第26話 フサフキ治療小隊、出撃!!




 そう言ったわけで、2日ほど訓練、と言うよりかは、死闘じみたやり取りをして、それなりにお互いの力を認め合ったわけだけど。



 甲殻獣討伐。



 避けて通られるわけも無いし、わたしも心には定めていた。だけど。


「甲殻獣って、生き物なんだよね。わたしに、出来るのかなあ……」


「フミカ様にとっては生き物であっても、わたくしたちにとっては宿敵ですね」


「うん、ごめん、実感が無いって言うか。はっきり言って、嫌悪感だってあるよ。だってさ」


「それは、フミカ様が、聖女様ご自身が主が目で見て、ご判断くだされば良いと思います」


「いいの、そんなんで?」


「ええ、いいのです」



 ◇◇◇



 どごぉん。ばっがぁん。



 前言は完全に撤回だ。ありゃ人類の敵だ。間違いない。


 アレを味方というか、飼いならせる存在なんているわけがない。ああ、ねーちゃんならやってのけるかもしれないけど、今ここにいない存在を期待しても仕方ない。


 甲殻狼と呼ばれているらしい甲殻獣、要は狼に装甲がくっついたような化け物だ。いやほんと、化け物としか言いようがないんだよ。


 体長は大体2メートルくらいだろう。大型犬よりさらに大きい。何よりの特徴は言わずもがな、全体ではないけど、甲殻がまるで鎧のように体中に張り付いている。行動を阻害しない程度で、かつ最大の防御力を追求したような姿だ。


 体毛は灰色だけど、甲殻が薄く白く輝いている。それに対して眼は真っ赤に輝いている。こりゃ絶対ソゥド力を使っているわ。遠めでもよく分かる。


 そんな甲殻狼に対して人間側といえば、甲殻装備の盾で受け止め、同じく甲殻で出来た槍やら、こん棒やらで攻撃している。原始的とも言えるけど、この世界で一番硬くて柔軟の素材が、力を通した甲殻装備なんだから、こうなるのも仕方ないわけだ。


 事前に教わってはいたけど、あんな怪物相手によくもまあ近接戦闘なんて出来るものだ。わたしは、この世界の戦士を改めて見直した。その勇気を尊敬以外の言葉で表すことができないよ。



 ◇◇◇



 甲殻武装が発表されてから二日。それまでにフォルナは20個ほどの甲殻武装を作り上げた。もちろんわたしも協力して、調整のために武装をした退役して、そして志願してくれた兵士たちを蹴り続けた。


 ついでに、フォルナと自分も蹴った。


 なんとわたしのハイヒールは、疲労改善効果を持つのだ。もちろんソゥド力を使っているわけだから、限界はあるだろうけど、生憎ファルナもわたしもやたら膨大な力を持っているわけで、すなわち24時間戦える状態になったんだ。ああ、黒い。


 新しく甲殻武装を装備した人たちもノリノリで訓練をしていた。戦力になれたのが嬉しくて仕方ないって感じで、もう、やる気が色々と突破したのか、それにわたしも付き合わされた。お陰でわたしも強くなれた実感はあったけど、もう自衛隊のヤバい行軍みたいなノリってこんなのかなあ、って、よく分からない想像までしてしまった。疲れたけど、充実してる。ここらへんがわたしらしい。


 んで、本日早朝、わたしたち『フサフキ治療小隊』と、大公国軍第7中隊が出撃したわけだ。


 全員が馬に乗る。多くは単騎だけど、一部、馬に乗り慣れていない人はタンデムだ。もちろんわたしもタンデム側の一人だったりして悔しい。幼い頃は、いや高校までは、実家の牛に乗って遊んでいたんだけど、馬は初体験だ。


 フォルナの乗る馬は、とにかく超デカい、いや全部の馬がデカい上に、なんかこう力を感じる。ってか、このお馬さんたち、全部ソゥド力使ってやがる。ヤバい。


 でもわたしは知っている、こいつらサラブレッドじゃなく、疑似ペルシュロンだ。地元だから知っているんだぞ。所謂、ばんえいなお馬さんだ。足は短くて太いけど、デカい。迫力満点に加えて力が乗っかっているから、もはや馬という名の別の何かだ。


 そんなわけで、フォルナの後ろにしがみついて、アホみたいな速度で突っ走ること2時間くらい。移動距離はちょっと分からん。50キロ以上いったんじゃないかこれ。


「これでも全力ではありませんよ。伝令馬ですと倍くらいの速度は出します」


 とは、フォルナの言葉。馬、凄い。


 ロンドル大河をちょっと南側に迂回しながら、大公国の入り口にあたるバラァトまでの街道を突っ走り、ちょうど公都との中間点あたりで、馬を止めた。ここからは歩き、っていうか、走りらしい。


 第7中隊が、3小隊に分かれて、前衛、左右を守り、わたしたちの小隊はその真ん中を突き進むって感じだ。ちなみに方向は南側。つまり今回、北西で発生した氾濫と逆方向ということだ。安全性ってことだね。


 すべての小隊には、狩人が随伴していて、つねに索敵を行いながら、そして全員が走り続ける。


 ここらへんが、ソゥドを持つ人々の凄いところだ。わたしも走る。置いていかれたら聖女の名折れ。付いていくさ。



 ◇◇◇



 30分くらい相手もいない森を突撃した結果、手ごろな相手、ほんとに手ごろな相手か!? を見つけたそうだ。


 それが、冒頭の甲殻狼だ。なんでも、はぐれでしかも、少々大きめなところが手ごろらしい。化け物にしか見えないわけだけど。


「フサフキ小隊は待機。まずは我々で無力化を図ります!」


 第7中隊長さんの声が響く。当然、今回の目的を鑑みて、予定通りの行動だ。いや、予定以上に好都合じゃないか。



 周囲に警戒索敵要員を配置して、第7中隊総勢は100名弱。流石に全員いっぺんは無理だから、その一部の精鋭ではぐれ甲殻狼に襲い掛かった。うん、化け物じみた相手であっても数の暴力は凄い。ボコボコだ。


 だけど、ある程度のけが人は出る。それくらい、甲殻狼は速くて強い。けが人は順次後送されて、わたしが蹴っ飛ばす。んで、前線に戻る。これくらいの戦力差となると、わたしが無事な限り、永久機関じみた展開になってしまっている。ちょっと甲殻狼に同情するくらいだ。


「姫様! 聖女様!! 頃合いです!」


「了解しました。ではフミカ様、お声を」


「ええ!? やるの?」


「もちろんです。我々は『フサフキ小隊』なのですから」


「うーん、わかった。じゃあ……『フサフキ治療小隊』前進!! 怪我は幾らでもしていいから、死なないように!! 今回はあくまで試験戦闘だからね」


「了解!!」


 まあ、わたしを除いて歴戦の強者たちばっかりだから、そのあたりはわきまえているんだろうなあ。


「では、いきますか」



 ああ、そうそう、今回メリッタさんはお留守番だ。フォルナ曰く「爆弾は足手まとい」だそうで。親子関係は大事にしたいなあ。



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