第17話 そういえば忘れていた『守り石』の話
雑踏、と言えばいいのだろうか。わたしたちは街中を歩いていた。
私は例の濃緑色のコートを着込み、フォルナも何故か同じ色のコートを着ている。意味があるのか、何故かフォルナのコートの胸には、一本の花、例の紋章にあった百合に似たアレだ。アレが飾られていた。多分意味があるんだろうな。
後ろからついてくるのは、もちろんメリッタさんだけど、メイド服じゃなかった。なんというか、がっつり護衛している、つまり普通に黒い軍装で、なんだか両手両脚、ついでに胸のあたりに装甲というか甲殻をつけている。あれか、あれが甲殻獣から得られた防具ってわけか。あまつさえ、腰からは骨。いや、骨としか言いようがないんだよね。武骨でまんまな骨がぶら下がっている。
さらには、護衛っぽい男の人が二人両脇を固めている。装備はメリッタさんとおんなじ感じだ。
つまるところ、お姫様と聖女のお忍びって感じでは全くない。
だけど周りはそれを全然気にしていないように見えるんだよね。もしかしてフォルナは、普段からちょくちょくこういう行軍を街中でやっているのかなって、そんな想像が出来てしまうわけだ。
◇◇◇
「そう言えばさ、ハイヒールってか、回復の件でうやむやになっていたけど、『守り石』って言ってたよね。アレって何?」
「ああっ、申し訳ありません。守り石は、そうですね、大きく二つの効果があるとされています」
「ふたつ?」
「はい、一つは、身に着けた者のソゥド力を大きく、といいますか、引き出しやすくする効果です。ソゥドの力は数値で測れるようなものではありません。心の底から願う限り、意思の強さの能う限り、どこまでも引き出されると言われています」
「際限なく強くなるってことっ!?」
心底からヤバい力じゃないか。
「初代様はその力を持って、フィヨルタを危機に陥れた甲殻獣と相打ちになり、果てたと言われています」
「獣とタイマンかあ、凄いんだね、初代様」
「はい。わたくしたちの誇りです」
フォルナは、本当に誇らしげだ。話を聞くだけでも、ほんと、英雄みたいな人物だよなあ。
「それで、もう一つの効果って?」
「そうですね、ロウンロート、お願い出来ますか」
「かしこまりました」
ロウンロートと呼ばれた男の人がすっと近づき、腰から骨を抜いた。字面からするとヤバいな。
「ご覧ください」
ロウンロートさんがそう言うと、右手に持った骨が薄く黄色に輝いている。
「うおっ!」
「甲殻獣から得られた素材は、ソゥド力を通すことが出来ます。守り石を直接触れさせる必要がありますが」
フォルナの解説を受けてよく見れば、ロウンロートさんの右手の小指には指輪みたいのがあって、そこに付いている石が骨と同じく黄色に輝いていた。
「力を通すことで、甲殻獣から得られた武具はより強靭に、そして、より効率的に打撃を与えることが出来るようになるのです」
「ほんと凄いねソゥド力。でも、守り石ってどうやったら手に入るわけ?」
「それが分からないのです。いつの間にかというのが最も適切な表現かもしれません。普段身に着けているものがある日、守り石になることもありますし。時には、朝目覚めたら、掌にあった、などというお話もあるようです」
「じゃあ、わたしの場合は……。どういうこと?」
「そこは聖女様ですので、特殊なのでしょうか?」
分からん、ということだろうけど、フォルナは良い笑顔だ。ほんと、聖女崇拝すごいな。
え? じゃあわたしの戦い方ってどうなるんだ? ハイヒールを持って殴る? どこぞの夫婦喧嘩じゃあるまいし。足に履いたまま、トゲっぽい何かを括り付けるとか……。謎のアサシンみたいだし、普段邪魔だなあ。
あ、でもそれをやったら相手を治してしまうんじゃないか?
もしかして、蹴りが封印されたってことか。なんとかなるだろうけど、近接戦闘メインか。うん、燃えるな!
「ねえ、わたしって、どうやって戦うのがいいのかな?」
「今後の検証次第ですが、フミカ様はそのままでよろしいのでは?」
「えっと、どういうことかな」
「フミカ様は、守り石に頼らずとも、素晴らしい武技をお持ちです。そうですね……、甲殻武具を用いずとも、殴って倒し、蹴って癒せばよいのではないでしょうか」
ワイルドだなあ。おい。
などと、自分の戦闘スタイルなんかを考えながら歩いていると、子供たちが駆け寄ってきた。
「姫さまだー!」
「姫様、姫様」
「姫さまこんにちはー!!」
にこやかに応えるフォルナは満面の笑顔だった。
「あらあら、皆さんこんにちは」
うん、愛されているし、愛しているんだろうなあ。
わたしは間違っていない。この国に助力して、この子達の笑顔を守るのは、間違いなく格好良い。
「隙ありいいぃぃ!!!」
そんなわたしの感動を、ぶち壊す叫び声が聞こえた。
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