超ギガンティックラブリーオムライス

影神

ラブリー



月に1度。




僕の唯一の、祝福のひと時。






「お待たせ致しました~。




ラブリー特性。




愛情たぁ~ぷりっ。






超ギガンティック♪




ラブリーオムライス、です☆






でわ、御主人様?私と一緒に、




もぉっと。美味しくなる様に、




ラブリーを注ぎましょう。






せ~のっ、♪






『ラブリー、ラブリー、オムライス♪




あなたのハートにオムライスっ♪




ゆっくり、美味しく、召し上がれぇ♪』






でわ。ごゆっくりどうぞ、」






「頂きます。」






何の代わり映えのない日々。




彼女も居なければ、地位や名誉も無い。




貯金なんてモノは、いつ見てもゼロでしかない。






だが、、僕の人生には、、




この。『オムライス』があった、、






「うまいっ、、」






優しい卵の柔かさに包まれるライス。




そして、この、ケチャップ。






一緒に合わさるリズムで繰り出された、




崩すには惜しい、、ハートマーク、、






あぁ、、。




このケチャップが。




ライスと再び交わる。






薄く、綺麗なヴェールは、




愛と言う名の、赤いケチャップに染められ、、




離された私達を再び逢わせるのだ、、






あぁ、、。




卵の儚さ。




卵の健気さ、、




卵よ、、






そんな事を感じながら。




ゆっくりと味を噛み締める。






一気に掻き込みたい、、






だが。早まる手を制御する。






ゆっくりと。。






ラブリーが。ライスと再び重なる様に、、




隔たれた愛を再び分かち合うかの様に、、






ゆっくりと。何度も噛み締める。






「ごちそうさまでした。」






駅から10分。




お店の名前は『ラブリー』




僕がこのオムライスと出逢ったのは、、






この世の全ての事から、、




自らの命を。




投げ出そうと、していた時だった。






何をやっても上手くいかなかった。




何も楽しい事なんて、何も無かった。




彼女も年齢とイコールで繋がり、




魔法使いまで、あと少し、、






テレビやゲームや、アニメまでもが。






"本当に、つまらなかった"






退屈だった。




息をする度にため息が混じり、




支払いで全てが消える。




20代の平均年収400万。




僕はその1/4にも充たない。






貯金も、立派な立場も無い。




同級生は結婚し、子供が産まれ。




家を建てただの、建てないだの、、






全てが順調で、恵まれたルートへと、、




正直。羨ましいくも。妬ましかった。






どうして僕は、、。






会社勤めが長く続く訳も無く、




数々の陰湿な嫌がらせをされ、




アルバイトになってた今でも、




僕は何一つとして変われなかった。






僕は"ダメな男"だった。






『死にたい』






何となくバイトも休み。気が付けば、




自分の死に場所を探していた。






「つまらない。




つまらない、






つまらない、、」






そんな時。




キャンペーンで、配っていたチラシに。




僕は目を引かれたのだ。






メイド喫茶。ラブリー。






只今。当店自慢。




超ギガンティックラブリーオムライス。




が、リニューアル致しました。






御主人様?




逸早く食べに来て、下さいませ?






御主人様のお帰りを。心から。




お待ちして居ります。






「メイド、、カフェ、、。




楽しいのだろうかか、、」






テレビやアニメで見た事しかない、、




人生の最後ぐらい。行ってみるか、、






もう。何にも感じない。




どうでも。良い、、






前までの自分なら、、きっと。




緊張し、入るのすら躊躇っただろう、、






いや。"あぁ"ならなければ。




ここに来る事自体。




無かったのだろう、、






「お帰りなさいませ。




御主人様♪」




知らないコスプレをした女性が。




僕に優しく挨拶をする。






お決まりのセリフ。




フリフリのメイド服。






メイド「御主人様は初めてのご来店でしょうか?」




顔等は見れない。




席に通され、メニュー覧を見る。




メイド「オススメのメニューはこちらになります。」




普通の値段よりも割高なそれを。




適当に勧められたままに、注文する。




メイド「一生懸命。ラブリーたっぷりで、




作らせて頂きますので、少々お待ち下さいませ。」






客層はテンプレの様な、感じだと。




勝手な先入観でそう。決めつけていたが、




女性の客もそれなりに居た。




たまたまだろうか。




「ああ。




こうゆう人生も。もしかしたら、、




あったのかも。知れない、、」




ぼーっと。




頭の中でいろいろな事を想像する。






「疲れた、、」




メイド「大変お待たせ致しました。御主人様。




当店自慢の、




"超ギガンティックラブリーオムライス"




で、ございます。






当店では、より美味しく頂いて貰える様。




私達メイドが。御主人様の為に、




魔法をかけさせて頂いておりますが、




御主人様もご一緒にやられますか?」




「いぇ、、。」






メイド「でわ、御主人様。僭越なら、私めが。




このオムライスが、もぉっと、もぉっと、




美味しくなる様に。魔法をかけさせて頂きます。






せ~のっ、♪






『ラブリー、ラブリー、オムライス♪




あなたのハートにオムライスっ♪




ゆっくり、美味しく、召し上がれぇ♪』






でわ。ごゆっくりお召し上がり下さい。




次回は、是非。ご一緒して下さいね、」






残念ながら。僕には、、




次回等。ないんだよ。




そう、静かに心で返答した。






「頂きます。」




久しぶりに食べる。誰かの作った食べ物。




外食すら久しぶりだ、、






「、、、うまい。」




正直。期待等していなかった。




体験出来れば、それで。良かったのだから、、






「うま、、い、、。」




魔法のかけられたオムライス。




超ギガンティックラブリーオムライス。




は。僕の感情を揺さぶった。






きっと。彼女の、ラブリーが。




僕の暗いハートに届いたんだ。






愛は。時として、、




例え、それが仕事で、本心じゃなくても。




"精一杯のアピール"は。




誰かの心に伝わる事もあるのだと、、






初めて、そう。感じた。




そして、その時には。




僕はここの店の。




メイドさんの魔法のかかった。






オムライスの虜になってしまったのだ、、






こうして、月に1度は、必ず来る。




あの日。チラシを貰わずに。




例え貰っても、来なかったとしたら、、






今の僕はありえなかっただろう、、か。




辛い事や嫌な事は沢山ある。




正直。環境を変えても、大して変わらなかった。




けれど。今も何とか、、




心を保てているのであった。






それらは全て。




この"居場所"のおかげだった。






メイドさん「御主人様。




スタンプカードが貯まりましたので、次回。




お好きなメイドとの記念撮影が出来ます。






お好きなメイドが居る日に。




再びお帰り下さいませ。






御主人様のお帰りをメイド一同。




心よりお待ち申しております。






でわ。お気をつけて、、




行ってらっしゃいませ。







「行ってきます。」






何処で、どう生きるか。




それは、人それぞれであり、




どんな経験をするのかも。




無限と、あるのだろう。






そして。自分をどう労るか。




どう、癒すかは、、。




また。人それぞれであるのだと思う。






あなたは、今。ちゃんと。




休めているのだろうか、、






僕は、、また。今日から再び歩もう。




このオムライスと。メイドさんと。




ラブリーのお陰で、、。




何とか。もう少しだけ、、






頑張れる様な、気がした。














































































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超ギガンティックラブリーオムライス 影神 @kagegami

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