第21話 訓練計画ですら、痛い
「まずは聖女様の役割、それについて意思を統一しましょう」
メリッタさんの、あのゴリ押しの教導宣言の後、大公様は方針をぶん投げた。正確に言うと、わたしと、メリッタさん、そしてフォルナの3人に話し合って今後を決めろと、ご当人は逃げだそうとした。だけど逃げられない。訓練の状況次第で、あらゆる協力、すなわち大公国を挙げて聖女様に協力するのは当然の事としてフリーハンドをもぎ取ったのだ。
やはりメリッタさんは怖い。で、三者会談だ。
「聖女様に求められるもの、それは、死なずに行動不能になるような怪我を負わずに、前線の戦士たちを回復し続けることです。異論は?」
「ええと、わたしの回復がどれくらい続けられるか、検証次第だとは思います」
「そうです。当然、それを確認する必要はあるでしょう。ですが、わたくしはほぼ確信しています」
「なにを?」
「聖女様のもつ回復の力の機序です。聖女様はその靴を守り石として、力を行使しています。ただ先ほどのわたくしを回復させたときの力の流れを鑑みるに、回復は聖女様のソゥド力を使っていないと思えるのです」
「え? じゃあどうやって回復を? まさか」
「ええ、多分ですが、聖女様の靴はきっかけに過ぎません。わたしの中のソゥド力に働きかけて、それが回復を為している、とそう感じたのです」
言いたいことは何となく分かる。要はわたしがスイッチを入れて、動力はご当人のもので回復しているってことだろう。理屈は分かるけど、じゃあ、疲労まで治すっていうのは付随というか強制なのか? 調整とか効くんだろうか。
「ですが、それならば、回復を受けた者たちが、傷だけでなく、疲弊すら回復し続けるということになりませんか?」
フォルナも同じような結論に至ったのだろう。先ほどのメリッタさんの回復具合を見れば分かる。
「はい、お嬢様。それゆえ、検証は必要だと思われます。まずは……」
やおら、メリッタさんがナイフらしきモノを取り出し、自らの手の甲に突き刺した。もちろん、血がボタボタと滴り落ちる。
「お母様!!」
「聖女様、お願いできますか」
メリッタさんは涼しい顔だ。この1時間ほどで思い知ったが、この人、キマりすぎだろう。
わたしはすかさず蹴りをぶち込んだ。一応ダメージ目的じゃないって頭で考えて、心から治したいって思いこんで。
それがソゥドの力だから。
みるみると、メリッタさんの傷が癒えていく。
「やはり、わたくしの力が治癒に使われている感覚があります。聖女様にお変わりは?」
「別に疲労感とか、何かが抜け出した感じはありませんよ。だけど、そういうの、止めてもらえませんか? せめて事前に言うとかでも」
「大変失礼いたしました。事前に言ってしまったら、止められそうで」
止めるよ、そりゃ。何なんだ、気合入りすぎでしょうが。
「お母様……」
流石にフォルナもため息だ。だけど、直後に表情を一変させる。
「メリッタ、わたくしの腕を折りなさい。命令です」
「賜りました」
ばぎんっ!!
嫌な音と共に、フォルナの右腕が反対側を向き、メリッタさんの腕も同様に変な形になっている。
「あんたがた!! どうしてそういうことするの!!」
叫びながら、両者に蹴りをぶち込む。強めだ。ちょっと反省しろい。
「力が乱れているわたくしよりは、理解できると思います。お嬢様」
「ええそうですね。まったく強引ですけど、その通りです。明らかにわたくし自身の力で回復されているように感じます」
だからさあ、そういう人体実験みたいのどうなの? もうちょっと穏便な方法って……、わたしも思いつかないかあ。
「では、まとめますね。フミカ様の為すべきことは二つ」
フォルナがまとめに入る。
「一つは、死なないこと。そして、戦場で重傷を負わないことです。つまりは、医療班と一緒です。フミカ様が死んだなら、100人が死ぬと思ってください。そして、この国が堕ちると思ってください」
「重いなあ」
ホント重いよ。自分の意思とは言え、わたしひとりがそこまで背負う羽目になってるわけかあ。
「申し訳ございません。ですが、事実です。フミカ様はそういう存在としか、言いようがありません」
「で、そのために特訓するのでしょう? いいよ、やるよ」
「はい。それが二つ目です。メリッタが主導になるしょうが、氾濫の中で死なないための力を得てもらいたく思います。メリッタ」
「聖女様におかれましては、先のトルネリア卿との試技で見せた様に、この国には無い技術をすでにお持ちです」
ああ、ケートザインさんの事か。あのとき寸評がメリッタさんから頂けた。テれるなあ。
「ですが、圧倒的に力が足りていません。明日以降の訓練では、ソゥド力を自覚し、高める事が肝要と思われます。特に、知覚と速度を重視したいと考えます」
「異論はありません。他の兵たちにも普段以上の訓練を推奨しましょう。怪我をおったとしても、フミカ様が治してくれますし、それが、検証を深めることにもなります」
親子だ、こいつら。どうしてこう、ヤバげな方向性なのか。
「今の段階では、わたくしの出番は無さそうですね。せめて、わたくしの動きを認識出来るよう、目途がたったら……、死闘を繰り返しましょう」
やったろうじゃないか。メリッタさん、言質は取ったよ?
「いいですよ。とことんやりましょう。わたしが勝ったら、称号貰いますよ?」
フォルナもメリッタさんも、嬉しそうに獰猛に笑う。
「フミカ・フサフキ=フィヨルティア。うん、悪くない」
「ええ」
「期待しております」
まったく、この人たちときたら。
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