第18話 隙も無ければ、容赦も無い
こんな白々しい「隙あり」なんて言葉を聞いたのは初めてだ。
わたしたちは、いつの間にか街の広場みたいなところにいた。姫様姫様とフォルナに寄ってくる子供たちを可愛らしく思っていた矢先の出来事だ。無粋にも程がある。が。
「隙などありませんよ」
「もぎゃあっ!」
フォルナに襲い掛かって来ていたのは、子供だった。しかも女の子じゃないか。
近くの屋根から降ってきたのだろうか、上空からフォルナを殴りかかったその子は、あっさりと地面に叩きつけられていた。
ちょっと待て? さっきまでフォルナは子供たちに囲まれていたはずだ。周りに被害は? そもそもメリッタさんや護衛は何やってる?
いくら武術をやっていたって、意想外は幾らでもある。自分がむしろ意想外を得意とするだけに、その光景は、異常だった。
◇◇◇
フォルナは悠然と立ち、その地べたには、襲い掛かって来た子供がいる。じゃあ、フォルナにより縋っていた子供たちは?
その子供たちはフォルナか2メートルくらいの距離で、あまつさえ彼女を反包囲していた。なんだこの状況。わたしは素早く辺りを見渡すが、護衛たちに動きは無い。というか、ニコニコしている。
「どりゃーーー!!」
「うおりゃああ!!」
「うおーーーー!」
なんか威勢の良い掛け声で、子供たちが一斉に、フォルナに飛びかかっていった。
ぱんっ、ドンっ、どぱぁん!
いや、そりゃ今のソゥド力を得たわたしが見れば、なんならソゥド力を持つ前から見ても何やっているかは分かるけど、なんだこれ。
フォルナに襲い掛かったちびっ子たちがなぎ倒されている音だ。それにしちゃ、響きが重すぎないか?
一陣の風が吹き抜け、その中心に聳え立つフォルナと、その周りに崩れ伏す子供たち。ヤバイだろこれ。
「あ、あのさ、フォルナ」
「見ていただけましたか。わたくしも結構強いのですよ」
「いや、それは知っているけど、知っているよっ! で、なにこれ」
「これです」
フォルナは胸の花をちょいと摘み、かざして見せた。
「この花を奪えれば、あの子たちの勝ち、出来なければ負け、そういう遊びです。お互いの鍛錬にもなりますし、触れ合いにもなって楽しいものです」
そっかあ、フォルナはあれを触れ合いと言い切るわけか。まあ、この世界らしいっちゃらしいのかもしれない。
「ちぇっ、またダメかよ」
「姫様強すぎるんだもん」
子供たちがぶーたれている。そして、こっちを見た。
「姫様、あのお姉ちゃんだれ?」
「なんか、でっぷくて弱そう」
「変な靴、履いてるー」
ほほう。
「フォルナあのさ」
「な、なんでしょうか」
「ちょっと、その花、貸して」
「そ、それは、その」
「だいじょぶ、だいじょぶ、ちょっと遊んであげるだけだから」
無理やりフォルナから花を奪い取りそして、地面にそっと置いた。失礼のないように、丁寧にだ。そして、その花を中心に靴でもって、円を刻み付けた。半径は50センチくらいかな。
「さあて、遊んであげるよ。ただし最初は一人づつだよ」
「なんだよー、いっぺんにかかったら怖いのかよ?」
「怖い? フォルナ姫様は怖いの?」
「んーー、格好良い!」
「そ、じゃあ、別の格好良さを見せてあげるから、君からおいで」
多分、子供たちのリーダー格だろう、10歳くらいの男の子に声をかけてあげた。
「ただし、力は全力で、手加減したら、怒るよ?」
伝わるかな? 伝わったら、凄いんだろうな。
「へっ、やってやるよ。花を取ればいいんだろう?」
伝わったよ。凄いな。ほんと、この世界は覚悟決まっている連中が多い。こんなちびっこまでかあ。
「じゃあ、それに応えてあげないとね」
次の瞬間、飛び込んできた男の子は、3メートルほどの高さに浮かんでいた。私が、捌いて投げたからだ。
落っこちてきたその子の腕を掴んで、衝撃の無いように着地させてあげる。
「ふぇぇ? ふおおおお、すっげえええ!!」
「さあ、次、おいで」
次の子は、5メートル。さらに次の子は3メートルの2回ループ。
◇◇◇
「さてはて、お越しの皆さま、大公閣下認定の公式聖女の一芸ですよ。是非ご覧になっていってください」
いつの間にか、広場は男女、大人子供、老若、色々な人々が集まって、私が誰かを放り上げる度に歓声が巻き起こっていた。
「さあ、どんどん行きますよ。二人、いえ三人づつでかかってきなさい!」
「うおー!」
「行くぞー!!」
「ほい、ぽん、ぽーん!!」
「うおおおおお!!」
盛り上がってる、盛り上がってる。大満足だ。
って、大道芸か。
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