第39話 フサフキ機動治療打撃小隊
「やったね、フォルナ!」
「いえ、フミカ様の指導のお陰です」
というわけで、甲殻熊をやっつけたわたしたちは、拳を合わせる。訓練からやってきた勝利の合図だ。最近のフィヨルトで流行っているらしい。
「流石は聖女様ですね」
ケートザインさんもやってきた。わたしとフォルナが同時に拳を突き出す。
「い、いえ、私は」
「いいんですよ。見事な誘導でした。助かりました」
そういって、わたしは拳をぶつける。フォルナも同様だ。
「皆様、それほど余裕があるわけでありませんよ」
メリッタさんの注意喚起が身に染みるな。
というわけで、次の救難に向かおうとした時、前方から凄い勢いで何かがやって来た。
「無事か!? フォルナ! 聖女殿!」
言わずと知れた大公様だ。横には何故か国務卿もいる。二人だけで小型種を蹴散らしてきたみたいだ。なにやってるんだか。
そもそも、近衛と離れてるって、おかしくないか?
「閣下申し訳ありません」
ほらケートザインさんが謝っている。
「気にするな。こちらこそすまん。どうにも俺とドルヴァは連携が苦手でな」
総大将がそういうコト言うか。
◇◇◇
「ドレアドスより伝令があった。こちらでも大体確認できている。前衛の損耗は20程度。こういうことは言いたくないが。奇跡的な数字だ」
ドレアドスさん、軍務卿は中衛中央で、ヴァートさんと本部を構えて情報収集と各中隊に戦況報告を担当している。参謀部みたいなものかな。
「中衛は?」
「10以下では、あるらしい」
「……後ろまで手が回りませんでしたから。残念です」
「いや、聖女殿が鍛えてくれた結果が出た」
「それで、この後はどうしますか?」
「ドレアドスの意見は二つだ。中衛から抽出して前衛に回すか。前衛を下げて厚みを持たせるか。どう思う?」
「軍事素人に聞かないでください。どっちがどうなんですか? 残りはどれくらいなんでしょう」
「……3万は割り込んでいない。3万5千といったところか」
4時間以上戦って、まだ3分の2も削れてないってことか。きっついなあ。
天から、スーパーロボットが舞い降りてきたり、地下に眠っている、太古の秘密兵器が目覚めたりしないだろうか。
『手助けはしませんよ』
ん? なんか聞こえたような? 気のせい? んん?
なんにせよ、いつまでもここでグダっているわけにもいかない。今も周りでは皆が戦っているんだ。
「本部より伝令!!」
「なんだ!?」
大公様が問いただす。このタイミングで伝令って?
「ヴァート様からの提案です! 甲殻熊を倒せるならば聖女様を中心とし、攻勢も考慮すべしと!!」
「なんだとっ!!」
そういえば、ケートザインさんたちを助けて、熊を倒した後で伝令が走っていたっけ。それに対するヴァートさんの返事がこれってことか。
「付け加えます! ヴァート様は聖女様とフォルナ様であれば、遂行可能である、とも!!」
伝令さんは涙を流しながら叫んだ。
「恥ずべき事だ。恥ずべき事態だ。ここまで損害が軽微であった氾濫があったか? その上でなお、聖女殿に背負わせるというのか! それがフィヨルトなのか!?」
「閣下、やるべきでしょう」
いままで黙って佇んでいた国務卿だ。
「しかし!」
「聖女殿とフォルナ様のお力は実証済みです。そして」
◇◇◇
「姫さまーー!!」
馬が何頭かこっちに向かってくる。人が乗っているようだけど、随分と小さい。ってか、アレ。
「ヤード君!?」
馬に乗ったヤード君を筆頭に、5人のちびっ子、とは言っても10歳から12歳くらいかな。どこかで見た顔だ。さらには、第11と第12中隊に配属されたはずの、宿屋のオバちゃんと魚屋のじっちゃん! ついでにと言っては悪いが、第4から第8中隊までから約10名。
どういうことだ?
「本部よりの命令により、第4から第12中隊より抽出された、フサフキ小隊増援です! これより聖女様の指揮下に入ります!」
代表して言ったのは第7中隊の副官さん? だったよな、確か。
「聖女さま! みんなフサフキ、一生懸命練習したんだよ。がんばるよ!」
「ヤードくん……」
フォルナも涙ぐんでいる。
◇◇◇
断れないじゃないか、死なせられないじゃないか。……覚悟決めて、やるしかないじゃないか。
「閣下、ご命令を」
「『フサフキ機動治療打撃小隊』、前衛の……、最前線を舐めるように敵を蹴散らしながら、治療行為を行え。往復しながら甲殻獣を漸減せよ」
おお、また2文字増えた。
「すまん。本当にすまん」
「いいんですよ。わたしが、わたしたちがやりたくてやるんですから。ねえ、みんな!?」
「おおおおおう!!」
敵をやっつけながら、治療しながら、戦場を駆け抜ければいいんでしょ? 誰も死なせないで。
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