第27話 それが聖女の一撃!!





「これって虐待じゃない?」


「必要な措置ですよ。そのような表現はいかがなものかと」


 第7中隊長さんが、微妙な表情をしている。ごめんなさい、そうだよね。わたしたちのために頑張ってくれたわけだし、ちょっと間違った。


「ごめんなさい。わたしたちの安全を考えてくれたんですよね。ありがとうございます」


「……いえ、ここからの試験内容は把握しています。私たちがお守りしますので、存分にどうぞ」


「はい」



 ◇◇◇



 目の前にあるのは、なんと言うか、半死半生の甲殻狼だ。第7中隊の皆さんが色んな武装で取り押さえていて、動きすら封じられているわけだけど、それでも眼の光は陰っていない。至近距離で見て思う。やっぱり甲殻獣は人類の敵なんだって、闘争すべき相手なんだって。


 相手をどう評価していいのか、困っているけど、やるべきことはやるしかない。氾濫が近いんだ。相手の生命と自分たちの命、天秤にかけるまでもない。



 だから、蹴る。



 甲殻狼は全身に光を帯びて、みるみると元気になっていくのが分かる。はい。わたしは甲殻獣を治すことができますよ。実証されてしまった。


「かなり予定通りだけど、やりますよ! 『フサフキ隊』戦闘準備!!」


「とっくに出来ていますって。開幕は聖女様の一撃でしょう! やっちまってください!!」


 ええっと、ああ、ロブナールさんだ。右手を失っていて、そこにごっつい甲殻武装を装着している。カイゼルまではいかないけど、お鬚が格好良いおじさんだ。こりゃ、無様は見せらないなあ。


 さあ、やるか。


「第7中隊、全員退避!! ここからはわたくしたちの出番です! 余程の事が無い限り手出し無用です!」


 フォルナが叫び、同時に甲殻狼を押さえつけていた第7中隊の面々が飛び退る。やっぱり凄い連携だ。



 ◇◇◇



「さて、そこの狼さん」


 今、わたしの目の前には、完全回復した甲殻狼がいた。しかも、さっきまで徹底的に痛めつけられていた、言わば恨みガンギマリの狼さんだ。これは手ごわそうだ。だけど。


「わたしとフォルナが初撃を入れます。隊員は包囲準備っ!」


「了解!!」


「フォルナ、やるよ」


「ええ、こんな狼一匹を手籠めに出来ないようで、氾濫に立ち向かうなど笑い話ですね」


 うええ?


 わたしとフォルナそれぞれの一歩。ただ一歩だ。その一歩が、甲殻狼を惑わした。


 ソゥドを滾らせた二人が、同じタイミングで左右に分かれたのだ。感じることが出来る存在だからこそ、困惑するんだろう。


 じゃあ、いくよ。こっちは覚悟できてるよ。そっちはどうかな?



 どごおおぉぉぉん。



 開幕はフォルナの一撃だった。


 一歩で甲殻狼を惑わし、さらにもう一歩はすでに彼女の間合いだ。そこから繰り出された例の甲殻獣の骨による一撃。存分に力を満たし、綺麗なお手本のような抜き打ちを甲殻狼に叩き込んだんだ。



『フギャワラアアア』



 なんだかよく分からん叫び声をあげたのは、当然甲殻狼だ。そして、フォルナの反対側に居たわたしの方に飛ばされてきた。


 やれやれ、わたしの出番のようだ。最初っから出番はあったわけだけど。


 右脚を大きく踏み込む。当然、引っ張られて、右肩も前に出る。そして、右腕も。


 踏み込んだ下半身で、地面を握りしめる。ハイヒールを履いているから、あくまでイメージだけど、そういうことだ。膝から腰へ、それに併せて、緩やかに上半身に力を伝導させる。基本は脱力。


 さて、こっからだ。伝えられた力を右肩に乗せて、ソゥドの力を籠める。信じる。


 だから当たり前に右腕が前に出る。ふわっとした体重移動と、ソゥウドを一点に集中させる。右肘だ。


 すなわち、順歩による右肘。甲殻狼がこちらに飛んできて、触れる瞬間に、全てを結実させる。


「今のところ恨みは無いけど、だけど命はもらうよ」



 ばぎぃぃぉん。



 えっと、甲殻狼の装甲が叩き割れて、そのまま落下した。


 てか、動かない。死んだの?


 え、わたし、生き物を殺したわけ?


 というか、この後、部隊のみんなの実地訓練だった予定だけど、どうしよう、これ。


「えっと、わたし、なんかやっちゃいました?」



 2回目だよ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る