第28話 甲殻獣スレイヤー!?
「死んでますね、これ……」
「えっと、その」
「その、解体、お願い出来ますか?」
フォルナが第7中隊の誰かに声をかけている。
「了解しました」
中隊の有志何人かによって、ざくざくと解体が始まった。有体に言ってグロい。けど、これが弱肉強食ってやつなんだろう。って、現実逃避していたわけだけど。
「あの、よろしいでしょうか。こちらをご覧いただけると……」
なんだか凄い微妙な表情で、解体をしていた兵士さんがこちらを向いた。
「これは……」
「ん? どうしたの? なんかあった?」
「はぁ……」
フォルナが深いため息をついた。そして。
「心臓が破裂しています」
「え?」
「ですから、心臓が破裂しています。どうやったのですか?」
「えっと、普通に、そう、気合入れて」
「気合で心臓を破壊したら苦労はありません。まったく……」
◇◇◇
「フミカ様の戦いは全く参考になりません。よろしいですね」
「はっ!!」
『フサフキ隊』の全員が同意を示す。なんだよそれ。
「以後、小隊の指揮権はわたくしに移譲されます。わたくしの指示に従ってください」
「えっ? ちょっと待って。指揮官ってわたしじゃないの? どういうこと?」
「フミカ様の指揮権は、言わばお飾りです。問題があれば、わたくしが引き継ぐことが認められています。そうですね?」
「はっ!!」
小隊の全員が同意しやがった。どういうことだ? 造反か? わたしが異世界人だからか?
「はぁ、最初から任命書にちゃんと明記されていましたよ。この小隊の実質的最高指揮権はわたくしが保有しています」
「ええええ?」
「文章は、特に命令関係はちゃんと最後まで読んでください。いつか詐欺にあいますよ」
◇◇◇
第7中隊の面々が微妙な空気を醸し出していた。大半は、さもありなんって感じだ。一部に聖女様可愛そうって空気もないわけでもない。
彼らを誘って新しい隊を編成したくなった。
「ねえねえ、アラマさん、フォルナってわたしにこんな態度でしたっけ?」
「ふふっ、姫様は嬉しいんだと思いますよ?」
「ええっ?」
「幼い頃はそれはヤンチャだったんです。だけどメリトラータ様がああなってしまってから……」
ああ、姫様としての役割を全うしようとしたわけか。そして、わたしが現れた。
「氾濫を目の前にして、本当ならもっと気を張らなければいけないところでしょう。ですけど、聖女様がいらっしゃる。五分で対等で、一緒に苦労して成長して、冗談だって言いあえる」
「照れ隠し?」
「そんな感じなのかもですね。私も聖女様には感謝していますよ」
「そこっ! ちょっとうるさいですよっ!」
フォルナがちょっとほほを赤く染めて注意してきた。うはは、可愛いなあ。
◇◇◇
「では、第7中隊の皆さんには申し訳ありませんが、再度、索敵をお願い致します」
とりあえず、わたしは黙った。なんか言ったら怒られそうだから。
ぞろぞろと捜索隊の後に付いていきながら考えてみる。なんでわたしは甲殻狼を倒せた? いや、罪悪感とかそういうのじゃなくて、物理的な話だ。地球での技と、こちらでのソゥドの組み合わせは、確かにわたし独自の戦闘スタイルなんだろう。
だけど、あの時、わたしの肘は甲殻を叩き割ったけど、「心臓までは」届いていない。なのに、狼の心臓は破裂していた。なんかの力が通ったとしか思えない。
ここで思いつく事が二つある。
一つは、フサフキというか斎藤術の極意の一つ、『発勁』。とは言ってもこれはなにもマンガじみた技じゃない。遠くの敵を倒すとかそういうのじゃなくって、打撃時の心得みたいなものだ。すなわち「押し込む」感じ。インパクトの瞬間は始まりにすぎず、そこから押し込むことで打撃を浸透させるという感じだ。どちらかというと『浸透勁』に近いだろう。
わたしはそれを意識して、無意識状態でやっている。意味不明な表現だけど、意識すれば解除できるけど、普段は当たり前にそうしているということだ。
もう一つは、こちらの世界。すなわちソゥド力だ。意思の力の発現。あの時わたしはどういう思いで甲殻狼に立ち向かった? 『打倒する』そういう意志を強く念じていたはずだ。
つまり、わたしのフサフキと、こちらのソゥドが合わさって、浸透した何かが甲殻狼の心臓に届いた、そういう構図が思い浮かんじゃうわけだ。
えっと、凄くない? もしかしてわたし、甲殻獣スレイヤーとかじゃない?
後でフォルナとメリッタさんと相談して、検証する必要があるなあ、って考えていたら、次の得物が見つかったって報告が来た。当然指揮権はフォルナのままだ。
◇◇◇
「第7中隊は散開して周囲を警戒しつつ、防御態勢。ここは、フサフキ小隊のみで対応します。敵、甲殻狼、大きさ3、数2! つがいの恐れあり、それを念頭に戦闘用意! 小隊『聖女防御隊形』!!」
「了解!!」
資料では見ていたし、訓練でもやったけど、どうにも名前は馴染まないなぁ。
で、戦闘からハブられたわたしは、何回か怪我人と装備をヒールして、本日の役割を終えた。
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