第29話 検証というか推察




 さて、公都に戻ったわたしたちは、ひとりの犠牲もなく、怪我も、そして主要装備も一切失うことなく、堂々と凱旋した。単なる訓練行軍だったので、別に民衆の喝采とかはなく、ヴォルト=フィヨルタに入った。


「フミカ様、先ほどは申し訳ありませんでした、ここでフサフキ治療小隊の指揮権をフミカ様にお戻しいたします。総員、よろしいですね」


「了解いたしました!!」


 元気いいなあ。まあ、無事に帰ってこれたわけだし、色々収穫もあったわけだし、良かった良かった。甲殻狼、3匹分の素材も持って帰ってこれた。これはもうフォルナに相談して、検証に使わせてもらおう。そう思って、フォルナを見れば。


「フミカ様、先ほどの技。詳細を聞かせて貰ってもよろしいでしょうか?」


 キラキラと目を輝かせているフォルナがいた。目の前だ。どれくらいの速度で移動したのやら。いや、今のわたしなら似たようなことはできるだろうけどさ。


「総員解散!! 小隊副官は詳細記録を後で提出してください。ごめんね、ロブナールさん」


 実はフサフキ小隊の副官はロブナールさんだったりする。わたしとフォルナは特別枠だ。


「第7中隊の皆さんもお疲れ様でした。今日は有難うございます」


「なんのなんの、聖女殿のお力、存分に見せていただけました。今夜の酒はたいそう盛り上がることでしょう! なあ、中隊諸君!!」


「おおう!!」


 わたしを肴にして盛り上がると? 混ぜろ。



 ◇◇◇



 ざっくりざっくりと、メリッタさんが甲殻狼を解体している。いや、大雑把なのは遠征先でやったので、今は詳細に調べているわけだ。何故かメリッタさんの服に返り血が一滴もついていないのが、ちょっと怖い。


「意味が分からない、というのが率直なところです」


 メリッタさんがなんとも言えない表情で言った。


「確かに甲殻は割れています。一撃で、しかも素手で割れる事自体が凄いのですが、その下にある毛皮や筋肉は裂けたりしていません。なのに心臓だけが壊れている……。聖女様、一体なにをしたらこうなるのですか?」


「いやその、わたしにも分からないんですよ。ただこう、自分の技とソゥドを信じて、えいやって攻撃したらこうなった、としか」


 ちなみにここは、ヴォルト=フィヨルタの片隅にある訓練場の一角だ。情報封鎖というわけでもないけど、人払いはされている。


「とりあえずわたしとしては、どういう技か見せることしかできないから、ちょっと付き合ってもらえますか」


 そうして、近くにある訓練用に立てれた丸太に手を当てる。


「基本は力の一点集中と、押し込む感覚かな? 見ててね」


 さっきと一緒だ。大地を握りしめながら、下半身から得られた力を上半身の捻りに変換しつつ、それでいて脱力しながら、自然に右腕に力を伝える。そして……。


「ふっ!!」


 右掌に集まった力を、触れたままの丸太に押し付ける。押し込むと言った方が正しいかな。ここらへんは感覚的なので、言語化は難しいんだ。



 ずんっ。



 わたしが手を離した後には、1センチくらいかな、掌の形で凹んだ、それでも立ったまままの丸太があるわけだ。


「どうかな?」


「……なんと言うか、いえ、言葉で表現するのは難しいですね。なんでしょう、それ」


 フォルナが唖然とした顔をしている。メリッタさんは難しい顔。いや、困惑かな?


「フミカ様の世界では、それをどう呼ぶのですか? 技の名前などはあるのでしょうか」


「一応まあ、わたしとしては『浸透勁』とか言ってるけど、自称なんだよね。他の武術でも言われているけど、正直正体はバラバラというか、別物というか」


「そして聖女様、その技に併せて力を流し込んだわけですね。甲殻獣を倒せるように、と」


「そういうことですね。甲殻獣にソゥドが通るのは分かっているので、わたしの技とソゥドの力が合わさって、こういうことになったんじゃないかって、そう思っています」


「素晴らしいです!!」


 フォルナが叫ぶ。まあ、気持ちは分からんでもない。素手で一撃で甲殻獣をごっ倒す技術だ。もしこれを普及することが出来れば。


「教えてください! お願いします!!」


 うーん、フォルナが何でもします状態に入ってしまった。教えるのは吝かじゃないけど、時間が足りるかどうか。



 ◇◇◇



「聖女様、お嬢様、どうやらお時間のようです」


 遠くから馬の足音が聞こえていた。どうやら偵察に出ていた、お兄さん、ヴァートさんたちが戻って来たらしい。予定通りだ。今日はこれから、わたしたちの報告と、ヴァートさんの報告をする会議が予定されているわけだ。


「今夜は長くなるかもしれませんね」


「そうですね、お嬢様。軽食を用意するよう指示を出しましょう」


「サンドイッチ再び」


「何でしょうか、それ?」



 きょとんとフォルナが首をかしげる。可愛いね。



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