第31話 みんなはフサフキ門下生





「甲殻を素手で割った上に、心臓を破壊しただと? それも、肉を切り裂かずに!? 冗談では済まされんのだが、事実なのだろうな」


 大公様は納得したんだか、してないんだか、すっごく微妙な顔をしている。周りの連中も似たようなものだ。困惑していないのはフォルナとメリッタさん、そして第7中隊長と、我が副官ロブナールさんくらいのものだ。


「はい。間違いなくフミカ様は一撃で甲殻狼の心臓を破裂させ、死に至らしめました。付け加えるなら、その前に満身創痍であった、甲殻狼を完全に治癒してからの事になります」


「大事に聞こえるのだが、俺はどう反応すれば良い?」


「そのままに受け止めていただければ、と」


 当たり前のようにフォルナが突き放した。大公様は掌で目を覆う。


「で、治療はどうとして、その甲殻狼を倒した技、我々にも可能なのだろうか?」


「うーん、難しい気がします」


「と言うと?」


「まず、わたしの技は異世界で20年以上かけて練り上げたものです。例えばケートザインさんの槍ですね。わたしにあんなことは出来ません。当たり前です」


「全て受け止めて、捌かれた記憶がありますが」


 久しぶりのケートザインさんが苦笑いする、うーん渋い。


「もう一つは心です。心持ちと言った方がいいかもしれません。わたしは甲殻獣を倒したいという意志を込めました。皆さんはどうでしょう。もちろん、倒したいという意志はあるでしょう。ですが」


「倒せるという意志は無い、か」


 大公様が唸る。


「分かりません。あくまで想像の範囲です」



 ◇◇◇



「ではせめて、聖女殿の世界の技を見せてもらえないだろうか。そうすれば、こちらの者でも一歩目を踏み出せるかもしれん。それが氾濫を食い止めるに、少しでも役に立つならば」


「そうですね。幸いこちらの世界にはソゥド力があります。わたしの動き、技を短期間で習得できる方もいるかもしれません。やってみる価値はあると思います」


「おお、まさに『暴虐の聖女』に相応しい言葉よ!」


「それ、やめてください!!」



 というわけで、会議室にいた面々はぞろぞろと訓練場にやってきたわけだ。全員かよ。


 とっくに夜も更けているわけで、かがり火が灯される。炎って良いよね。微妙に凹凸がはっきりしたりして、非日常的な。そんな幻想的な場に立たされた私は、フォルナから借りた、例の骨を持っている。


 目の前には例によって、付き立った丸太だ。最近丸太相手が多い気がする。


 なんで骨を持っているかと言うと、こちらの世界、戦う時は大概甲殻武器、まあ骨やら牙を付けた槍なわけだ。鉄もあるんだけど、いかんせん、骨の方が硬くて柔軟なので、武器としてはそういう事らしい。ちょっと蛮族チックだなって思っていたけど、正当な理由はあるもんだ。


 ちなみに私の守り石は靴、ハイヒールなわけだから、この骨にはソゥドは通らない。すなわち、わたしの技術だけをもって、試技を行うわけだ。


 さて、一応前提として、何度か説明した身体の動きを説明する。まあ、分かってもらえるとは思っていない。だけど、全員が食い入るように聞いているし、わたしを見ている。国の荒廃を賭けた戦いの前だ。どんな戯言だって、真面目にならざるを得ないわけだね。



 じゃあ、わたしだって、それに応える。



 いつも通りだ。いつも通りに突きを繰り出す。今回はこん棒だという違いだけだ。



 ぼごんっ。



 鈍い音を立てて、骨が丸太に突き刺さった。


 しかしそれは丸太の半分程で止まっている。もちろんワザとだよ。だって、このメンツなら力だけで貫いちゃう連中とかいそうだし。あくまでお手本ってことだよ。ホントだよ。


「どうぞご覧ください」


 骨を引き抜き、フォルナに手渡す。見学してい連中がわれ先にと丸太を覗き込んでいた。


「どういうことだ? 破片が見当たらん」


「圧縮? 丸太が圧し潰されている?」


「力の一点集中? いやわかるが、突き抜けていないだと。可能なのか?」


「反対側は何もない……、どういう力の伝わり方だ? 理解出来ん」


 色々な方々の感想である。


「基本は、接触した瞬間からの押し込みです。そして、それを成し遂げる体動ということになりますね」


「これが、フサフキ、なのですね」


 フォルナが感慨極まった表情で発言したので、一応否定しておく。


「どちらかというと、わたしの習っていた斎藤術の『浸透勁』が原型です。わたしはそれをアレンジ、えっと、わたしなりに調節したのが今の技ですね」


「サイトージュツ……」


「シントーケー……」



 ああ、これはヤバい方向性か?


「ま、まあ皆さん、名前はどうとして、何回かやって見せますので、目で見て学んでください」



 というわけで、5本ほど丸太に穴を開けてみた。ちなみに何人かの人が真似をして、丸太を爆砕していたわけだが、それは違うんだ。分かってくれ。


「ふむ、ドレアドスよ」


「はっ!」


 軍務卿が威勢よく返事をした。そんな名前だったのか。


「今の技を模倣する可能性のある者を、至急選抜せよ! 年齢性別は問わない。ある程度の体力とソゥドの力と、そして柔軟な思考を持つものをだ」


「難問ですな。ですが、努力致しましょう」


「もちろん、俺もやるぞ! フォルナもだな!?」


「もちろんです、お父様」


 ああ、なんか変な事態になって気がするぞ。


「ここにいる皆も、向き不向きはあるだろうが、時間の許す限り努力せよ!」


 あ、大公様がなんかガンギマリな目でヤバい事を言い出す気がする。というか確信できる。なんかこのノリに慣れてきた自分が怖い。



「ここにいる全ての者に問う! 今より我らは『フサフキ門下』として努力を惜しまぬ事を誓えるか?」



「はっ!!」



 本日最後の大公様の最後の言葉を聞いて、わたしはクラりと体を傾けた。



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