第7話 芳蕗の技




 いい加減巻いていこう。



 高校に入学したわたしは、たいして勉学に励まず、まあ最低限の勉強をしながら女子柔道部に入った。他に格闘系の女子部活が無かっただけのことだった。


 とはいえ、打撃主体だった自分にとって、投げ技は非常に勉強になったし、特にゼロ距離からの崩し、投げ、極めは後にわたしの代名詞となる『引っ付き亀』の下地となったことは間違いない。


 ああ、例の超人野球軍団は、野球部でぶいぶい言わせていた。わたしはマネージャーやって、甲子園に連れてってとは思わなかったけど。


 この頃には身体も出来上がり、160センチちょい、80キロちょいの体格が、ぬるりと間合いに入り、「肩と腰で打撃」をぶちかましてから、相手をぶん投げるスタイルが確立していたわけだ、これが。



 そしてそのスタイルが昇華されるのはさらに3年後。わたしは内地に上京し、とある女子プロレス団体に所属していた。もちろんレスリングの基本と、魅せるプロレスを両立しながら、その体形もあって見事にヒールとしての立場を確立したわけである。どうしてこうなったのやら。



 売名というか、弱小所属団体のために女子総合格闘大会に出たのもこの時期だった。で、優勝してしまった。『日本最強女子』の名もこの時に得たものだった。


 同時に、というか当たり前かもしれないけど、当たり前なのか? 斎藤術の称号も剥奪された。


「原型留めてないだろ」


「全然違うわね」


「格好良いけど、なんかヌルヌルしてる」



 斎藤のじいちゃんと、母さん、ねーちゃんの合議の元、わたしは正式に斎藤術の異端認定を受けたわけである。


 で、ねーちゃんとおっちゃんのちょっとアレな感性を受け、わたしの武術は非公式に、『芳蕗の技』もしくは『フサフキ』、というなんとも温かい名称を賜ることになった。芳蕗流とかじゃないのは、闇に隠れた一子相伝感があって格好良いらしい。またわたしの中で格好良いパターンが追加された。


 なんでも以後は、ねーちゃんが愛弟子ということになった。継承者を名乗っている。可愛い妹が格好良い道を進むのだ。喜んでしまったわたしは妹バカだろうか。



 そんなわたしにもライバルとも好敵手とも言える相手がいた。


 今日はそんなライバル、紗香の結婚式だ。どういうことだ。わたしとガチガチバチバチやりあったのに、普通に5年越しの恋愛結婚だそうだ。おかしいだろ。


 そんなわけで、結婚式の余興をやって欲しいとなった。内容といえば、紗香は、ウェディングドレスのまま、わたしは、いかにも悪役っぽい龍の刺繍の入ったチャイナドレスと、ハイヒールときたものだ。


 打合せすらしていない。だってそうだ。わたしと紗香なら、約束組手すら必要ない。



 全力でぶつかれば、それだけでいいのだから。



 そうして、その余興の前に、わたしは異世界に迷い込んでしまったわけだ。



 ◇◇◇



 目が覚めた。ぐるりと辺りを見渡し、自分の姿を見降ろし、ああ、夢じゃなかったんだと、うーん。


 異世界に来たせいか、走馬灯みたいな夢だった。やめてほしいよ、こういうの。


「お目覚めでしょうか、聖女様」


 扉の向こうからメリッタさんの声が聞こえる。やっぱし夢じゃないわけだ。


 どうしたものやら。



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