第34話 新型甲殻義肢、それは次への一歩に過ぎないわけよ





「ふんっ! はっ!!」



 第1中隊長さんが舞台みたいのの上で剣舞を見せている。いや、格好良いけどさ。認めるけどさ。


「聖女様、どうか致しましたか?」


「おおうメリッタさん、相変わらず気配隠すの上手いですね」


「恐縮です」


「いえ、こんな朝っぱらから浮かれていて……、違うんですね」


「ええ、そうです。人はずっと力を入れ続けていられるわけではありません。時には抜いて、バカ騒ぎをして、そして、もう一度力を込めるのです。この考え方は、フサフキにも通じるのではないでしょうか?」


「あはは、全くその通りですよ。まさかわたしがフサフキを諭されるなんて」


 本当に一本取られた気分だ。そうだよ。こうやって大騒ぎして、前を向くんだ。力を発しながら脱力する。そんなの斎藤のじいちゃんに教わった、基礎の基礎じゃないか。


 そっか、技だけじゃない、生き方なんだ。


「ありがとうございます。大切なことを思い出しました。そして、ごめんなさい」


「謝罪するようなことがありましたか? ああ」


 ほんと、察しの良い人だ。



 ◇◇◇



 これまでの1週間ほど、わたしは何度もメリッタさんと対戦した。その度にお互い血を流し、肉が裂け、リアルで骨を折ったこともあった。当然治癒はしたわけだけど、何故かメリッタさんのソゥドの乱れだけは治らなかった。


「いいのですよ。わたくしは納得してしまっているのかもしれません。それが原因なのかも……。ですが、今回の出陣には参加させていただきます。訓練では足手まといでしょうが、聖女様の近くにいる限り、わたくしは立ち上がれるのですから」


 ここにもキマっている人がいた。いや、この世界に来てしまったわたしが、最初に会った二人。フォルナとメリッタさんは、最初からこうだった。強い女性たちだ。見習わなきゃならないなあ。


「さあ、お嬢様の元へ参りましょう。お待ちかねのようですよ」


「もしかして、アレが出来ちゃった?」


「ええ、その様です。自慢したくて仕方ないようですね」


 メリッタさんさんはクスりと笑った。娘さんのやったこと、やらかしたこと、嬉しいのかな? だったらいいな。



 舞台の上では、槍を振り回している国務卿さんの姿があった。



 ◇◇◇



「フミカ様! フミカ様、見てください!!」


「うん、フォルナ、見ているよ。見てるから落ち着いて」


 今、目の前にあるのは、新型の『甲殻義肢』だ。但し片脚ではない、両脚。しかもそれだけじゃない。よくもまあ、わたしの提案とは言え、実現したものだ。


「それでは、フォルフィナファーナ様の登場です。姫様の演目は、新型の甲殻義肢とのこと。どうぞご期待ください!!」


 司会らしき人の声と共に、歓声が響く。人気者だね。



 そしてこいつは、度肝を抜くだろう。



「どうせなら、舞台の上で付けた方が印象深いでしょうね。フミカ様、お手伝いをお願いできますか?」


「まかしといて!」


 というわけで、わたしとフォルナの二人して、『新型甲殻義肢』を壇上に運んだわけだ。メリッタさんは後ろから静々と気配を消して付いてくる。多分、姫様と聖女様に荷運びさせているのが、ちょっとマズい光景なんだろう。


「よっこいしょっと」


 ちょっと微妙なセリフをはいて、フォルナとわたしはそれを置いた。


 見た目はそうだな、下半身? 腰から下と両脚。特徴的なのは、太ももと脛が、要は足が妙に長いことかな。太ももだけで、フォルナの脚の長さで、脛はさらにそれより長い。ちなみに足首から先は無い。


「これは、フミカ様から着想をいただき、わたくしが作成した新型の甲殻義肢です。見ての通り、両脚を同時に動かすために、腰までの部分を甲殻装備として調整いたしました」


 そうなのだ。フォルナが造った、造っちゃった代物は、腰から下、まるまんまの甲殻装備だった。


 ざらざらとした感じの灰白色の甲殻は脛に骨が通っていて、腰回りと太ももは空洞になっているものの、基本的にこれまでの甲殻義肢と構造は違わない。ただ、その規模が、ちょっとその、大型になってしまっただけだ。どうしてこうなった。


「それでは、フミカ様、メリッタ、手伝ってください」


「かしこまりました」


 壇上に鎮座したその物体に、フォルナが両脚を突っ込む、丁度、足先が義肢の膝関節手前くらいに固定されるはずだ。その上で、ごつい皮ベルト状の固定具を腰回りに固定する。これで準備完了だ。


「では、ご覧ください。新たな技術を、この先に続く技を!」


 おうおう。フォルナのテンションが爆アゲだ。戦いでも凄いけど、彼女の本領はこういう分野なんだろうなって、そういう時代が来るといいなって、ふと、そう思ってしまう。


 そんなことを考えている間に。フォルナは右手に嵌めていた指輪、彼女の守り石を抜き取り、甲殻装備の一部にはめ込む。丁度へそあたりに。


「行きます!!」


 フォルナの宣言と同時に、甲殻装備が白く輝きだす。甲殻狼と似たような感じだ。



 そして立ち上がる。立ち上がった!



 2メートルを越える身長となったフォルナが、まるで当たり前のように、舞台の上を軽やかに、そして力強く歩いている。


 おおぅと声を上げて喝采を送っている観衆の皆さん、これがどういうことか分かっているのだろうか?



 そうだよこの後、わたしはフォルナに、さらに先があることを告げなきゃならないってことだ。



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