第16話 公都フィヨルタ、そしてフィヨルト大公国
わたしとフォルナ、そしてメリッタさんは、塔の上にいた。
見張り台なのか、楼閣と言うべきなのかは素人なので分からないけど、とにかく高い所だということだ。メートル単位だとよくわからん。賃貸の5階の窓からの光景、くらいだろうか。城を中心に、5、6本建てられているみたいだ。
そして城はといえば、それほど豪華でもなければ、背が高いわけでもなかった。一応、街の中心の高台に造られているようで、ある程度は目立つけれど、なんか重厚だけど平べったい感じだった。色は、何故か黒い。そういえば、フォルナが黒という色について何か言っていたような。
「初代の名を授かり、ヴォルト=フィヨルタと呼ばれています。城というよりは、政と軍の中心施設で、フィヨルトの最後の避難所でもあります」
フォルナが説明してくれた。
「高さ5メートル程の石壁に囲まれています。ある程度の備蓄と、水源もありますので、早々堕ちることはないでしょうが、それでもそこまでです」
「いつまでも籠城するわけにもいかない、かあ」
「フィヨルタの丘と呼ばれたここに、初代様が開拓の中心を定めました。北に水源たる大河、ロンドル。西には甲殻獣が現れにくいトルヴァ渓谷。そして南と東は城と同じく石壁を建築し、フィヨルタの守りとしているのです」
確かに北を見れば、大河というに相応しいだろう、ロンドル河が見える。公都と直接触れているのだろうか、小舟も幾艘か動いているようだ。この高さからだとどれくらいの規模なのかは、ちょっと分かりにくいかな。
「船で、移動とか、交易とかやっているの?」
「はい。いくつかの村がロンドル沿いにありますので、主に物資と人員の移動に使われています。東の隣国フォートラントは山脈を挟みますので、一度東側の集積所、バラァトという街を通じて後は陸路になります」
海とかはあるのかな? こんなに大きな河があるならあるんだろうな。
そんな風に考えながら、もう少しだけ辺りを見渡した。直下には街並みが見える。北海道の計画都市を見慣れたわたしにとって、あまりにも雑多な街並み。多分だけど、少しづつ、少しづつ、森を削りながら、獣と戦いながら広げてきたんだろう。
そして、街の外側に光る金色たち。背の高い小麦たち。一部は地平線の果てまでも続いている。
風が吹き抜けた気がした。
山の匂い、森の匂い、麦の匂い、そして人々の生活の匂い。異世界だけど、それでもわたしの故郷と似通った匂い。
凄く、物凄く大切な宝物を見るような眼差しで、フォルナは締めくくった。
「これが初代様より、150年。わたしたちの先祖たちが築き上げたフィヨルト大公国です。まともに街と言えるのは、ここフィヨルタと先ほどの話に出た、バラァトの二つだけ。人口は10000を越えるかどうかでしょう」
フォルナは続ける。
「ここが、祖国を追い出され、人類未踏の辺境で、戦い、生き抜いてきたわたしたちの国です。今では友好的ですが、フォートラントからの流民を含めて入植者も増えました。この国は、まだ大きくなります。豊かにするのです」
本当に、国を思っているお姫様なんだな。お兄さんも、ちょっとアクは強いけど大公様も、少なくとも今の世代は幸せなんだろう。
ん? お母さんは? 今は聞かない方がいいか。
「うん、良い街だと思う。わたしの実家はね、牛を育てていたんだ」
「牛をですか。育てるとは?」
「ああ、牧畜概念薄いかあ。まあそれは追々として、どことなく似てるんだよね。空気も匂いも」
「……光栄、です。とても嬉しく思います」
「これもなんかの縁なのかもね。わたしもなんとなくだけど、嬉しいよ」
そして西を見る。
「それでトルヴァ渓谷? だっけ、そこの守りはあるの?」
「ええ、もちろん。こちらへの出口になっている箇所で谷が狭まっているので、そこに砦が造られています。今までに2度、そこで氾濫を防いだことがありそうです。もっとも今回は……」
「大規模な上に大型個体、かあ。でも、進行してくるのが一か所に限られるのなら、それはそれで」
「お父様の言った通り、戦力を集中して、迎撃。そういう作戦になりますね」
「まあ、現実的かあ」
ため息をつけばいいのか、気炎を上げればいいのか、今はまだ溜める時だ。やるべきことが沢山ある。
「わたくしは、フミカ様が聖女で本当に良かったと思っています。ねえ、メリッタも」
「はい。本当に」
うおっ、そういえばメリッタさんもいたんだっけ。この人、気配消すの、本当に上手いな。
「この後はどうされますか?」
ちょっと嬉しそうにフォルナが聞いてきた。
「そうだね。人が見たいな。どれくらい出来るか分からないけど、わたしが助力して、この国のみんなで守る、人たちが」
「はいっ!!」
実は、城の一角の多分訓練場みたいな所で超人戦闘している人たちの方を見たかったのだけど、今は止めておいた。
そっちの方が格好良い気がしたから。
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