第38話 戦場で熊さんに出会ったからぶち殺す!
敵を倒してレベルが上がる世界が恨めしい。
そんな世界だったら、こんな奴らどんどんぶっ倒して強くなって、もっとごっ倒してやるのに。
それでも『小隊』の練度は上がっていく。怪我人のもとに最速で駆け付け、通り過ぎざまに蹴りを入れて、次の負傷者の元に駆け抜けていく。こちらに怪我人は無し。当たり前だ。怪我したり武装が壊れる度にわたしが蹴りをぶちかましているからだ。
おかげで、わたしたちは戦場を縦横無尽に走り抜けられているわけだ。問題はソゥド力の限界か。
検証をしたことはある。早い人で、10回くらいヒールしたらぶっ倒れた。わたしとフォルナは30回やってみても無事だった。自らナイフで傷を付けながら治すという猟奇的な世界だった。フォルナにお互いに傷つけてみてはと言われたが、なんか絵面がヤバすぎて止めた。
◇◇◇
「11時80!! 急いでください!」
フォルナの悲鳴じみた声が響く。その言葉を受けて、小隊はためらいもせずに行動する。その先にいた複数の負傷者を蹴りながら、そして最後に蹴っ飛ばしたのは、ケートザインさんだった。
「なにやってんですか、ケートザインさん!!」
「すまない、不覚を取りました」
気が付けば、わたしたちはフィヨルト大隊の配置された前線すれすれの場所にいた。本来、居てはいけない場所ではあるが、今はそんなことは言ってられない。
だって、目の前にでっかい甲殻熊がいるからだ。さっきメリッタさんが倒したのよりデカいな。ケートザインさんたちをやったのはこいつか?
「待ってメリッタさん!!」
飛び込もうとするメリッタさんを止める。時間をおけばまだしも、そう何度もアレを連発したら、どうなるかわかったもんじゃない。これまでの実験でも1日2回を目途にして、それ以上は試していないんだ。
だからここは。
「フォルナ! ケートザインさん! 左右から同時に仕掛けて熊の気を引いてください。小隊各員と近衛の皆さんは周辺警戒!!」
わたしがやる。
「メリッタさん、見ていてください。わたしがどれだけヤれるようになったのか!!」
「かしこまりました。武運を」
こういう、分かりが良いのがメリッタさんの素敵なところだ。憂いなく戦える。
「いきます!!」
フォルナとケートザインさんの声がハモる。息ぴったりじゃないか。流石はフサフキ門下だぜ。
以前の狼の時と同じように、二人が左右に分かれて大きく踏み込む。熊は対応するために、立ち上がって腕を振りかぶった。
そう、立ち上がったのが良い。腕を振り回すのも良い。後は二人が躱しきれるかどうかだけど。
「当てようとしなくていい! 避けることに集中して!」
「了解!!」
ほんと息ぴったりだな。
ブンブンと振り回される両手を、二人は躱し続ける。熊の集中が狭まっていく。
そしてついに、わたしに背を向ける体勢になった。狙いを分かって実行してくれた二人には感謝しかないよ。
さてもう一度言おう。立ち上がってくれたのが良い。転ばせる事ができるからだ!
見せてやろう。わたしの技は、熊だって『崩して』みせる。
大きく、長く、低く、深く踏み込む。そこは既に死地だ。いつ蹴り飛ばされても不思議じゃない。熊の足元で、私は両脚を踏ん張る。大地を掴み、膝から腰へ、肩からそして『背中』へ。
「御唱和ください技の名をぉぉ!!」
意味不明な叫びと共に、わたしの肩口から背中を使った打撃が、甲殻熊の股関節辺りに突き刺さった。
ばぎいいいぃぃん。
よっし、砕いた感触が来た。背の高さ的に股関節が有力候補だったけど、上手くいって良かった。
『グギャワラアアァ!!』
熊の叫び声を背に。わたしは叫ぶ。
「みんな大好き! 鉄山靠!!」
「見事です! フミカ様」
「うむっ、素晴らしい!」
フォルナとケートザインさんから絶賛をいただくが、まだ終わりじゃない。
崩れ落ちた甲殻熊はいまだ危険な存在だ。だから、わたしはさらに踏み込む。
最大限に飛び込んだつもりだが、ちょっと遠いか、でも2歩目は相手に隙を与えかねない。このままやるっ。
右脚を大きく踏み込み、さっきのように大地を握り、力を流す。右手の押し出し、掌を熊の左脇あたりに叩き込む。そしてソゥドを込めながらさらにそこから押し込んだ。
ばぎいいぃん!!
甲殻が砕けた。だけど、流石に狼とはワケが違うか。心臓までは届いていない。ちょっと踏み込み甘かったかなあ。
でも大丈夫。
「フォルナあぁぁ!!」
わたしがその場を飛び退くのと同時に、槍の様に棒を構えた人の影がぶっ飛んできた。これ、わたしが避けてなかった直撃だぞ。そこまで信じてくれてるのか。いいねえ。
「一点集中、突き込んで、押し込んで、力を込める!!」
そうだよフォルナ。あんたなら、出来る。
どおおおぉぉん!
フォルナの伸ばした骨は、彼女の技とソゥドは、甲殻熊の皮を突き破り、届いていないはずの心臓を破壊した。
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