が存外にやってくれておりましてな。私はここの取り纏めと護衛ということですよ」


「どこも人手不足ですか」


「出来ることを出来る者が、やるだけですよ、聖女殿」


「あれ? 口に出てました?」


「さてどうでしょう。さあ戻ってください。フォルナ様がお待ちですよ」


「了解しました。じゃあ、伝令よろしくです」



 言うや否や、わたしたちは前線へと引き返す。


 数分後にたどり着いた戦場で見たものは。


 3頭もの甲殻熊と数えきれない小型獣の群れ、フサフキ小隊、大公様と近衛たち。



 そして何名かの倒れ伏した人たちだった。



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