第24話 死んでも死なない、フサフキ治療小隊





「まずは聖女様の直掩を増員します」


 会議室にメリッタさんの声が響く。


「すでに志願者は選定済みです。詳しくはお手元の資料をご覧ください」


「ロブナール、ケーシュタイン、アラマトーネ……。怪我を負ったとは言え、往年の強者ばかりではないか」


 大公様が唸る。


「その通りです。彼ら、彼女らは志願し、従軍を希望しています」



 ◇◇◇



 主に甲殻義腕を持った戦士たちが、わたしの護衛を申し出た。総数13名。フォルナとメリッタさんと、そしてわたしを併せて16名。


「猫の手どころではないな。聖女殿を中心とした回復部隊か、さしずめ、『フサフキ治療小隊』と言ったところか」


「彼らは、歴戦の勇士です。その上、義腕を回復することの出来る聖女様と組めば、お分かりでしょう」


「あいつらに甲殻獣を倒すすべはない。どうせ、命に代えても聖女殿を守るとか、そう言ったのだろう」


「ですが、現状において、聖女様の護衛を、この規模で実現するには」


「認めがたいが理解は出来る。だがな……、死を前提とした戦いなど、俺は好かん! 死んでも死ぬなと伝えろ。それが条件だ」



「承りました。良い言葉だと思いますよ。『死んでも死なない、フサフキ小隊』。能う限り実現して見せましょう」



 ここはメリッタさんよりか、わたしだろう。だからわたしは堂々と言ってのけた。


「頼む」


 大公様の一言が重くわたしにのしかかる。だけど、暖かさも感じてしまう。やっぱり良い人だと思う。


「お父様、お言葉ですが、ひとつだけ」


「なにか?」


「彼らは、力なき存在ではありません。実際に見ていただくのが早いでしょう。メリッタ」


「かしこまりました」


 メリッタさんが背後の扉を開け、そこから登場したのは異形の戦士だった。


「アラマトーネ……。なんだそれは、その恰好は!?」


「姫様によるものです」


 そこにいたのは、大柄な女性だった。年のころは40に届くくらいだろうか。赤い髪が短く切り揃えられている。問題は、彼女の左腕だった。いや、なんともはや。


「わたくしは、それを『甲殻武装』と名付けたいと思います」


 フォルナが堂々と言い放った。すっごくドヤった感じだ。新兵器を開発したマッドな科学者みたいで、ちょっと格好良い。


 アラマトーネさん、いや彼女からはすでにアラマと呼んでほしいと言われているので、アラマさんだ。アラマさんの左腕は、体全体を覆うほどの巨大な盾になっていた。いかにも甲殻獣から得られた素材らしく、凸凹しているし、歪ではあるものの、立派な盾にしか見えない。しかも、先端には、槍の穂先らしきものも備えられている。これまた甲殻獣の牙か爪を拝借したのだろう。微妙に歪んでいるが、それもまた武骨でそして。格好良い。


「アラマ、お願い」


「かしこまりました、姫様」


 アラマさんが左腕を、盾を構えて、力を籠める。


 盾と爪が薄く赤い光を放ち始めた。すなわち、ソゥドが通ったのだ。


「これは……、凄いなっ!!」


 大公様、ノリノリだ。


「では」


 フォルナが立ち上がり、腰の骨を抜き放った。そして力を注ぐ。


「いきます」


 アラマさんの盾と同じように、薄赤い色を纏った骨が、空気を切り裂く。そして、激突した。



 どごおおぉぉぉん!!!



 盾と矛。攻撃と防御を担当した二人が、共に後ずさった。


「わたくしの一撃は甲殻獣に届きます。その攻撃を凌ぐ盾。どうですか?」


 そうしてフォルナが差し出した骨には、ひびが入っていた。同じくアラマさんの盾にも亀裂が入っている。まさに矛盾。


 そんな両者の間に割り込む影。もちろんわたしだ。いくぞ! わたしだってここ二日、何もしていなかったわけじゃない。


 力を籠める。力を回す。思いを込めて、蹴りを繰り出す。



 がああぁぁん!!



 まずは、アラマさんの盾からだ。わたしの飛び後回し蹴りがさく裂し、緑色に輝く。わたしはそれを足場に、背後へと宙を舞う。そしてそのまま空中から右回し蹴りをフォルナに向けて、叩き込んだ。



 ずどぉん。



 別に打ち合わせをした分けじゃないけど、さすがはフォルナ。キッチリと受け止めてくれた。そして彼女の持つ骨が輝く。


 わたしが着地したときには、骨も盾も元通り、という訳だ。



 そしてもう一つ注目してもらいたい。わたしが圧倒的に速くなっているということを。ふふん。



 ぱちぱちぱちと拍手をしながらメリッタさんが発言する。


「お見事です聖女様。二日でここまで来るとは、想像もしておりませんでした。そしてお嬢様も、この素晴らしい武装は我が国の光となることでしょう」


 絶賛である。


「ですがご説明しておくこともあるのでは?」


「……そうですね。お父様、この装備は甲殻義肢と同じく人を選ぶのです」


「つまり今回選抜された人員とは」


「はい。元々脚と目が良い方の中から、さらにソゥド力が強く、甲殻義肢適性が高い人たちを選抜した結果となります」


「なるほど。だが、光を感じるな」


 ふっと、大公様が笑った。


「理解は出来た。『死んでも死なない、フサフキ治療小隊』、結成を認めよう!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る